第28話 ハーク+ラム+リーリエの三人で、パーティー結成! ~三階層から二階層へ~

 リーリエが新たな同居人として決定し、朝食も終えた頃に、ハークが本日の予定を口にした。


「さて、クロエはリーリエの部屋を作るため、自室にこもってるし……俺たちも邪魔しないよう、ダンジョンへ探索にでも出ようか。セーフティールームでジッとしてるのも何だしな。今日の目標は二階層と考えてるんだけど……リー」


「なに? ハークの最大の理解者たる幼馴染の私に聞きたいことでも?」


 名前を呼ぶより早く、食い気味に早口で問い返すリーリエ。だがハークもハークで特に戸惑うこともなく、普通に話を続ける。このひとたち変だよ。


「今日は二階層の様子、どうだった? 暑いとか寒いとか、環境が厳しそうなら、ラムのためにそれなりの準備が必要かもだけど……」


「二階層は、確か……うん、今日は魔物がちょっと強めの日って感じで、環境はそうでもなかったわ。マグマとかも見当たらなかったし、凍てつくほどの寒さってわけでもなく。ちょっと風が強かったかな、っていうくらい」


「そっか。二階層の魔物が強い程度なら、稼ぎ時だな。俺の装備も昨日と同じで、平気そうだ。よーしラム、今日こそ少しでも、何か装備を手に入れような!」


「! わわっ、きょ、恐縮ですっ……あ、アタシも少しでも足を引っ張らないよう、がんばりますから……よろしくお願いします、ハーク師匠!」


 慌てて返事するラムに、続けてリーリエも発言した。


「私も、一緒に付いていくわ。セーフティールームで待機してても仕方ないし、久々にハークと一緒に探索したいし……それに探索は得意だから、ラムさんの装備? っていうのも、一緒に探してあげる」


「リーリエさん……い、いいんですか?」


「ええ。別に、遠慮しなくていいわ。まあ、何て言うか……」


 つい、と視線を逸らしながら、普段のクールさを少し崩して、リーリエは照れくさそうに人差し指で頬を掻く。


「幼馴染や、未来の妹はいるけれど……友達は、ラムさんが初めてだから。人付き合いに疎くて、友達とか今までいたことないし」


「でしょうね(えっそうなんですか、意外ですっ)……はっ間違えた逆でした!」


「ええまあ、ずっと森に住んでたし、ハークと出会うまでは他人に興味もなかったから。で、ラムさんは何を慌ててるの?」


「いえいえいえいえ何でもないですとも! うふふ初めての友達なんて恐縮です! これから人付き合いの練習とか、していきましょうねっ♡」


「ん、それ必要? まあ共同生活するなら、そういうものなのかしら……じゃ、お願いしようかしら」


 クールといえばクール、コミュ力が欠けているだけといえばそうかもしれない――そんなリーリエの無頓着に感謝しつつ、ラムは更に物思う。


(うーん、クロエちゃんといいリーリエさんといい、このダンジョンで出会ったの……ぶっちゃけコミュ力が壊滅的な方々ばかりですね。いえまあ住んでる場所が場所ですし、そういうものかもしれませんが……よし、アタシがもっと頑張って、皆さんのコミュ力を育まなくては……ハーク師匠のためにもなりそうですし!)


 何やら妙な使命感に燃える、ハークの弟子・ラム=ソルディアであった。


 そんな少女の決意を察せられるはずもなく、壊滅的なコミュ力とお墨付きを頂いたリーリエが、気にせず行動を始めようとする。


「じゃあそういうわけだから、よろしくね。三階層から二階層への道のりは把握してるから、私が先導するわ。それじゃ、行きましょ」


「えっ。……いえちょっ、装備が……アタシ装備がまだですからっ! す、すぐ準備するので、ちょっと待っててください~っ!?」


「あ、そう。……そういえばそうね、気付かなかったわ。ハークは話してる間に準備を終えてたから、てっきり。私ったら、うっかりさん」


 リーリエの言葉通り、ハークは昨日と同様の装備を着用済みで――ラムは自室に飛び込み、慌てて装備を整えるのだった。



 ◆        ◆        ◆



 超高難度ランダム生成ダンジョンの、第三階層――だが、既にセーフティールームまで踏破しているリーリエのおかげもあって、あっという間に二階層への階段前に辿り着いてしまった。


 とんとん拍子にも程がある進行に、ラムが少し気の抜けた声を発する。


「わ、わぁ~……一階層も逃げ回るしか出来なかったアタシが、第三階層を歩けちゃうなんて……リーリエさんの先導が的確なおかげでしょうけど、アタシ何だか、すごく貴重な経験してる気がしますっ」


『オオオオオオ……』『アアアアアア……』


「壁とか床とかの、うめく顔とかはすごい気になりますけど……」


 普段は安定した環境らしい第三階層だが、《異次元の魔女》が越してきた今日に限っては、なかなかホラーじみた雰囲気であった。道の端には軽はずみなほどにマグマも流れているし。


 さて、改めて第二階層へ……と階段を見たラムが、途端に疑問を呟く。


「あれっ? 第二階層への階段って……下へ向かってるんですか? イメージでは一階層ほど上で、五階層ほど下……って感じだったんですけど――」


「ああいや、だから。は、よ」


「地味に分かりにくくないです?」


「地味に分かりにくいよ。場合によっては次の階層も前の階層も、上向きの階段で揃ってたりするし。ちゃんと構造を覚えてないと混乱するぞ。まあでも、階段を進めばちゃんとその先の階層に続いてるから……多分、次元がゆがんでるんじゃないかな。だから俺は五階層の深層方面へ行くコトを〝奥へ行く〟っていう風に言ってるよ」


「な、なるほど、一階層が浅くて、五階層が深い、って感じなんですね……改めて、このランダム生成ダンジョンで慣れるほど暮らせてて、ハーク師匠ってすごいんですねぇ……毎朝起こしにきてたっていうリーリエさんも、相当ですけど」


 感心に呆れが混じっている気がする、そんなラムに、ハークは改めて気を引き締めるように告げる。


「まあ俺やリーリエは、確かに色々と慣れてるけど……それでもランダム生成の結果によっては、危険だったり相性が悪かったり、っていう魔物と遭遇するコトもある。特に二階層や四階層は、攻撃的な魔物だらけだからな……俺も、きっとリーリエも、ラムを守るつもりだけど、自分でも気をつけるんだぞ?」


「は、はい! 大丈夫です、アタシだって新米でも冒険者、がんばって付いていきますっ。でも超高難度のダンジョンで無理なんてしたら、十中八九、足を引っ張っちゃうので……決して無理はしないよう心がけますねっ」


「自分をわきまえててエライな、ラム。さて……リーリエはとっくに二階層へ行ったみたいだし、俺たちも追いかけようか」


「えっ……うわ本当だリーリエさんいない!? パーティー行動に難ありですねぇ、全く気付きませんでしたし……」


「まあリーリエは隠密スキルが得意だからな、俺なんて寝てたら起きるまで気付けないくらいだし……っと、喋ってないで行くか」


「はい! ……にしても階段、やっぱ違和感ありますねぇ~……一応、慎重にくだって……あれ、のぼってるんでしたっけ、今? あれ、あれー?」


 先を進むハークの背にしがみつきながら、ラムも階段の違和感に首を傾げつつ、二階層へと進んでいく―――………。

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