第29話 第二階層でのバトル――そして幼馴染エルフ・リーリエ=アリエンスの実力――!

 上がっているのか下りているのか不鮮明な階段を、言葉にするなら――狭い空間から、視界が一気に開けていく。


 そう、のだ――まだランダム生成ダンジョンの日が浅いラムなどは、思わず勘違いしそうになるほどで。


「えっ? あ、あれ、ここって……ダンジョンの外?」


「いや、二階層だぞ。ほら、天井もあるだろ?」


 即座にハークが訂正する通り、確かに見上げれば、遠目に天井は見える――が、ダンジョンの外と錯覚するほど高い位置で、しかも太陽に見える何かまで確認できた。


 何より、広い。規模としては小さな丘くらいか、しかし足元は草原のようになっているし、ダンジョン内の光景としてはあまりに異常である。


 一階層は普通の洞窟のようだった。三階層は妙におどろおどろしかったが(本日限定の特別仕様)、それでもダンジョンの体裁ていさいを保っていた。


 だが、二階層は明らかに異質――ダンジョン内でありながら、突然に屋外おくがいへ放り出されたかのような、この光景。



 そう、これが《異次元の迷宮》――まさに異次元を象徴するかの如き、超高難度ランダム生成ダンジョンの威容――!



 ラムも決して楽観視していた訳ではないだろうが、さすがに気圧けおされているのか、震える声でハークに問いかけた。


「こ、ここが……二階層なんですね。確か迷宮の難度としては、三階層や五階層より環境が厳しい、っていう。アタシ、実感しました……ちょ、ちょっと怖いですけど、気を引き締めてがんばりま――」


「いやー今日はかなり優しいほうだぞ? ほら上、あれってクロエが言うには疑似太陽らしいんだけど、迷宮内で外の感覚が味わえるからありがたいんだよな。過ごしやすいし、日光浴でもしていくか? ハハハ」


「すいませェんアタシまだ日が浅いので、そこまでリラックスできませんね~! もお~っ何なんですかっ、緊迫シリアスモードが台無しですよっ。そりゃハーク師匠にしてみれば簡単なのかもしれませんけど、アタシは緊張しまくりなんですからっ!」


「おお……そうか? 何かいつも通りのツッコミっぷりに見えるけど」


「へ? ……あ、そういえば」


 ハークの言葉通り、ラムはいつの間にか、声の震えが止まっていた。

(※〝スキル:常識的なツッコミ〟→〝状態異常:緊張〟の解除)


 まさか、とラムは頬を赤らめつつ……何かを取り出して頭に装備するハークへ、憶測おくそくの言葉を投げかける。


「あ、あのあの、ハーク師匠……アタシが緊張してるのを察して、軽口でリラックスさせてくれたんですか? あ……ありがとうございますっ♡」


「えっ? いや別に、ただ思ったコトを言っただけ(※ハークは〝おもてなしのバンダナ〟を装備した!)なんだけど、ラムがリラックスできたなら何よりだよ。緊張は体の動きを固くする、それで可愛い弟子が怪我なんてしちゃ、俺も悲しいからな(※友好・対話スキル発動)」


「は、はわわ、可愛い弟子だなんてそんなぁ……あ、ありがとうございます、ハーク師匠……♡ あと〝おもてなしのバンダナ〟も」


 ラムが照れながら、そして状況を割と的確に把握しつつ、返事すると――先に二階層へ到着していたリーリエが、どこからともなく姿を見せる。


「ハーク、ラムさん、遅かったわね。ついでだから、周囲の状況を探索して来たわ。とりあえず地面に魔物はいないみたい」


「あっ、リーリエさん、ありがとうございますっ。とりあえず魔物はいないんですね、はあ、よかったで――」


「話の途中で申し訳ないんだけど。……翼竜ワイバーンよ」


「えっ」


 突然、疑似太陽の光をさえぎるように、ハーク達の周囲に影が差し――見上げればそこには、牙を剥きだす翼竜が。


『GaaaAhhhhhhhh!!』


「ちょ、えっ……リーリエさん、魔物はいないって、さっき――!?」


「? 地面にいないとは言ったけど、空にいないとは言ってないわ」


「言葉足らずですねぇもおっ! というかダンジョン内で空とか、しかもいきなりドラゴンとか……常識も魔物の強さも、新米にはキャパオーバーすぎますよおっ!?」


 慌てふためくラム(状態異常:混乱)に、師たるハークは冷静に告げる。


「まあ確かに大きめだけど、ワイバーンくらいならこのダンジョンで出会うドラゴン系の中でも、かなり楽なほうだよ。一応、鑑定してみるか」



 ――――★鑑定結果★――――


『大食いのワイバーン』

ちから:つよい

はやさ:とべる

まりょく:なるほど

いきる:なかなか(※〝大食いの〟効果で上昇傾向)


