第27話 セーフティールームに――よ、四人目の同居人、参戦!?

「いやまあ、朝食として適してるなって思うのは、完全にラムのピザトーストだと思うんだけど。胃にも優しめだし」


「がーん」


 ハークの割と常識的な判断に、本当にショックを受けているのかどうか分かりにくいリアクションを示す幼馴染エルフ・リーリエ。


 が、ハークの言葉はそこで止まらず、続けて〝ローストビーフのサンドイッチ〟に言及する。


「でもリーリエの料理も、さすがだよな。あっという間に作っちゃえる手際といい、ソースまで自家製でしかも間違いなく美味しいなんて、尊敬するよ。俺は料理スキルの付く装備でもないと、料理できないからな……まあそれにしても〝朝から重いな〟って気持ちは揺るがないんだけど」


「! ハーク……そんな、美味しいだなんて私、嬉しい……それに尊敬なんて、これくらい幼馴染なら当然だもの」


 ハークの愚痴っぽい後半は聞こえていなかったのか、頬を赤らめて照れるリーリエ。なかなか都合の良いエルフ耳ですこと。


 とにかく、突発的な料理バトルを終えて、ラムがリーリエに声をかける。


「リーリエさん……今回は、痛み分けということでどうでしょう? 朝食としてはアタシのピザトーストかもしれませんけど、リーリエさんの技術は本当にすごかったです……正直、尊敬しちゃいますっ」


「ラムさん。……いいえ、あなたの方こそ、よ。これがあくまで〝朝食である〟ことを忘れず、適切なメニューを選んだのは、見事……それに比べれば私は、判断ミスだったわ(〝軽はずみのエプロン〟=判断力低下)。それに、何より……この大一番で★10を引くなんて、凄いわ……!」


「★10はですねぇ、評価ポイントとして全然嬉しくないんですけどねぇ、完全に運次第ですし。あと別に今、大一番でもないと思いますし……まあそれはそれとして、えへへ、リーリエさん、今度アタシにもお料理、教えてくださいねっ♪」


「ふっ……構わないわ。結果はどうあれ、私達は戦いを経た同志……料理だって、決して私を上回らない程度になら、いくらでも教えてあげる」


「そこは気持ちよく受け入れて欲しかったんですけど、逆にめっちゃ正直な人(※エルフ)なんだな、と前向きにとらえることにします。では改めて……これからよろしくお願いしますね、リーリエさん!」


「ええ、よろしく、ラムさん」


 今、激戦(料理バトル)を経て握手を交わし、女同士の絆がつむがれた――!


 それにしてもツッコミつつではあるが、なかなか尖った言動のリーリエを見事に受け入れてしまったラム。少女剣士の適応力は、どこまで成長するのか――!


 何はともあれ、力強く握手を交わす二人を、ハークは〝もぐもぐ〟とマイペースにピザトーストやらサンドイッチやらを食べながら眺めて。


「何かよく分からんが、仲良くなれたみたいだな……とにかくヨシ!」


 非常に大らかに、あるいはくるおしいほど雑に、そう結論付けるのだった。


 とにかくこうして、大団円……と思いきや、リーリエの話はまだ続き。


「ところでラムさん。……朝にハークの部屋に入ってきた時の状況を考えるに、あなたはランダム生成ダンジョンを踏破してやって来た訳ではないわよね? ということは……このセーフティールームで、ハークと一緒に住んでるの?」


「えっ。は、はい……一昨日くらいからですけど、お世話になってます。えっと、それが何か……?」


「ふーん。……なるほど、道理で部屋が二つ増えて……一つがラムさんの部屋とすれば、もう一つは……なるほど」


 何か納得しているのか、リーリエが呟くと――話に上がった一つ、《異次元の魔女》ことクロエが使っている部屋の扉が開き。


「う~ん……なんかいいにおい、するぅ……ハーク兄さん、ごはん作ったの? もしかしてラムちゃんが――」


「―――クロエさん、おはよう」


「えっ。………―――ふぎゃーーーーっ!? りりりリーリエさん!? ひいっ……きょ、強制退去魔法――」


 何やら悲鳴を上げたクロエが、魔法を発動しようとする――その一瞬の間隙に、リーリエは目にも止まらぬ速度でクロエの背後を取っていた。


 魔法を発動しようとしていた手もあっさり拘束し、完全に動きを封じる。なにこのエルフ、暗殺者アサシンか何か?


