第25話 リーリエ=アリエンスの職業は……〝ハークの幼馴染〟!?
さて、改めてハークの部屋にて、正座して向かい合う三人……いや。
正確にはラムの対面で、ハークの右肩にほぼ密着している、リーリエと呼ばれたエルフの美女。これには少女剣士も若干キレ気味――!
だが、ハークは相変わらずのマイペースで、特に空気も読まず紹介する。
「ラム。こちらはリーリエ=アリエンス、うちの実家(山間部のランダム生成ダンジョン)のお隣さんで、幼馴染のエルフなんだ」
「お隣、どこからどこまでなんですか? ダンジョンの外、めっちゃ山なんですけど……って、とにかくモンスターとかじゃなく、ハーク師匠のお知り合いなんですね? えっと、はじめましてリーリエさん。アタシ、つい最近ハーク師匠に弟子入りした、ラム=ソルディアといいますっ」
ツッコミながらも明るく自己紹介するラムに、正座しつつもハークの方へ重心を預け、もうぶっちゃけ寄りかかっている
「ふーん。じゃ、改めて……私、リーリエ=アリエンス。別に呼び捨てでも構わないけど、好きにしていいわ。よろしく、ラムさん」
「は、はい、じゃあさっきの通り、リーリエさんで……えっと、何だかすごくクールな方なんですねぇ。雰囲気といい、
「違うわ」
「あっ、そうなんですか? し、失礼しました、それじゃ一体……」
「ええ。私は……」
そこでようやくハークに重心を預けるのを中断し、ふっ、と片手でライトグリーンの長髪をかき上げつつ、明かした〝職業〟とは――
「〝ハークの幼馴染〟よ」
「いえあのそういうんじゃなく。職種っていうか、ジョブっていうか――」
「だから、私の専門職は〝ハークの幼馴染〟よ。もう少し正確に言うなら……〝ハークの幼馴染ルート絶対確定、敗北など知らぬ派ヒロイン〟よ」
「もしかしてヤベー人です?」
「別に。本当のことを当たり前に言っただけよ」
「そう、そうですか……やっべーですね……すいません、ルートとかはよく分からないので、もう〝ハークの幼馴染〟という認識で結構です」
「そ」
発言内容はともかく、クール、仕草や言動はとにかくクール。
何はともあれ〝職業:ハークの幼馴染〟と納得するしかないリーリエに、ラムは改めて疑問を投げかけた。
「それで、ええと……どう考えても触れないわけにいかないので、聞きますね。……ここ、超高難度ランダム生成ダンジョンだと思うんですけど……三階層にあるハーク師匠のセーフティールームまで、どうやって来たんです?」
「普通に歩いて」
「いえですから、熟練冒険者でも一階層すら攻略できないのに、どうやってって……というか、三階層も越えてきたんですか? まだ日が浅いアタシが言うのも何ですけど、えらく様変わりしてたと思いますけど……」
「ええ、まあ。……ああ、魔物とかのことなら、必要があれば薙ぎ倒して通るけど。あと確かに、この階層いつもと違って、珍しく攻撃的だったわね。私やハークには問題ないレベルだと思うけど」
「え、ええ~……問題ないって、やっぱり強いんです……? 何かもうここ最近、外じゃ知られてない実力者に出会いすぎて、アタシの価値観がしっちゃかめっちゃかになってるんですけどぉ……」
まだまだ常識人(だと思う)のラムが頭を抱えると、言葉足らずのリーリエの代弁をするように、ハークが補足する。
「ああ、リーリエは実際に強いぞ~。単純な力とかなら俺のほうが上だろうけど、リーリエは素早いし、隠密スキルも優秀だからな。それで毎朝起こしに来てくれるモンだから、結果的に強くなっちゃったんだろうな!」
「な、なるほど、そういう―――はい? ……あのあの、聞き違いだと思うんですけど……毎朝、起こしに? この超高難度の、ランダム生成でいちいちダンジョンの構造が変わる御実家に、毎朝?」
「ん? ああ、まあ厳密には〝ほぼ毎朝〟だけどな、来ない日もたまにはあるし。しかも一年前にダンジョンの入り口が見つかるより、ずっと前からだからな……どうやって入り込んできてたのか、よく考えたら謎だったよ。ハハハ」
「笑いごとです? というか、ええと……シンプルに、何のためそんなことを?」
「それは俺にも分からないけど」
「分からないんですか」
当事者であるハーク自身も分からない、謎の行為を繰り返す――その張本人、リーリエが主張の激しい大きな胸を張りつつ、自信満々に答えた。
「そんなの、当然――幼馴染なら、毎朝起こしに来るのが定番でしょ?」
「そんな謎のシチュエーションのためだけに、この超高難度ランダム生成ダンジョンを踏破してこれます!? しかも、ほぼ毎朝って! 当たり前みたいに言ってますけど、やべー人ですねぇやっぱり!」
「へえ、そんな定番が外の世界にはあったのかー……何か、かたじけないな!」
「ええ~いハーク師匠の世間知らずに付け込まれてる気がする! 本気にしちゃダメですよ、そんな定番、本とかでもないと滅多にありませんからね!?」
リーリエとハーク、双方へと果敢にツッコんでいくラム。
とはいえリーリエにも疑問はあるらしく、ラムへと尋ねるのは。
「ところで。ラムさん、あなた……ハークに弟子入りした、って聞いたけど。昨日の朝、いなかったのは……一緒に探索でもしてたのかしら?」
「あ、昨日も来てたんですねぇ……入れ違いになったのかな。それで、はい、その通りです。えへへ、パーティー組んで、ハーク師匠にはお世話になりっぱなしで――」
「ふーん、そう。……ちなみに私、昔から何度か、ハークの探索を手伝ってるわ。つまり私のほうが、ハークとの付き合いは圧倒的に長いし……新参のあなたと違って、色々と経験してるということよ」(※パーティーの話です)
「貴様ッ……!」(※ラムちゃんです)
「そして。……初めての(※パーティーを組んだ)相手も、私……ハークの初体験(※パーティーの)は、あくまでも私だということを覚えておいて」
「貴様ッ……!」(※元・貴族、16歳の快活な少女剣士ラムちゃんです)
なぜだか一触即発の空気になっている、ハークの幼馴染エルフであるリーリエと、ハークの弟子であるラム。
そんな二人に挟まれて、一触即発の原因となっているハークが、その時!
――〝ぐぅ~〟とお腹を鳴らして。
「! ……ハーク師匠ったら、お腹がすいちゃったんですか? うふふ、かわいいです♡ ここは一つ、家事スキルB持ちの弟子、ラム=ソルディアが朝ごはんを用意して――」
「やれやれ、家事スキルB程度でハークの胃袋を掴もうなんて、甘いわね……いいわ、見せてあげる。正妻ルート確定の、幼馴染の腕前を」
「貴様ッ……!」(※ピンク髪が可愛らしいツッコミ上手のラムちゃんです)
何だか変な火花を散らしている二人に、ぼんやりと眺めていたハークは。
「……何だかよく分からないけど、俺に朝ごはんを食べさせてくれるっていう話なのかな。改めて、かたじけないな、なんかな」
一人、呑気に呟くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます