第16話 実家(ウチ)がランダム生成ダンジョンになった理由(ワケ)

「十年前、わたしまだ六歳だったんだけど……〝いつか世界を滅ぼす魔女〟って予言されたとかで、東だか西だかの国から軍隊が派遣されて、処刑されかけて……でもそれが原因で、わたしの魔力が暴走して……〝異次元の扉〟を開いちゃったの。いつかどころか、その時に世界を滅ぼしかけたんだけど、やぶをつついて蛇を出すってかんじで……ウケるよね、ふひっ、めっちゃ不用意」


「想像以上に大した話だし重すぎるしでアタシの情緒が死ぬ! ウケないですし、えっ……十年前、そんな人知れず世界滅びかけてたんですか!? 知らなかったっていうか、誰も知りませんよそんな話!?」


 世間話の如く打ち明けられた〝世界が滅びかけたらしい話〟に、ラムが迅速なツッコミを入れると、クロエは特に平静を崩さず淡々と続けた。


「う、うん……まあでも、世界が滅びるかどうかなんて、案外そんなものじゃない……? 今もどこかで誰かがバカやって、人知れず世界が滅びかけて、誰かがギリギリで何とかしてるのかもしれないよ……?」


「えええ、やだな、そんなキワッキワな世界……ていうか十年前、アタシも六歳でしたけど……あっウワッそういえば大地震あった、大規模で結構な被害が出たやつ! う、うわぁぁ……東だか西だかの国って、東ならアタシが住んでた国ですよ……〝どっちならいい〟って話じゃないですけど、心情的には絶対コッチであって欲しくない……戦犯すぎるぅ……」


「で、わたしや異次元の魔力が暴走したままだと、世界が本当に滅びちゃうから……こうやってランダム生成ダンジョンを創って、異次元の魔力に方向性を与えて、封印してるの……迷宮内を巡る異次元の魔力が、0時に自動的に分解・ランダム生成されるから、無駄なし……永久機関、完成……わたし、ちょお天才……ふひひ……♡」


「満足そうで何よりですけど……それが本当なら、クロエちゃんって世界を救ってますよね、すごいなぁ……ん? でも冒険者ギルドや国とかでは、《異次元の魔女》はって……あれ? 誰も攻略できない超高難度ダンジョンで、なぜか主の物騒な異名だけ知られてることといい、なんか違和感が……?」


 ラムが疑念に首を傾げていると、クロエと交代し、長男ハークが口を挟んだ。


「それは、この十年に一、二回くらいしか帰ってこなかった冒険者の両親から聞いたんだけど……〝いつか世界を滅ぼす魔女〟って予言されたなんて話はウソッパチで、当時から膨大な魔力を持ってたクロエを一方的に危険視して、秘密裏に処分しようとしたっていうのが真実らしいぞ。でも結果はこの有様で、クロエの命を狙うようなバカ共にしてみれば、やらかした不祥事が露見ろけんする前に揉み消したくて、討伐対象になんてしたんじゃないかな。一年前にダンジョンの入り口が現れて、みっともなく焦ったのが目に浮かぶな、ハハハ」


「クソですね国、本気で。ハーク師匠の言葉に静かな怒りが滲むのも、納得ですけど……虎どころかドラゴンの尾を踏んだ張本人なら、《異次元の魔女》とか具体的な異名を知ってるのも納得ですよ……ああ、もお~~~……!」


「いやまあ、俺の憤慨は十年に一、二回くらいしか帰ってこない両親にも向いてるんだけども。十年前だって気ままに冒険に出てたから、その留守を突かれて事件が起きたんだし……でもまあ、これも気休めじゃないけどさ」


 性根が善良なラムは、悪辣あくらつな不条理にいきどおりを隠せないらしいが――なだめるように、ハークは〝なんてことない〟と笑う(会話・友好スキル継続発動中)



「何だかんだ――今はランダム生成ダンジョンでの生活、俺もクロエも、結構楽しんでるからさ。そりゃ大変なコトもあるけど、気ままだし、面白いコトも多いんだ。だから俺たちは、自分が不幸だなんて思ったコトは、一度もない。

