第20話 セーフティールームへの帰還、そして――少女剣士ラムは、最後に一つ装備を手に入れた!(良かったじゃない!)

 宝玉――即ち少し前に挨拶に行った《異次元の魔女》であるクロエから預かったというで、瞬間移動して。


 ハークの住居たるセーフティールームに瞬間移動し、玄関の内側でラムが呟く。


「わわっ。ハーク師匠に招き寄せられるのは満更まんざらでもないですけど……ワープの感覚は、まだ慣れませんねぇ。ふらっとしちゃいます。……あ、そういえば、五階層はあんな感じでしたけど……この部屋の外、三階層はまた違うんです?」


「うん? ああ、そうだな……一階層ごとに、割と特徴に傾向があるよ。たとえば一階層は洞窟みたいな雰囲気で、二階層や四階層は地形そのものが危険だったりするんだけどさ。三階層はクロエが頑張ってくれてるのか、比較的だけど過ごしやすい感じが多いな。まあ詳しいコトは〝特別編〟ででも説明するとして」


「メタい言い方しないでくださいよ。ああもう、後で合間の時間に説明してくれるなんてハーク師匠は親切だな~助かりますぅ~!」


「なんか気を遣わせちゃったみたいでゴメンな。まあとにかく、玄関の先はしっかりダンジョンだから……0時になる前に、試しに見てみるとイイ。ついでに0時になったらランダム変化するコトも、実際に見て体験してみようか」


「は、はいっ、ハーク師匠っ。えへへ、あのあの、ちゃんと師弟っぽいですよねぇ、アタシたち♡」


「他の基準を知らないから何とも言えないけど、ラムが満足なら何よりだよ。っと、0時になる前に……よし、開くぞ」


 言いながらハークが玄関の扉を開く、と――確かに、そこにはダンジョンの光景が。ただし石造りの通路に松明が適切に配備されていて、何処かの砦を思わせる雰囲気だ。


 五階層から禍々しい装飾を排除した感じ、とでも言うべきか。何にせよ確かに環境が良好で、ラムは感嘆の声を漏らす。


「わあ~……確かにダンジョン内とは思えないほど、整備された環境ですねぇ……洞窟っぽかった一階層とも全然違いますっ。もしかしてコレ、クロエちゃんが意図的に生成してくれてるんじゃ?」


「ん~、本人に聞いたコトあるけど、あくまでランダム生成なんだってさ。意識して変えようとすると大変らしいから。でも俺の印象じゃ、明らかに階層ごとに違いが出るくらいだし、少なからず無意識に作用してる部分もあるんじゃないかな」


「な、なるほど……ちなみに意図的に変化を及ぼそうとすると、どれくらい大変なんです?」


「脳が焼き切れるくらいって言ってた」


「絶対に無理させないようにしましょうね~!」


 ちょっぴりクロエのことが心配になるラムに、ハークが軽く失笑しつつ、一旦扉を閉める。


「ははは、分かってるって。まあクロエだって滅多なコトでもない限り、ランダム生成の仕組みに無茶な介入はしないから。っと……喋ってる間に、ちょうどよく0時を回ったな。よーし、それじゃどんな風に構造が変化しているか、確認してみよう!」


「は、はいっ! ちょっぴりドキドキしますねっ♪」


「まあ三階層は基本的に安定した環境だから、そんなに大きな変化はないはずさ。そう緊張せず、安心して―――………」


「? ハーク師匠、どうしました? 外がどうか……………へあっ」


 ハークが開いた玄関の先を見て、つい変な声を漏らしてしまうラム。

 それもそのはず、ランダム生成で変化した、ダンジョンの構造は。


 先ほどの洗練された石造りの通路は、どこへやら――まるで荒れ地のような凸凹でこぼこの床に、朽ちかけた土壁。しかも壁や床の所々には、怨念のような人面が『オオオオ……』とうらめし気な声を上げていた。


 何なら軽くマグマも流れている、イメチェンしすぎにも程がある三階層の様子に、ラムは軽く身震いしつつハークを見て。


「……あ、あのあの、ハーク師匠……こ、これって……?」


「……安心して……イイはず、だったんだけどな?」


「クロエちゃんの脳、焼き切れてません?」


「どうかな、どうだろ……偶然であって欲しいトコだけどな……」


 偶然かな……そうかな……そうかも……。

 ちょっぴり悩ましい光景に、ラムが気落ちした声を漏らす。


「うう、心当たりがあるとすれば……、ですよね。やっぱり突然ご実家に乗り込んだりして、怒ってるのかなぁ……そもそもアタシ、よく考えればダンジョン探索に来てたんですもんね。ご実家と知らなかったとはいえ……家主さん(?)からすれば盗賊みたいなもので、歓迎されないのも当然ですよね……」


