第14話 超高難度ランダム生成ダンジョンの主との邂逅――!

〝賢者のバーサーカー〟と別れたハーク達が五階層を進んでいると、はあ、とラムがため息を吐いて呟く。


「はあ。……はあ~~~……何だかいきなり、出足払いをくらった気分ですよう……個性的というか、知性がある分、なおさら悲しき生命体すぎる……ていうか、こんな風に一~五階層に毎日、ランダム生成で……? なんて不条理な仕組み……」


「心に引っかき傷が残っているご様子。まあでも、気持ちは分かるよ。だから気休めってワケでもないけど……あんな風にキチンと対話できるほどの魔物は、本当なら珍しいから。大体は理性のない魔物だし、四階層なんかは殺意しかないような魔物しかいないくらいだから、あんまり気にしないようにな」


「うう、ハーク師匠だって、そうやって生活して慣れてきたんですもんね……わかりました、アタシも何とか前向きにがんばりますっ。……それに、ですもんね。ダンジョンの主の……《異次元の魔女》の下へ辿り着くまで、ちゃんと気をつけながら進まないと――」


「おっ……着いたぞ。部屋の入り口もランダムに場所が変化するんだけど、今日は近くて助かったな~」


「超高難度ダンジョンのラスボスの部屋までこんなあっさり辿り着いちゃっていいんです!? ランダム生成にしたって軽すぎませんか!?」


「でも普通、誰も一階層すら攻略できないんだろ? ここへ来るのが俺たちくらいしかいないなら、簡単な分には別に良くないか?」


「まあそうですけども! でもなー何かな~軽いんですよねぇ! あっさりしすぎてるっていうか、にも程があるっていうか!」


「ははは、〝階段を下りたらいきなり目の前にボスいた〟みたいな?」


「拍子抜けとビックリが同時に来て心臓に悪そうですねぇソレ!」


 ラムの文句というかツッコミというか、とにかく並べ立てられた直後――目の前の、一見する限り何の変哲もない扉に、ハークが手を伸ばし。


 取り出した漆黒の鍵で、カチャリ、ロックを外した。



 ――――★鑑定結果★――――


『魔女の部屋の鍵』

 ダンジョンの主が存在する空間へと繋がる扉を開くことが出来る、唯一の鍵。


※専用装備:ハーク=A=スラスト


 ――――★鑑定終了★――――



 そうして、扉を開いた、その瞬間。


 に―――


「――――ひっ」


 少女剣士ラムが、思わず小さな悲鳴を漏らす。

 それもそのはず、扉を開いて真っ先に目に映った、その存在は。


 ―――大きなローブを纏うだけの、恐らく人型をしている、その顔の中心は。

 顔の代わりに、ただ、闇が渦巻き、存在しているだけなのだ。


 大きなローブに隠れ、四肢すら存在しているのかも定かでない、ただ〝無明むみょうの闇〟と言うべき禍々しい存在――恐らく魔物とおぼしきそれを見て、ラムは震える口から言葉を発する。



「こ、これが……この、見たこともない、魔物が……

 超高難度ダンジョンの主――《異次元の魔女》――」



「ああ違う違う。それは単なる部屋の門番みたいなモノだよ。まあ何が起こるか分からないランダム生成ダンジョンだから、念のためにってね。そこから動かないし喋らないし、攻撃を加えない限りは無害だから、放っといてイイよ」


「もおおおおおお紛らわしいですねえ! めちゃくちゃビビりましたよ怖いんですもん見た目! じゃあ何のモンスターなんですかコレぇ!」


「何のっていうか、〝闇〟だよ〝闇〟。とにかくっていうか、ほぼ無敵だから、まあ気にしないコトだよ」


「えええ……魔物とかでさえないなんて、何だかもう規格外すぎるぅ……はあ、怖かったぁ……でも無害と分かれば、まあ。…………」


 言いつつラムが、何もしなければ無害と聞いて安心したのか。

 ジッ、と見つめるのは――〝闇〟、渦巻く〝闇〟。


「………………」


 物言わず、ぼんやりと、呆けたように――いつの間にか、ぽかん、と口を半開きにしていたラムに、ハークが思い出したように語りかける。


「あっそういえば、その〝闇〟ずっと覗き込まないほうがイイぞ。ずっと見てると、どんどん正気度SAN値が下がっていくから」


「………―――どぅおえあっさささ先に言ってくださいよそういうのぉ!? ……うあっ、アタシ口、半開きにしてた……うう、よだれちょっと出ちゃってる、恥ずかしい……」


「まあ言った通り、門番みたいなモノだからなぁ……外部からの攻撃的な侵入者を想定して、相応ふさわしいくらいの性能は持っているみたいだぞ。まあココ来るの俺くらいだし、試したコトはないから分からないけど、ずっと眺めてたら最終的には廃人とかになっちゃうんじゃないかな。ハハッ」


