第19話 ランダム生成アイテム〝魔法のスクロール〟編★(五階層限定)

「はあ……今日の収穫は微妙だったな……まあでも、少しは持ち帰るモノがあるだけ、いつもよりマシな方か……」


 ランダム生成ダンジョンに慣れたハークの鋼メンタルでも、さすがに立ち直れていないようで――ラムが気遣きづかいつつ呟く。


「ま、まあまあ……う~ん、アタシでも杖とかなら持てるかと思ったのに、持ち上げることも出来ませんでしたねぇ。まるで装備品の高性能が重さに反映されてたみたいに……何でしょう、そういう力場でも発生してるのかなぁ。何にせよアタシなんかじゃ、五階層のアイテム収集は難しそうです……」


「う、うぐぐ……いやでも、薬や食料が拾えるのは確認できたしな。パーティー組んで初日の探索で、ちゃんと分かったコトもあるんだから、前進さ。まあ深い階層では拾えるモノだけ拾ってもらって、装備は明日にでも浅い階層で……うげっ」


「? ハーク師匠、何を見て……あれ? 巻物みたいなのが落ちてますね」


 ハークが何やら渋い顔で立ち止まった、その先には――ラムの言う通り、巻物が。その正体を、ランダム生成ダンジョンが実家の長男ハークが明かす。


「あれは……〝魔法のスクロール〟だ。その魔法を知らなかったとしても、読めば問答無用で一度だけ放てる……そういうアイテムだな」


「……えっ!? す、すごいじゃないですかっ。そんな技術、世界のどこでも聞いたことありませんよっ。剣士のアタシでも、すごい魔法が使えたりするんですか?」


「ああ、まあ……すごい魔法かどうかは、分からないけど。取り分け、五階層では。……まあ一応、拾ってみるか?」


「? な、なんだかハーク師匠、ような……で、でも、はいっ。拾ってみますね、よいしょっと……」


 ラムの言う通り、気が進まない様子のハークだが――ラムが拾い上げた〝魔法のスクロール〟を、すぐに鑑定してくれて。



 ――――★鑑定結果★――――


『アルメキオラのスクロール』

〝アルメキオラ〟の魔法を一度だけ放てる。


 ――――★鑑定終了★――――



「……ハーク師匠、〝アルメキオラ〟ってどんな魔法なんですか?」


「知らん」


「えっ」


「知らん、聞いたコトもない。効果も分からん。使ってみるまで何が起こるのか分からんし、使ったとてエフェクトによっては何が起こってるのかも分からん。この場合〝アルメキオラ〟という名前を鑑定するのが限界で、その〝アルメキオラ〟がどんな魔法なのかも一切判明しない」


「使ってみるまで分からないって、とんだパンドラボックスじゃないですか。ええ……じゃあトライアンドエラーで効果をメモしていくしか……」


「ちなみに十年以上もここで過ごしてきて、数百とスクロールを拾ったが、同名の魔法が記されたスクロールを拾えたのは一、二回程度だ。いいか、数百と拾ってきて、一、二回程度だ。俺がどう思ったか分かるか?」


「ええと……〝やってられっか!〟ですかねぇ……」


「さすがラム、なんて察しが良くて頼りになる弟子なんだ。よしよし」


「えへへ♡ あざっす♡」


 師・ハークに撫でられ、なかなか砕けた喜び方をする弟子・ラム。

 と、続けてハークが真面目顔で問うのは。


「ちなみに。……俺もかつて、好奇心に任せて、三度だけスクロールを使ってみたコトがある。もう名前も覚えていない魔法だが、結果を……聞きたいか?」


「! は、はい、ハーク師匠……聞かせてください、全力でツッコんでみせます!」


「そのツッコミに前のめりな姿勢……ラム=ソルディア、キミに敬意を……」


 うやうやしく準備を整え、ラムが身構えると――ハークは一つずつ説明を始めた。


「まず一つ目、初めてスクロールを使ってみた時は……何か知らんが、俺の体が発光した。ただただ光った。ただ光っているだけなのか、能力にバフでも付いてるのか、何かの効果があるのか……何一つとして分からぬまま、暫くしたら光は治まった。ただそれだけだ」


「それが一回だけの話なら、ダンジョン内でただただ発光しただけですねぇ!? ええ、何でしょう、前衛的なイルミネーションになる魔法……? もしかすると魔物除けの効果とかあったのかもですが、ほんとに謎ですねぇ……」


「そして二つ目。……スクロールを読み上げた、次の瞬間。……装備していた剣が、奇妙な笑い声を上げながら、飛んで行った。そして二度と帰ってこなかった。俺は剣を失い、呆然とその場に立ち尽くすしかなかった」