「ラム………ん? ……ッ! ……フフッ、ラム、みたいだぞ。ほら……あそこに落ちているアイテムを、見てごらん」


「え? ハーク師匠、アイテムって……えっ。あ、あれって――!」


 ハークが指さす先、何だか禍々しく変貌した三階層の床に落ちている、ランダム生成されたのだろうアイテムの正体は―――………。


 


 ……熟練の冒険者でさえ一階層も攻略できない、超高難度ランダム生成ダンジョンの、三階層の床に。



 下着が―――が、無造作に落ちている―――



 それを見て、ハークが〝フフッ〟と鼻の下を人差し指で擦りつつ、なごやかに告げた。


「女性用の下着なんて、十年以上も過ごしてきて、一度も落ちているのを見たコトがない……今この瞬間が、初めてだ。ラム、クロエは決して、キミを受け入れていないワケじゃない。これが、その証拠さ……!」


「なんか感慨深そうなところ申し訳ないんですけど、アタシはコレを歓迎の証として解釈して良いものなんでしょうか?」


「さすがに俺が拾うのは、気が引けるからな……さあ、ラム」


「ア、ハイ。まあ正直、替えの下着とかはありがたいから、拾いますけど……なんかな、これからこのダンジョン、下着が落ちてることもあるのかな……すごい申し訳ないことした気がするな、超高難度ダンジョンに……あ、拾いました」


 自然体のツッコミを呟くと共に行動、冒険者としてはともかく、間違いなくツッコミスキルは向上している彼女に。


 ハークがお決まりの鑑定スキルを使おうとする、が。


「よし、じゃあ。………うーん、ラムが手にしている下着を凝視して鑑定するとか、何とも居たたまれない気がするけども……」


「まだアタシコレ拾っただけですから。厳密にはまだアタシのじゃないですから。ていうか気にしないようにしてたのに、そんなこと言われたら、アタシまで居たたまれなくなっちゃいますよ、もうっ(状態異常:羞恥心)」

※羞恥心=軽度の混乱、視野狭窄、微かな高揚、魅力+10


「まあ、それもそうか。じゃ、今度こそ―――」


 そうして気を取り直したハークが鑑定した、その結果とは。



 ――――★鑑定結果★――――


×防壁のパンツ×

↓ラムさんから即座に訂正が入りました↓


『防壁のショーツ(白)』

 女性用のシンプルな下着。呼称は個々人の認識や好みによって変化する。好きに呼びなはれ。


※防御力=0.5 隠しかわいさ=60


※〝防壁の〟効果: 常時〝バリア〟付与。

※バリア=常に攻撃力50以下の攻撃を無効化する防壁。


※ハークより補足説明

「つまりフッこの場合、こ、股間を中心にバリアがンフッ展開される感じに……ンフフッ!」


 ――――★鑑定終了★――――



「ヘイお師匠お師匠、ウケてんじゃねーですよ。〝伝説のナイフ〟を持つこの手が震えて滑っちゃいそうですよ?」


「ごめんラム、本当にごめん。まあでも何だな、さすがラムのLUKというべきか、随分と高性能の二つ名だな。他の装備と違って重量を気にしなくてイイ下着なのに、パッシブでバリア効果が付くなんて破格の性能だぞ!」


「う~んコレ、アタシのLUKが原因かぁ……? 深くは言及しませんけどぉ、な~んかクロエちゃんからの言外の意図を感じる気がするんですけどぉ~……深くは言及しませんけどねぇ?」


 ンフフッ。


 ……さて、五階層の探索では、残念ながら装備は手に入らずに終わったが。


 随分と様変わりした、三階層にて――少女剣士ラム=ソルディアは、めでたく新たなる装備(部位:下着)を手に入れたのだった――!


「フフッ……良かったな、ラム!」


「素直に喜べないんですよねぇ、なんかな~……なぁんかなぁ~!」


 まあまあ複雑な乙女心はあるようだが、まあでも良かったじゃない!(なっ!)

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