第13話 超高難度ダンジョン最奥の、恐るべき魔物とは――!?

「……わ、ぁ……こ、ここが超高難度ダンジョンの……《異次元の迷宮》の、…………」


 ラムが事の重大さに気付いたのは、ハークと共に瞬間移動し、彼の腕の中からゆっくり離れてからだった。


 超高難度ランダム生成ダンジョンの最奥、第五階層。

《異次元の迷宮》という名に相応しいと言うべきか、妙に硬質な石造りの壁面へきめんには、山羊の頭蓋骨を飾り立てた禍々まがまがしい意匠いしょうの装飾が点在している。


 所々に見える松明が光源になり、それもランダム生成で生まれたものだろうか、とラムが首を傾げつつ周囲を確認した。


「これ、壁や床、まさか……大理石? この階層、丸ごとって……まるでダンジョン化しちゃった神殿みたいです。それにしても、この禍々しい雰囲気、骸骨なんかも飾られてて……うう、怖いで――」


「ああ、今日はこんな感じか……アレだな、パンクだな!」


「そんな軽く流しちゃっていいんです? というか、こんな大理石とかのった造りでも、ランダム生成で変わっちゃうんです?」


「変わるよ。0時にスッと変わる。今回はこんな感じだけど、活火山かよっていう岩だらけの地形に変わるコトもあるし、永久凍土みたいになるコトもある」


「ヤバイですねランダム生成。何なら今回は環境的な意味でも、アタシってのかなぁ……」


 ほっ、とラムがひと息つき、ぼんやりと思い出す。


 転移の直前にハークが述べた四階層の話は、〝ハークでさえ危険なほど強力かつ攻撃的な魔物が蔓延る階層〟だった。

 ならばその更に奥、つまり今いる五階層は、どのような場所なのか――新米冒険者であるラムが、恐る恐る尋ねる。


「あ、あのあの、ハーク師匠……四階層が危険な場所なら、その更に奥の五階層って……どんな所なんです? やっぱり、もっと危険な――」


とがってる」


「とがってるとは?」


「なんていうか、魔物の強さとか性能は間違いなく、五階層で一番高いと思うんだけど……その、っていうか……、っていうか……あ。ちょうどイイところに、魔物が……まあ鑑定するから、見ていてくれ」


 ハークの言う通り、見つけたのは座り込む魔物――筋骨隆々きんこつりゅうりゅうな人型の、ただし明らかに人間離れした巨人の如し、骸骨の仮面をかぶった異形いぎょうの存在を。


 ハークが鑑定した――その結果とは――



 ――――★鑑定結果★――――


『賢者のバーサーカー』


STR(力):240

AGI(敏捷):90

VIT(生命力):250

MAG(魔力):110


状態異常:虚無的・懊悩おうのう


関係:中立・友好的な傾向


弱点:仮面・ケツ・心臓


性別:メス


 ――――★鑑定終了★――――



 ―――オメーの出番だぞ、ラム=ソルディア!


「いや賢者なのかバーサーカーなのか! そして見たこともない状態異常が何だか切ない! 弱点……は、もう言及しないとして……性別! ……えっ、性別!? 筋骨隆々で腰かける姿が歴戦の猛者な感じバリバリですけど、女の子なんですか!?」


「あくまで魔物は魔物なので、女性というよりメスだよ。でも鑑定したトコ、随分と人間に近いタイプみたいだな、こんなに詳しく分かるのは珍しいよ。っと……友好的みたいだし、試しに話しかけてみるか? 襲っては来ないと思うからさ」