耐性:炎

弱点:氷・雷・翼・ケツ・心臓


関係:敵対・捕食対象


※騎乗不可


 ――――★鑑定終了★――――



「う~ん前に見たフロストオーガより大らかな鑑定結果ですねぇ!」


「二階層で、〝危険度B〟ってトコかなぁ。何となくだけど危険度が高かったり、総合的に強かったり、ってヤツほど正確に鑑定できる気がするよ。まあ強くなるほど単純に知恵が高くなって、鑑定が詳細になるのか……逆に戦闘能力全振りみたいなのは、全然わからないんだけどな。そういうの、二階層と四階層には多いよ」


「な、なるほど……なるほどといえば〝まりょく〟のとこ、本当に謎ですねぇ……竜種はランクが低くても強い魔力を持つ、って聞きますけど、そんな感じでしょうか? って、わざわざ〝※騎乗不可〟って出るなら、もしかして騎乗できる魔物とかいるんですか?」


「いたとしても。………やめたほうがいい。どうせ、どんなに仲良くなったって……0時には消えてしまうんだから。…………」


「ハーク師匠の哀愁あいしゅうがすごい! や、やったことあるんですね、なんて悲しそうな横顔……はあ……慰めてあげたいですー……♡」


 わりかし呑気に会話するハークとラムだが、頭上で牙剥く翼竜は、果たして待ってなどくれるのだろうか。


『GuRuruUhhhh……GoOhhhhそろそろAhhhhhhh!』


「! ラム、下がっていろ! 襲ってくるぞ……ブレスには気をつけろよ!」


「今なんか喋りませんでした?」


「もちろん気のせいだと思う。そういう風に聞こえただけ、っていうか……まあとにかく、ワイバーンか。空を飛ぶ魔物なら、跳躍して斬りつければイイだけなんだけど……そうするとラムの守りがおろそかになっちゃいそうだしな」


「う、うう。ご、ごめんなさい、結局、気を遣わせちゃって……」


「いやあ、俺たちはパーティーなんだから、気にかけるのは当然さ。そう、パーティーだからこその役割分担――リーリエ、頼めるか?」


「ん、任せてハーク」


 ハークが問うや否や、リーリエはクルッと身をひるがえし、同時に一瞬で弓を左手に構えていた。流麗りゅうれい所作しょさで掲げられた弓は、女性が扱うには見るからに大きく、エルフらしい美しい細腕で扱えるのか心配になる。


 が、そんな心配など杞憂きゆうとばかりに、軽々かるがると弓を扱っており――リーリエが右手でつがえた矢も、これまた硬質で、何より重量感を覚えた。


 それにしても、弓を構える立ち姿の、何ともこと――戦闘中にも関わらず優美ですらあるリーリエの姿に、ラムなどは思わずほうけた声を漏らす。


「わ、あ……リーリエさん、キレイっていうか、カッコイイっていうか……弓矢を構える姿、これぞエルフって感じで――」


スウッ――――フゥンッッッ……!」


「待って待ってちょっと待ってください。気合の入り方が、何かもうエルフどころかクールキャラのそれじゃないっていうか。ってうわっ弓の弦からギュリリリッて有り得ない音が鳴ってる!? 強弓ごうきゅうってレベルじゃないですよコレ!?」


