第12話 ハーク=A=スラストのダンジョン探索時の比較的マトモな装備(※忖度アリ)

「―――さて、食事も終わったコトだし、そろそろ最下層の五階層へ出発しようか。ラム、準備はイイか?」


 ハークが問いかけると、ピンクブロンドが愛らしい少女剣士ラムは、彼と出会った時と同様に、軽装の上から胸当てとミニスカートを身に付けて言った。


「は、はい……と言ってもアタシ、昨晩はほとんど何も持たずにお部屋にお邪魔しちゃいましたから、準備というほどでも……あっ、違いがあるとすれば〝伝説のナイフ(攻撃力:8+100・会心率100%)〟くらいですかね?」


「ああ、それもそうだな。よーし、ついでと言っちゃなんだけど、ダンジョン内でラムが使えそうな装備でも探してみようか」


「えっ……ほ、ほんとですかっ? ナイフ一本でも何だかとんでもないことになってるのに、いいんでしょうか……アタシ新米冒険者なのに、超高難度ダンジョンで装備なんて整えちゃうのも……」


「別にイイんじゃないか? うちの実家もといランダム生成ダンジョンで生きていくためなら、装備は超重要だし。それに必ず良いモノが拾えるとは限らないし、言っちゃえばなんだからさ」


「あ、そうですよねっ! そんなに都合よくいけば、苦労しませんよねっ。アタシったら、先走っちゃって恥ずかしいです~★」


〝LUK255~(計測不能)〟の少女剣士ラムが恥じ入っておりますが、果たして。


 と、早々に準備を終えたラムに続き、ハークも身支度は早いようで。


「! あ……ハーク師匠、って……」


 昨晩は寝間着姿での遭遇と相成あいなり、つい先ほどまで同様の姿だったハークだが。


 今、ラムが目の当たりにした――彼の〝ダンジョン探索時の装備〟とは、次のようなものだった。



 ――――★鑑定結果★――――


『ハーク=A=スラストのダンジョン探索時の装備(※マトモ編)』


右手:格闘王の名刀(攻撃力:+120、STR・AGI:+30、格闘能力が大幅強化)

左手:幽霊の竜鱗盾(防御力:60×0=0、重量0、耐性:火・水・即死・絶望)

頭:おもてなしのバンダナ(防御力:+4、おしゃれ:+10、友好・対話スキル付与)

体:マッスルの魔導鎧

 (防御力:+60、STR・VIT:+30、MAG:+10-30=-20、軽減:魔法全般)

足:天使のウイングブーツ(防御力:+10、浮遊可・ダメージ床を無効化)

アクセサリ:トレジャーハンターの指輪(アイテム取得率UP)

      神経質のペンダント(感覚鋭敏化・索敵範囲UP、VIT=-10)

(防御力合計:+74)


予備武器サブウェポン:加速のバゼラード(攻撃力:+30、AGI:+50、装備時に加速効果)

     エターナルフォース普通の矢(攻撃力:10+50、氷結・即死効果)


 ――――★鑑定終了★――――



 本腰を入れて探索する際は、さすがに寝間着姿ではないらしい(一安心)ハークに――弟子である少女剣士ラムは、つぶらな瞳を輝かせながら言う。


「わあっ……冒険者みたいな装備だと、何だか普段以上にカッコイイですっ♡ ……まあその、内容にツッコみたい部分がありすぎますけど、それも効率重視っていうことで我慢するべきなんでしょうねぇ……」


「気になるならツッコんでイイよ」


「恐縮でーっす! それでは……ふう」


 軽くひと息ついてから、ラムは改めて言及し始める。


「名刀って、東の国のカタナっていう剣ですよね……いやもう剣なのか格闘なのか。あとマッスルの魔導鎧って、矛盾とまでは言わないですけど、何だかもうシナジー効果が噛み合ってない気がしちゃいますよ。魔力も結果的に下がってますし……」


「俺は魔法を使えないから、フィジカル重視にしたほうが結局は便利なんだよね。耐性も上がるし……色々と試したからこそ分かったんだけどさ」


「なるほど……でも〝幽霊の竜鱗盾〟って、この……なんかぼんやりと、モヤ~って見えるやつですよね? ……えっ、幽霊なんですかコレ? 竜とかの?」


「まあ幽体とかの意味だと思うけど。でもおかげで重さも全くないから邪魔にならないし、耐性はしっかり付くから便利なんだ。すり抜けるから物理防御力は0だけど、それを差し引いて余りある高性能だと思うよ」


