第15話 《異次元の魔女》クロエ=W=スラスト
ラムの混乱がようやく落ち着いた頃。
光源が
「えと。……はじめまして、わたし……クロエ=W=スラストっていいます……ハーク兄さんの、妹です……」
「あっ、これはご丁寧に。すいません、さっきはお騒がせしちゃって――」
「でも血は繋がってないので……結婚とかはできます……」
「急に何の話です?」
大人しいというより、やや陰気な語調のクロエから、妙な主張を喰らって。
対するラムは面食らいながらも、めげずに自己紹介を返そうとした。
「あ、アタシはラム=ソルディアって言います。新米冒険者で、剣士をしてて……昨晩からハーク師匠に弟子入りさせていただきましたっ♡」
「昨晩から、弟子……? ふっ、十年以上の義妹と比べれば、あまりにも浅い関係……取るに足りません……」
「なんだぁ? てめー……」
少女剣士、キレそう――!
と、さりげに一触即発の原因となっているハークが、そこで口を挟む。
「こらこら、クロエ。この家じゃ珍しいお客さんだから緊張するのは分かるけど、変なコト言って困らせちゃダメだぞ?(おもてなしのバンダナ:友好・対話スキル発動)」
「あう。……う、うん、ごめんね、ハーク兄さん……」
「謝るなら、俺にじゃないだろ?(友好・対話スキル発動中)」
兄・ハークに促され、妹・クロエはラムの方へと向き直り。
「えと……ご、ごめんなさい、ソルディアさん……兄さん以外の……取り分けヒューマン属と話すなんて、本当にひさしぶりで……取り乱して、初対面の人にとんだ失礼を……」
「ヒューマン属という
「あ、はい……じゃあ、えっと……ラム氏とメスネコと、どっちがいいです……?」
「〝ちゃん〟とかにしてください〝ちゃん〟とかに。
「あっ……ご、ごめんなさいっ。ハーク兄さんにすり寄るあさましい姿を見てると、ついつい口が滑っちゃって……」
「ほほう、
確かに〝関係:敵対〟気味かもしれない二人だが、ハークは再びクロエを
「クロエ、そんなにツンツンしてちゃダメだぞ。ただでさえ俺たちは引きごもり気味なんだから、少しは他の人と関わらないと……お兄ちゃん、怒るぞ!」
「っ。あ、甘いよ、ハーク兄さんっ……この、このわたしがっ……〝むしろ怒られたい♡〟と言ったら……どうするつもりっ(キリッ)」
「うーん、逆効果じゃダメだな……じゃあ〝もう口を利かないぞ〟とかなら?」
「うんわかった仲直りするすぐする。だからそんなこと言わないで兄さんわたし死んじゃう」
ハーク、友好・対話スキルによって、クロエの説得に成功した模様。
さて、ラムにしてみれば出会って初めての早口を並べ立てたクロエが――改めてラムの方へと向き直り。
「え、えっと、かさねがさね、ごめんね……よろしくね、ラムちゃん」
「……あ、は、はいっ。色々とツッコミたい気はしますが、大丈夫、ええ、大丈夫ですとも。よろしくお願いしますねっ、クロエちゃん……今日から、お友達ですっ♡」
「! お、お友達……わたし、お友達なんて、初めてかも……」
(でしょうね。って思わず言いそうになりましたが、空気を読んで言わないアタシなのですー)
少女剣士ラムは空気が読める子で助かります。
とにかく、どうにか友好関係を築けた(と思いたい)ラムが、ダンジョンの主たるクロエに気になっていたことを尋ねる。
「えっと。……聞いていいのか、言っていいのか、って
「あっ……そ、そういえば。はじめての来客に驚きすぎて、ぜんぜん気にしてなかった……す、すぐ着替えるから、ちょっと待っててね……」
「ああ、よかったです。てっきり初対面の相手とはパジャマで対応しなければならない、みたいな個性的な家訓でもあるのかと……いえ超高難度ダンジョンの主がパジャマでお出迎えっていうのも、ツッコんでいいポイントか悩んでたんですけど……と、とにかく着換えが終わるまで、後ろ向いてますねっ」
「すごいツッコむ人だよね、ラムちゃん……あ、でも別に、後ろ見てなくていいよ……すぐ済むから」
「へ? ……きゃ、きゃあっ!?」
クロエの不明瞭な言葉に、ラムが首を傾げると――次の瞬間、薄暗いダイニングに閃光が
出会い頭には、黒を基調としたモコモコふわふわなフード付きパジャマを着こんでいた、超高難度ダンジョンの主は。
見る間に、それこそ
モコモコのパジャマが、肩と太股の側面が露出した、スリット付きのウィッチ風ワンピースに。
少し心配になるほどの細腕には、手元から二の腕まで覆うように、黒いシースルーのロンググローブが形成され。
足の見える部分には、黒のストッキングが確認でき――
そして最後に、三角形にとんがった魔女帽子をかぶる。鍔が広いため、ずるっとずり落ちるたび、小顔のクロエは片目が隠れてしまうようだが。
こうして瞬時に、まさしく〝変身〟を遂げたクロエに、ラムは
「わ、わあ~~~……! すごいですね、クロエちゃん! まるで魔法使いか魔女みたいです!」
「えっうん、まあ魔女だけど……外じゃ《異次元の魔女》って呼ばれてるのも、知ってるくらいだし……ま、まあでもこれくらいなら、異次元を開けるわたしには、簡単っていうかぁ……」
「おぉ……異次元を開ける、って何だかすごいですね。魔法はあんまり詳しくないんですけど、にしても聞いたことがないくらい……ん? じゃあランダム生成ダンジョンも、そういう魔法っていうか、能力で? というか、そもそも……」
褒められて
「クロエちゃんがこのランダム生成ダンジョンの主で、《異次元の魔女》っていうのは分かりましたけど……どうしてダンジョンの主なんてしてるんです?」
「えっ……それ、は……まあ、色々あって……でも大した話じゃないから、語るのも恥ずかしいんだけど……」
それでも構わない、とラムが頷き、続きを
クロエいわく〝大した話じゃない〟事情が語られて―――
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