第6話 超高難度ランダム生成ダンジョンで唯一のセーフティールーム(ハークの部屋)

 瞬間移動による転移で、文字通り一瞬にして跳躍したのは。

 そこがまだ迷宮内とは信じられないほど、静寂に包まれた、何の変哲もない部屋――それが超高難度ダンジョンの内部にある、だからこそ異常だとも言える。


 いて言えば、一人で住むにしては随分と広いことだろうか。

 薄暗い中、まずはハークが部屋に明かりを灯すべく、何やらアイテムを取り出す。


「よし、ちょっと待っててくれよ、この……前にダンジョンで拾った〝再生のランタン(照明効果・自己再生付与)〟を幾つか付けて、と」


「わ、わあ……明かりとかもダンジョンで自給自足なんですねぇ。ていうか自己再生で消えない照明とか、すっごく価値がありそうですけど……」


「まあ10年も住んでれば、割と見つけられたし、コツコツ集めたから。ほら、ラムも持っておくとイイ。セーフティールームといっても廊下とかは暗いし、ダンジョン内にしたって妙に暗くなる時とかあるから、光源は用意しておくべきだからな」


「わ、わあっ、ありがとうございますっ……って、ご、ごめんなさいっ。その、くっつきっぱなしで……」


 ランタンを受け取ったラムが、ハークに密着しっぱなしだったことを思い出し、顔を紅くしつつ離れる。

 そうして、話を逸らすように言及したのは。


「……わ、わぁ~っ、ここがハーク師匠の部屋なんですねっ。お、おぉ……男の人の部屋って、こんな感じなんですねぇ……それにしても、随分と広いみたいですけど……アタシの昔(貴族だった頃)の部屋より広いかも――」


「ああ、1LDKなんだってさ」


「わんえるでぃーけー?」


「うーん、この言い方、やっぱ一般的じゃないよな。俺もこの部屋を出してもらってから、初めて聞いたし。えーと……リビング・ダイニング・キッチンが、一部屋ずつって意味だよ」


「あ、なるほど、それなら何とか……ん? 出してもらった、って……誰からですか?」


「ああ、この実家の……つまりランダム生成ダンジョンのから。まあ色々と、諸事情あってさ」


「!? だ……ダンジョンの主と、遭遇したことあるんですか!? ってそういえば、ここハーク師匠の御実家なんですよね……でも確かダンジョンの主は、恐ろしい《異次元の魔女》って言われて……って誰も一階層すら攻略できてないのに、何でそんな異名だけ知られてるのか、不思議ですけど……」


「……ああ、そうだな。まあとにかく、積もる話は明日でイイかな? さすがに、そろそろ寝たほうがイイと思うし――」


「!!! ……そ、そう、ですねっ……あ、あのっ!」


 ハークが話を進めようとすると、なぜかラムは顔を紅潮させ、緊張も極まった大声を発する。


「ま、まずはっ―――お風呂に入らせて頂いて、よろしいでしょうか!!?」


「ああ、ダンジョン探索すると汗とか気になるもんな。ダイニングを出た廊下の、右側の部屋に風呂があるよ」


「アタシが聞いといてなんですけど、ダンジョン内なのにお風呂とかあるんですねぇ!? な、なんだかハーク師匠の部屋、セーフティールームにしたってセーフティーすぎる気はするんですけど……と、とにかく! ……不肖ふしょう、ラム=ソルディア、全力で身を清めさせていただきます!!」


「おぉ……風呂に入るだけで、何だかよく分からんけどやる気満々だな。元気なのはイイことだと思う。それじゃ、俺は……」


 ふむ、と顎先に手を当てて、よし、と頷いたハークが、ラムに囁くのは――



「ゆっくり入ってくるとイイ―――ベッドは、用意しておくからな」


「!!? ……ひゃ、ひゃいぃぃ……」



 囁かれ、なぜかふにゃふにゃになってしまう、少女剣士ラム。


 彼女がふらふらと風呂場へ向かうのを――ハークは〝?〟と首を傾げて見送るのだった。

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