「とことん効率重視ですねぇ……でも細かいことを気にしないのも、プロっぽくてカッコイイですけど♡ ……しっかしホント効率重視ですねぇ……」


 なかなか複雑な乙女心を垣間見かいまみせるラムに、ハークは補足するように告げる。


「まあ本気の効率重視なら、こっちに〝暗殺者の覆面(防御:+2、気配遮断、即死攻撃、バックスタブ確殺)〟とかあるんだけど……」


「覆面って、この目の部分だけ空いてるのです? これかぶって歩き回るとか、超不審者ですよ。暗殺者っていうのも怖いですし……」


「そう思って、今回はこういう装備にしてみたんだ。まあ実は、効率だけを求めるなら、もっと別の装備もあるんだけどさ。……でも、ああ、そうだな」


 バンダナを巻いたハークが、ふっ、と微笑を浮かべてラムに囁く。


「可愛い弟子と歩くんだから、俺だって少しくらい、カッコつけてみたくなったのかも……なんてな(友好・対話スキル発動)」


「ハーク師匠っ……きゅんっ……♡」


「―――と、このように、自分で言うのも何だけど俺らしからぬ言葉が飛び出したりするので、付与スキルってちょっと怖いんだよな。人格にまで影響が出るのかよ、って感じで」


「いえでも! アタシはすごくいいと思います! なんならスキルの永続取得のため、練習してみてはいかがでしょーか!?(状態異常:混乱・乙女心)」


「うーん、またの機会にな」


「きっとですよ! その時はアタシが全力で付き合いますから、遠慮なく申し付けてくださいね♡(交渉術B発動) ……あとこの、エターナルフォースって何です?」


「それは俺にも全然わからん」


「なるほど」


 もはや〝なるほど〟としか言えない。そんなラムが、最後にハークの足元――履いている靴を見て呟く。


「天使の……ウイングブーツって……まさか天使の羽をもいで作った、とかじゃないですよね……」


「確実なコトは何も言えない。ただ、可能性は無きにしもあらず、と常に思ってる」


「ほんと、深く考えると怖いことだらけですねぇ……何だかもう、細かいことは気にしないようにするのも、鑑定スキル同様に必須スキルなのかもですね……」


 細かいことを大体ツッコミ終えたラムが遠い目をして呟いた頃、ハークが出発前の確認をする。


「さて……気は済んだかな? ツッコミの」


「あっはい、すみません、お手数をおかけして。もう、いつでも出発できます!」


「それなら、何よりだよ。さて、ダンジョンの主への挨拶だけど……一番奥の、五階層に住んでるから」


「はい、超高難度ダンジョンの奥にいるという主、恐るべき《異次元の魔女》……ここが三階層ということは、次は四階層へ……」


「ああ……正直言って、四階層は侵入者を拒むかのように、攻撃性の高い魔物が蔓延ってる。ほとんどが問答無用で襲ってきたり、一つの部屋に大量に待ち構えていたりな。俺も本気の装備と姿勢でのぞまないと、危険なくらいだ」


「ゆ、油断できないっていうことですね。あ、アタシ、できることなんて無いですけどっ……ハーク師匠の足は引っ張らないよう、がんばりまっ――」


「なので五階層まで、コチラの宝玉でするとしよう。これもダンジョンの主からもらったアイテムなんだけどな」


「セーフティールームといい、ハーク師匠、ダンジョンの主から優遇されすぎでは? あのあの、もしかして仲良しだったりします?」


「まあ諸事情あってさ。それも実際に会ってからのほうが説明しやすいし、何となく分かるはずだよ。というワケで、ラム……さあ、おいで」


「おぉ……この跳躍前の招き寄せられる感じ、クセになっちゃいそうです……えへへ、弟子の役得―――」


 と、またもラムが言い切る前に、瞬間移動する二人。


 ハークは何の気もなしに、ラムは考える暇もなかったが――これより向かうのは、超高難度ランダム生成ダンジョンの、最深部。


 熟練の冒険者ですら一階層も攻略できない、そんな場所なのだと――新米冒険者の少女剣士が思い出すのは、そこへ辿り着いてからの話である。

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