 あ……それにラムと出会えたのだって、このおかげかもしれないしな★」



「ハーク師匠……きゅんっ……♡(会話クリティカルヒット!)」


 自分達の境遇を前向きに捉え、はっきり言い切ったハーク――のついでの一言が、少女剣士ラムにはかなり刺さったようだが、すぐに気を持ち直し。


「……はっ、こほんっ。で、でもクロエちゃんが変な悪名で知られてるなんて、やっぱり許せませんっ。あ、アタシがこの真実を、皆に知らせて……!」


「いやあ、ラム一人で出来るコトには限度があるさ。いくらLUKが規格外に高くたって、国相手じゃ存在ごと揉み消されて終わりだよ。……今やパーティーを組む仲間のラムに、危険な目に遭って欲しくも無いしな」


「くっ、ハーク師匠のお心遣いと優しさが、アタシのハートを確実にモノ♡にしていくぅ……で、でも仰る通りですよね、アタシ一人じゃ非力だし、ぐむむ~っ」


 自身の力不足を嘆くラム、だがハークは小声で、ぽつり呟く。


「……それに今となっちゃ、ランダム生成ダンジョンのわが家を敵に回すなんて、相手が国単位だとしてもバカバカしいと思うしな……」


「むうう……ん? ハーク師匠、今なにか言いました?」


「ん、いや、大したコトじゃないさ」


「そ、そうですか? ??」


 ハークの軽めの返事にラムが首を傾げる、と――そこまで黙っていたクロエが、片手を挙げて尋ねた。


「あのぉ。……さっきちょっと、気になったんだけど……ハーク兄さんとラムちゃん、パーティー組むの? 兄さんにしては、珍しいね……」


「はっ……そうでしたっ。アタシ、それでランダム生成ダンジョンの主に……つまりクロエちゃんに、ご挨拶にきたんでしたっ!」


「あ、これはご丁寧に……まあどんな冒険者だろうと、どうせわたしの部屋には、ハーク兄さんの鍵でもないと入れないし……別にダンジョン内で好きにしてもらう分には、自由だから……うん、別にいいよ――」


「何しろハーク師匠のお部屋に住まわせてもらうんだから、家主さん(?)にはちゃんと挨拶しておかないと! なので、これからよろしくお願いしますね♡」


「は? ……ハーク兄さんの、部屋に……それって、同棲……は、はあああああっ!? ちょ、なにを勝手に、そんなの許さな――」


「――――クロエちゃん!」


「ふへっ!!?」


 怒りと共に反対しかけたクロエ、だが――そんな彼女の小さな両手を、ガシッ、とラムが両手で取り、つぶらな瞳で真っ直ぐに見つめつつ言う。


「クロエちゃんの境遇、大変だったと思いますけどっ……真実を知った今、アタシ、クロエちゃんの味方ですからっ! アタシ、絶対に裏切りませんしっ……いつかクロエちゃんの汚名、晴らしてみせますからねっ!」


「あ、う、お……いや今は、メスネコ同棲事件の話で……」


「だってクロエちゃんは、もうアタシの―――大切な友達ですからっ!」


「……………と、とも、だち。…………う、うう」


 キラキラとした眼差しを向けられ、クロエが何も言えなくなってしまう、と。


 仲睦なかむつまじい様子(うん、そうだな!)を眺めていたハークが、腕組みしながら頷き、結論を出す。


「何だか分からんが……友達ができて、とにかく良かったな! というワケでクロエ、とりあえず俺たちは、ダンジョンを探索しつつアイテム拾いでもしてくるから。あ、これ朝方に作ったフレンチトースト。良かったら食べてくれ、おいしかったぞ。さて……挨拶も終わったし、またな!」


「あ、う、ハーク兄さん……あ、あうあう」


「ではクロエちゃん、また……今度はもっとゆっくり、お喋りとかしましょうね♪」


「うぐ。……う、ううう~っ……」


 何か物申したそうなクロエだが、部屋を出ていくハークとラムに、何と言うことも出来ず。



「お、おのれメスネコぉ……うう、でもラムちゃんは、わたしの初めての友達……? わたし、わたし……どうすればいいのぉ~……!?」



 超高難度ランダム生成ダンジョンの主、《異次元の魔女》の声が、悩ましくも響くのだった……。

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