「え、ええっ? な、なんだか怖いですねぇ……ステータスも凄い感じですし。本当に、大丈夫でしょうか?」


「大丈夫、大丈夫。あれくらいなら俺が、どうとでも出来るから。これも練習と思って……ああ、そんなコト言ってる内に、向こうも俺たちに気付いたみたいだぞ。さあ、ラム」


「っ。わ、わかりました、これも修行の内ですね……あ、あのっ!」


 勇気を出して、ハークの弟子・少女剣士ラムが、一歩を踏み出すと。


 座り込んでいた〝賢者のバーサーカー〟が、そのおどろおどろしい骸骨の仮面の下から、発したのは――


『はじめまして、まれなる御客人おきゃくじん斯様かような地でまみえるには珍しい可憐なお嬢さんですね。本日は何用かありましたでしょうか?』


「バーサーカー感ゼロのトーク!! あっその、あのあの、なんて言えばいいのか……急に話しかけちゃってごめんなさい。その、今なにをして――」


『わかりません』


「えっ」


『わかりません。自分には、何もわからないのです。なぜ今、自分はここにいるのか。自分が生まれてきた意味とは、理由とは。ここに座っている理由も、息をしている理由も。何も、何も……分からないのです』


「アッエトッ、ソノ。こ、こほん……そ、それは、大変で――」


『貴女には、わかるのでしょうか?』


「えっ。……いえ、ええと、賢者さん、バーサーカーさん? の生まれてきた意味とかは、他人のアタシじゃ、さすがに――」


――生まれてきた意味を、理由を。貴女自身の意味を、貴女自身は、わかるのでしょうか? なぜ、ここにいるのか。なぜ、息をするのか。一体、何を成すべく存在しているのか。貴女には……わかるのでしょうか?』


「アッウッソノッ。そ、そう言われて、みるとぉ……はっきりとしたことは、言えないっていうかぁ……あ、アタシ自身……わかんないかも、ですけどぅ……」


『そう。……そうなのですね。では、貴女も……自分と同じですね』


「アッハイッ、ナンカソノッ、ゴメンナサイ。……………」


 何だか良く分からんが、何だか良く分からん難問を投げかけられ、何だか良く分からん内に話が終結し――何だか良く分からんままに、ラムがハークの方を向き。


「ハーク師匠っ……ハーク師匠~~~~~っ!?」


「な? 個性的っていうか、尖ってるだろ?」


「いえもうその通りですけども! あの人……魔物? とにかく、本当にランダム生成で生まれてきたんですか!? なんかもう賢者みたいなんですけど!?」


「賢者なんだよ、正真正銘。ランダム生成で生まれた。そしてこのダンジョンでは、0時に消える。きっかり間違いなく、スパッと消える」


「あんまりにもあんまりすぎる! こうもハッキリ会話までできるのに、何だか可哀想に思えちゃいますよ!? どうにか出来ないんですか――」


「思い出として残したいなら、倒せば宝石化はするけど?」


「サイコパスか! いえもうちょっと、生き残らせるとかそういう――」


 会話できてしまっているせいもあってか、何だか情が移っているらしいラムに――されど〝賢者のバーサーカー〟は、穏やかに告げた。


『心優しいお嬢さん、気にかけてくださるのですね、感謝します。ですが、どうかお気になさらず。自分には、確かに何もわかりません。ですが一つだけ――わかったことも、あるのです』


「えっ。……そ、それは、一体?」


『自分は、――〝〟ということを、。だから自分は、何ひとつ知らぬままに、ただ消えていく訳ではありません――それを知れた、だから自分は賢者として、それだけで充分なのです――』


「―――ハーク師匠~~~~~~っ!!」


「残念だけど、それでも0時になったら、消えるものは消える。本当にどうかと思うけど、とにかく慣れるコトだよ。妙に個性的なのばかり湧くから、情が移るかもしれないけど、気にしてたらキリがないしさ」


「うう、うう……ハーク師匠の妙に冷静なとことか、何か理解できてきた気はしますけどぉ……ランダム生成のせいにしても、生態が突飛とっぴかつ不憫ふびんすぎますぅ……」


『お気になさらず、お嬢さん。さて……自分は賢者として、引き続き考え続けるとします。そう……、ね』


「うわーーーーーーーーーん!!」


 ラムの情の移りっぷりは、確かに少し心配になるが。


 まあ何はともあれ、こうして――考え続ける〝賢者のバーサーカー〟と別れたハークとラムは、ダンジョンの主に挨拶すべく、迷宮の先へ進んでいくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る