 さっき優美と表現したが、すまん、ありゃ間違いだった。


 ラムの言う通り、矢をつがえて引き絞られた弦から、空気すらきしむような異音がする。空舞う翼竜が、その異音に戸惑うも、時すでに遅し。


 ついにリーリエが、矢を放ち―――



「―――――ハツッッッッッ!!!」


「ヒエッ」



 瞬間、飛翔した矢は、少なくともラムには目視できず。

 ゴウッ、とリーリエを中心に周囲へと突風を及ぼし。


 もたらした結果は―――胴の中心部に風穴の空いた、翼竜の姿。


『Ga……Ahッ……うそやん……Guumm……』


 心の臓を射抜かれた、どころか失った翼竜が断末魔を漏らし、落下しながら宝石化する。


 辺り一面に散らばる宝石群を眺めながら、ぽかん、と口を開いていたラムが――ようやく発した言葉は。


「……いや強すぎませんかー!? エルフさんだから、てっきりテクニカルな戦い方かと思いきや……めちゃくちゃパワータイプじゃないですか!? あんな魔法みたいな威力の弓矢、見たことないですよ!?」


「? ……あれくらいなら、普通に撃っただけよ」


「このダンジョンに来てから普通ってやつを、とんと見てませんねぇ本当! 普通の意味がブッ飛びすぎなんですよ~!」


 呆然からの第一声がツッコミなラムもなかなかだが、「?」と首を傾げるリーリエに代わり、ハークが軽く失笑しつつ発言する。


「ハハハ。まあ確かに、スゴイ威力だよな。俺はリーリエほど弓を扱えないから、純粋に尊敬するよ。ちなみにリーリエの扱う弓も、このランダム生成ダンジョンの四階層で拾った装備なんだけど、鑑定してみるとさ」



 ――――★鑑定結果★――――


『アダマンタイトの源氏弓げんじゆみ

 武芸者が二~三人がかりでようやく弦を引けたという強弓。この強弓を一人で引ける猛者は讃えられてしかるべし。ゲンジバンザイ。


※基礎性能:直接攻撃力=60(殴打属性)

      射出攻撃力=矢の攻撃力+200


※〝アダマンタイトの〟効果

 攻撃力or防御力=+30%(今回は攻撃力+60) 重量=+20%



『前向きなアイアンアロー(矢筒入り)』

 鋼鉄で作られた矢。攻撃力が高く頑丈だが、通常より重い。


※基礎性能:攻撃力=+50


※〝前向きな〟効果=前向きになる(この場合、アイアンアローが)

          前方へ進行する力が増加する。


 ――――★鑑定終了★――――



「……いえまずゲンジが何なのか分からないんですけど! ていうかただでさえとんでもない強弓なのに、アダマンタイトで重さまで上がってるのに……コレ一人で引けちゃうリーリエさんのステータスって、どんだけなんですかぁ!?」


「ラム、それは……フフッ特別編でな!」


「ですから言~い~か~た~! んもーハーク師匠ってば探索が終わった後の空き時間に教えてくれるなんて、ありがとうございますぅ~~~!」


「いつも気を遣ってくれてるみたいで助かるな、ラム……! さて、まあアイテム収集をスムーズに進めるには、俺も働かないとな」


 言いながらハークが右手で〝格闘王の名刀〟(攻撃力:+120、STR・AGI:+30、格闘能力が大幅強化)を抜くと。


 リーリエもまた、見るからにいかめしい強弓を、不釣り合いなほどスラリと滑らかな背中に背負い――後ろ腰に備えていた剣を、ゆっくりと抜き放つ。


「さすがハーク、気付いてたのね。魔物、随分と集まってきたみたい」


「まあ、あれだけ派手に騒いでればな。ワイバーンの鳴き声に呼び寄せられたのかもしれないし。さて、それじゃ……二人でサクッと片付けるか」


「ええ。……ふふ、共同作業、やはり幼馴染ルートは確定、間違いなしね……」


「? よく分からないけど、やる気満々みたいだな……じゃあ、行くぞ!」


「任せて。ふう……――――シャアッッッ!!」


 言うが早いか、ハークとリーリエが剣を振り上げ、同時に駆けだすと――言葉通り、いつの間にか忍び寄っていた魔物の群れと戦闘を開始する。


 会敵するたび、叩き切りハック斬り裂くスラッシュ、ハークとリーリエ。


 幼馴染というだけあって、息の合ったコンビネーションに――まだ経験の浅い少女剣士ラムは、置いてけぼり気味になりながらも。


「………いやエルフ近接戦闘もいけるんですかーーーいっ!」


 それでもしっかり自分の仕事ツッコミ(?)は、こなすのだった―――

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