「怖すぎる! え、ええと、何でしょう、武器に命を吹き込む魔法、とかだったんでしょうか? にしても、もしその光景を見てたら、何だかトラウマになりそうですねぇ……カオスすぎる……」


 順調にツッコんでくれるラムに、ハークが悲しき過去を思い返すように、最後の結果を遠い目で明かした。


「最後となる三回目は。……スクロールを読むや否や。……俺の装備が全て弾け飛んだ。そうして俺は、ダンジョンの真っ只中、ひとり全裸で立ち尽くすしかなかった」


「ハーク師匠が何をしたっていうんですか! あ、あまりにもあんまりすぎる……ダンジョン内でそんな仕打ち、良くぞご無事で……」


「ああ、五階層での話だったから、魔物も個性的な連中ばかりだったし……向こうも何も見なかったコトにしたいのか、目を逸らしながら素通りしてったよ。唯一〝内気なサキュバス〟だけが顔を真っ赤にして逃げ去っていったのが、ちょっとした癒しだったな。ハハハ」


「〝内気なサキュバス〟というランダム生成ダンジョンでなくとも生きていくのが難儀なんぎそうな生態。まあそのサキュバスさんの気持ちも分かりますけど……あ、ところで深い意味はないんですけど、最後の全裸になっちゃうスクロールって名前は覚えてません? いえ深い意味は全然ないんですけど」


「いや、さすがに覚えてないな……メモするのも面倒だったし、昔の話だし。それに同じ名前っぽいの、あれから見てないと思うし……一字違いとかもあるから、ホントに〝やってられっか!〟だよ」


「そうですかー……深い意味はないですけど、残念ですー……」


 もし分かったら、少女剣士ラムは何に使う気だったのだろう。こわいです。


 そんなこんなで説明を終えたハークが、今しがた拾った〝アルメキオラのスクロール〟を手に、ラムへと尋ねる。


「で、まあそれから俺は、よく分からんスクロールを使うのはやめたワケだが。……どうだろう、ラム。最悪の場合、読み上げた瞬間に自爆するとかの可能性もあるけど、コレ、使ってみたいか?」


「やめましょうやめましょう捨てちゃいましょう。もしかすると、アタシが読んで魔法が発動した瞬間、ハーク師匠が鑑定すれば効果もハッキリするかもですけど……同じものを拾える可能性がほとんど無いんじゃ、鑑定するだけ損ですし。リスクの可能性も大きすぎますし」


「賢明な判断だと思う。正直な、一階層とかで拾える〝炎の矢のスクロール〟とかのが、名前だけで効果が分かるだけマシだよ。なんかなぁ、このランダム生成ダンジョン、深い階層ほどよく分からないモノが出るっていうか……魔物も魔法もアイテムも、この世界じゃ見たコトないような気がするんだよな。もしかすると〝異次元〟を通じて別世界からランダム生成されてるんじゃ、ってカンジで」


「な、なるほど……それはそれで五階層のアイテムとか、何だか未知の価値がありそうで興味を惹かれますけど……かといって危険は避けるべきですねっ」


「おっ、ラムもなかなか適応してきたな、エライぞ!」


「いえいえ、そんなぁ………あのあの、また撫でて頂いても良いんですよ~?」


「ん? そうか、クロエを思い出す甘えんぼっぷりだな……よしよし」


「えへへ♡ あ~ざ~~~っす♡」


 撫でられている時は砕けた感じになる弟子・ラム、なぜだろう。

 まあそれはそれ、とハークが懐中時計を取り出して口を開いた。



 ――――★鑑定結果★――――


『兎の不思議な懐中時計』

 現在の時刻が確認できる懐中時計。不思議なことに、時差を自動で調整してくれる。


※〝兎の〟効果:AGI=+10 睡眠耐性が低下


 ――――★鑑定終了★――――



「お、っと……探索に夢中になっている内に、もう日付が変わりそうだな。ダンジョンの構造が変化する前に、俺の部屋に戻ろうか」


「えっ、もうそんな時間ですか? うわあ、アタシも何だかんだで、アイテム拾いに夢中になってたんだなぁ……ごはん食べるのも忘れるくらい、熱中しちゃうなんて(ツッコミの時間が大半だった気もしますけど)」


「フフフ、そうだろう、そうだろう、なかなかハマるだろう……? まあ今日は成果が芳しくなかったけど、良いアイテムを拾えた時は、それはもうテンション上がるぞ? って、駄弁だべるのは帰ってからでもイイか。それじゃ、ラム……おいで」


「今回も〝おいで〟いただきましたっ。えへへ……ほんとコレ、クセになりそうっていうか、もうなっちゃ――」


 が、そこは情緒を置き去りにする男・ハーク、少女剣士ラムが言い切るより前に、食い気味に瞬間転移するのだった―――………。

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