「ふ、ふへぇっ……!? うう、なんでリーリエさんがここに……うう、寝起きで装備がパジャマなのが、アダになったぁ……」


「く、クロエちゃん、大丈夫ですか? ……あ、ハーク師匠とリーリエさんが幼馴染なら、クロエちゃんとリーリエさんも、そうですよね」


「いやまあ、実家がランダム生成ダンジョンになる前からの知り合いだけど……ラムちゃん、冷静に分析してないで、助けるとかしてくんない……!?」


「いや~、リーリエさんの目的もよく分からないですし、でも義理とはいえハーク師匠の妹さんに危害は加えないでしょうし……一先ず〝けん〟に回ろうかなって」


「ち、ちっくしょ~ぅ……順調に判断力をつちかっちゃってぇ~……新米ながら、なかなかの成長力じゃないのさ~……!」


 変な感心の仕方をするクロエに――彼女を拘束するリーリエは、ひたすらマイペースに語りかける。


「クロエさん……未来の妹のあなたに、お願いがあるんだけど」


「いえあの……未来の妹とかでは……ないんですけど……」


「ラムさんのために、このセーフティールームに部屋を作ってあげたのよね?」


「人の話、聞かないしぃ……なんかすごい、するしぃ……」


「私にも一部屋、作ってくれるかしら?」


「はい、きましたぁ~……いやな予感、的中~……いえその、部屋を作るの、実はすっごい大変でぇ~……む、難しいかな~、ってぇ~……」


「少なくとも昨日の朝には存在しなかったラムさんの部屋が、今は出来ている……ラムさんは一昨日にハークと出会ったという話だし、なら部屋を作るのに、一日もかかっていないわよね。それを踏まえて、重ねてお願いするけど……クロエさん、私の部屋も作って?」


「なんて……冷静で的確な計算なんだ……こわいよう……うう、わかったから、わかったから離してぇ~……」


こころよ受諾じゅだく、感謝するわ……さすが私の未来の妹♡」


「ううぅ……未来の妹ぢゃねーし……」


 ようやく解放されたクロエだが、どうにも憔悴しょうすいしており、何だかしわしわな渋い表情の気がする。


 と、二人の様子を〝見〟の姿勢で見守っていたラムが、ハークとヒソヒソ話をした。


「……あのあの、ハーク師匠。あのお二人、そこまで仲が悪いわけじゃなさそうですけど……もしかしてクロエちゃん、リーリエさんが苦手なんです?」


「ああ、うーん、どうだろうな……まあクロエも桁外れの魔力の持ち主だけど、運動不足だからかフィジカルは子供の頃から大して成長してないからなあ。一方、リーリエは深層の魔物とさえガチでやり合って撃破できるくらいだし、クロエが魔法を使う前に動きを封じれるワケだから。クロエに取っちゃ、リーリエは天敵みたいなモンなんじゃないかな、ハハハ」


「義理の妹さんの天敵っていう話、笑いごとにしちゃっていいんです? う、うーん、なんだかなぁ……まあでも、新しく部屋が出来るっていうことは……」


 つまるところ――耳だけでなく言動も尖った、なかなか個性的なエルフ、〝ハークの幼馴染〟を職業として公然と自称する、リーリエ=アリエンスが。



「外の家には大してモノも置いてないし、すぐにでも嫁入り……ゲフン。

 ………今日から同棲できるわ。よろしくね、ハーク♡ あと、その他」



「おっその他ってアタシやクロエちゃんのことですかねぇ? どうにもヤベー人々ばっかで不安な共同生活になっちゃいましたが、かといってハーク師匠のことじゃ負けませんよウラウラーッ」


 ラムのツッコミも、なかなか先行きの不安さを示している気はする、が。


 とにかくこうして、超高難度ランダム生成ダンジョン(ハークの御実家)のセーフティールームに、四人目の同居人が加わることとなったのである――!

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