「笑いごとです? いやもう、こわいこわい……さっきまで、なに考えてたんだろ、アタシ……全然思い出せないし、今や恐怖しかないですよう……」


 もはや完全に〝闇〟から目を逸らし、ハークの背中にピタリとつくラム。

 と、ハークはハークでマイペースに、部屋の中を進んでいく。


 どことなく、三階層にあるハークが住むセーフティールームと、似ている気がする――そんな廊下の奥で。


 待ち構えていたのは、更にもう一つの扉。ハークの住処と照らし合わせるなら、その奥はダイニングなのだが。


 ハークが手を伸ばすより先に、扉は先に開かれて。


「!!」


 ハークの背に隠れていた少女剣士ラムが、びくり、体を震わせる。


 また門番的な存在か、それとも今度こそ《異次元の魔女》か――果たして、開かれた扉の先から現れたのは。


『……ウウ、ウ……ウ~……』


「………………!」


 呻くような声に、ラムが警戒を強める、と―――その直後。



「ウ、ウウウッ…………ふわぁ~……んんん~っ……」


「んっ?」



 ひょっこりと、を覗かせて――欠伸あくびの直後、伸びをする


 きょとん、とするラムを背に、ハークは姿へと平静に語りかけた。


「おはよう、クロエ。また夜更よふかしでもしてたのか? 自宅がランダム生成ダンジョンだからって、不規則な生活ばかりだと体を壊しちゃうぞ?」


「はう、ハーク、おはよ……ふ、ふへへ、ごめんね、新しい本が面白くって、ついつい……」


 クロエ、そう呼ばれた少女は、伸びっぱなしの黒髪は手入れも疎かに見えるが――幼気いたいけながら随分と端正たんせい容貌ようぼうの持ち主で、文句なしの美少女と呼べる。

 微かなくまが少しばかり気になるが、眠たそうに垂れた目尻がおっとりとした印象をかもしていた。


 が、そんなことよりも、とラムは目を白黒させながら、聞き逃さなかった単語について言及しようとする。


「えっ、えっ? ハーク……? えっハーク師匠、妹さんがいらっしゃったんですか?」


「? ハーク兄さん……後ろ、なにか憑いてるよ? ランダム生成されたゴーストか何かに、取り憑かれちゃった……?」


「いや誰がゴーストですか誰が。れっきとした生きた人間ですよアタシは。ランダム生成された瞬間からゴーストとか、悲しい生命体ですらない悲しい存在とかじゃないですから」


「えっ。……い、生きた人間……の、女の子? が……ハーク兄さんと、一緒に?」


 どんな時でもコンスタントにツッコミを放っていく、なかなか見上げた姿勢のラムに、クロエと呼ばれた少女は何やら呆然としているが。


 代わりとばかりに、兄さんと呼ばれし男、ハークが紹介する。



「紹介が遅れたな、ラム。こちら、俺の妹―――クロエ=W=スラストだ」


「えっ。………えっ、えええええええええ!?」


「まあ血は繋がってないんだけどな。ハハハ」


「どっどえええええええええ!!? ちょ待って待って、待ってください……ツッコミが、ツッコミが追いつかない! えーと、ハーク師匠の妹さんで、だけど血が繋がってなくて、それでぇ~……」


「ちなみにこのランダム生成ダンジョンの主で、外じゃ《異次元の魔女》って呼ばれてるっていう、その張本人だぞ」


「待てっつってんでしょうが! ええ~い次から次へと、もうツッコミきれないし何が何だか分からないんですけどぉ~~~!?(状態異常:混乱)」



 こうして、新米冒険者であるラム=ソルディアは。

 超高難度ダンジョンの主と、呆気ない邂逅かいこうを果たしたのだった――……。

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