第21話 思いがけず三人目の同居人★(ラスボス) ※二章ラスト

 さて、三階層の(想定外の)ランダム変化を見届けた師弟は、そろそろ夜も更けているし、とハークの部屋であるセーフティールームに戻り。


 ダイニングにて、ふとラムが違和感を覚える。


「あれ? 何だか部屋の構造が……えーと、真ん中の奥がハーク師匠の部屋のリビングで……あれっ、左右にも部屋ってありましたっけ?」


「うん? ……いや、俺にも覚えが無いな。まあずっと住んでる部屋だし、当然わかるけど……リビングは一つだけのはずだ。1LDKだし」


「その呼び方は、まだ慣れませんけど……でも、そうでしたよね? じゃあちょっと、左側の部屋に失礼して……わっ、ちゃんとしてる。ほとんど何もないから空き部屋みたいですけど……あっでも、ベッドはありますね?」


 不可思議な事態に、ハークが得心とくしんいったとばかりにパチンと指を鳴らした。


「そっか……俺が昔、このセーフティールームを用意してもらった時と似てるんだ。ってコトは恐らく、クロエがその部屋を用意してくれたんだと思うぞ。そう、他でもない……友達であるラムのために!」


「! わ、わあっ、ほんとですかっ? 個人的には〝ハーク兄さんと一緒の部屋で寝るなど許さぬ〟というクロエちゃんの意図が見えた気はしますが、前向きにとらえるため積極的に無視するとします。えへへ、クロエちゃん、ほんとにアタシを認めてくれたのかな……♪」


 さすが〝ランダム生成ダンジョンが実家の長男〟というハークに、おくさず初日で弟子入りしたラムだ。その適応力、尋常にあらず。


 何はともあれ、こうしてハークの一人暮らしだったセーフティールームに、新たな部屋が出来て――ラムとの共同生活の体制が整った、と――


 思いきや右側の扉がガチャッと開き――!


「ちわーっす……ハーク兄さんの愛するでぇ~す……数時間前にきました、えへへ、これからよろしくねぇ、ハーク兄さん……♡」


「ウオッあっ変な声が出ちゃった。コホン……きゃあ!? く、クロエちゃん!? えっちょ待っ、越してきたって、一体どうやって……!?」


「メスネコ……あっ間違えた。コホン……うん、ラムちゃん。今まではハーク兄さんが、わたしの部屋に尋ねにきてくれるの、なんか構われてる感あって嬉しかったけど……メスネコ、あっ間違えたお弟子さんが同棲だの同居だのするとかの話を聞いたら、類稀たぐいまれなる危機感に身を焦がされて……つい異次元イジっちゃった、ふひひ★」


「言葉の節々ふしぶしから複雑な感情が窺える! え、ええ~っ……というか、この《異次元の迷宮》の主なのに、五階層にいなくて良いんですか?」


「うん、まあ別に……いいんじゃない? わたしがダンジョン内にいる限り〝異次元の魔力〟はちゃんと保たれるっぽいし……五階層に住んでたのが三階層に移ったって、どうせ今まで、冒険者とか来たこともないし……」


「ああまあ、このダンジョンが五階層ってことすら、外には知られてないくらいですしねぇ……ってまさか、さっき三階層の構造がとんでもないことになってたのって、クロエちゃんが引っ越してきたからとか?」


「なにそれ、知らん……こわっ……まあでも、わたしの気持ちが落ち着いたら、明日にでもいつも通りになってるんじゃないかな……?」


 やはりある程度、クロエの感情がランダム生成に影響されることもあるのだろうか。軽くおののいていたラムが、一つ気になったことを口にする。


「あっ、そういえば……引っ越してきたっていうことは、あの……門番みたいだった、えーと……〝闇〟さん? って……」


「〝闇〟は五階層の部屋に置いてきた……はっきり言って、共同生活には向いてそうにもない……」


「ああ、英断で助かりますー……さすがに普段から正気度を下げられると、ちょっとその、怖いので」


「ふ~ん……状態異常の耐性が低いんだね、ラムちゃん……まあとにかく、念のためと言っちゃなんだけど、わたしの代わりに〝異次元の魔神〟とか召喚して置いてきたし……まあ最下層のボス部屋っぽい雰囲気は、保ててるんじゃないかなぁ……」


「いいんですか、そんなヤバそうなの呼んじゃって」


「いいんじゃないかな……どうせ、冒険者とか誰も辿り着けないだろうし……」


「う~ん、いいのかなぁ……まあダンジョンの主のクロエちゃんが言うなら、きっと大丈夫なんでしょうけど」


 少し気にはなっているらしいラムだが、無理やり納得したようで――話が落ち着いたタイミングで、ハークが締めくくるように告げる。


「―――よしっ! とにかくクロエも、これからはこの部屋で共同生活ってコトだな。いや実は前から勧めてたんだけど、なんでかよく分からんが決心してくれたみたいで良かったよ。まあ今日はもう遅いし……少しだけ腹に入れてから、休むコトにしよう。ちょうど今日、収穫できた食べ物もあるしな」


「うんうん……ハーク兄さんに、賛成♡ ねえねえ、何が拾えたの……?」


「〝猪突猛進のステーキ〟(STR=+10、AGI=+10、ステーキの)」


「わあ。……〝猪突猛進の〟ってなに?」


(ダンジョンの主であるクロエちゃんが、ピンときてないご様子。……にしても、アレですかね、猪か何かが、こう……火の中に突進! そのままステーキ! みたいな……想像するとシュール、シュールですけど……フフッ)


 クロエが首を傾げる一方、ラムが心の中でツッコみつつ、ややウケする中――ハークが手際よくステーキを三人前に切り分けて。


 何はともあれ、こうして。


 ランダム生成ダンジョンが実家の長男ハーク=A=スラストと。

 そんな彼女の弟子となった、少女剣士ラム=ソルディアの共同生活に。



 新たに《異次元の魔女》クロエ=W=スラストが加わることとなった――!



 ランダム生成ダンジョンの内部という奇特な場所で、なおかつ奇妙な関係ではあるが、これはこれで上手くやっていけそうにも――


「もきゅ、もきゅ。……う~、あったま痛いぃ~……引っ越しで、ムリしすぎたかなぁ……うー、あー……」


「もんむ、もんむ。……あのあの、クロエちゃん脳、焼き切れてません? ほんとに大丈夫です?」


「う~ん、しょうがないよ……ハーク兄さんの貞操を、メスネコに好き放題させるわけには、いかないしぃ~……おおっと口が滑っちゃったぁ~……」


「オッオッやるんですかオウオウ。相手が《異次元の魔女》だろうと義妹だろうと、師匠のことでは譲りませんよオラオラーッ」


「ラム、クロエ、ちゃんと仲良くしろよ~」


 ……………………。


 上手くやっていけそうである!!(力で押し出せ押し出せ~!)

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