第5話 新パーティーの結成と、ピョンピョンする乙女心の躍動――!

「ラム=ソルディア――師匠と弟子とかじゃなく。キミさえ良ければ、俺と。

 ランダム生成ダンジョンと化したわが家で、を組んでくれないか?」


「! ………………」



 ハークが放った言葉には、冗談の色は一切ない。

 彼の本気が伝わったのか、ラムもまたつぶらな瞳で見つめ返し、返答するのは――



「―――いえ、、このラム=ソルディア、ハーク師匠の仲間にならせて頂きます!(交渉術B発動中)」


「え~、でも俺、本当に教えられるコトないと思うんだけどなぁ……10年もこんなトコに住んでるから、正直コミュニケーション力も微妙だと思うし、常識もイマイチだから教えるの下手だと思うし……」


「いえいえ、そんなことありませんっ。それに教えて頂きたいのは剣技ばかりでなく、ここで生き抜けるほどのスキルでもありますからっ。一流冒険者より明らかに高い実力を持つハーク師匠のスキル、投擲とうてきひとつ取っても、すごすぎましたっ! そういうの、少しずつでも教えて頂ければなぁ~、って♡(交渉術B発動中)」


「ん? う~ん……まあパーティーを組んでもらうなら、俺も教えられるコトは教えるつもりだし……ん~、それくらいなら……」


「ヨッシャ! あっいえ、やったぁ♡ これからよろしくお願いしますね、ハーク師匠っ♪(交渉成功!)」



 少女剣士ラム、ものすごくちゃっかりしている気はする、が。

 とにかく、こうして、この超高難度ダンジョンで。



 ハークにとっては、で――



「これから、よろしくな―――ラム!」


「はいっ、ハーク師匠っ……アタシ、がんばりますっ♪」



 青年の手と、少女剣士の小さく滑らかな手で、握手が交わされ。

 一つのパーティーが、誕生したのだった―――



 ……さて、そこで思い出したかのように、ラムがたずねたのは。


「……あっ、そういえばアタシの鑑定結果だけでなく……って、したことってあるんですか?」


「いや、無理だ。人間って結局、自分自身の肉眼で自分の顔を見るのって、ほぼ不可能だろ? 鑑定は鏡じゃ出来ないし、俺自身の能力は俺にも分からないんだ」


「なるほど、確かに……あのあの、それじゃ是非、鑑定スキルも教えてくださいっ。そしたらアタシが、してみせますからっ」


「おっ、それイイな。俺自身も気になるし……むしろ俺もお願いしたいよ」


「やったぁ♡ ……よーし、今度はアタシがハーク師匠の秘密を見ちゃいますよ……乙女の秘密を軽々けいけいに暴きしむくい、知るが良いです~……」


 何やら報復心も動機にありそうだが、乙女心は複雑なので仕方ないのである。


 と、話がひと段落したところで、ハークが告げるのは。


「さて、それじゃ……もう外も夜のはずだし、0時も近いからな。ランダム生成ダンジョン内にいたら危険だし、避難するとしようか」


「あ、そういえば0時に構造が変化するんでしたっけ。……ちなみにダンジョン内で0時を迎えたら、どうなるんですか?」


「運が悪ければ、いきなり壁の中に埋まったり、階層によっては真横にマグマが流れたりするコトもある」


「あっああアタシ、今すぐ外に避難しますね! 街……までは遠いので、う~ん、とりあえず今晩は、ダンジョンの前でキャンプでも……」


「いや、屋外で女の子一人、夜を明かさせるなんて心配だからさ。場所が場所だし、荒っぽい冒険者とかも来ないとは限らないし。それにパーティーメンバーになったからには、ラムのコトは最大限に守るし、大事にするつもりだ」


「ハーク師匠……そんな優しいお言葉、きゅんとしちゃいます……♡」


 ラムは何やらほうけているが、ハークはほとんど気にせず話を続けて。


「で、俺の部屋だけあって、になってるんだ。だから、そこにラムを招こうと思うんだけど」


「えっ、この超高難度ダンジョンでセーフティールームって、何だかすごいですねっ。……ん? あの、つまりそれ、ハーク師匠の……男の人の部屋に、アタシが?」


「ああ、それはまあ、当然そうなるけど。……ん? ラム、どうした?」


「……………………」


 しばしの沈黙をて。

 少女剣士ラムが、その小ぶりな口から叫ぶのは――


「そっそそんな、男の人の部屋に上がるなんて、アタシ初めてなんですが――!?」


「そうなんだ。まあでも部屋に上がるだけで、そう深刻にとらえなくても……何事も経験ってコトでさ」


「けっけけけ経験!? つっつまりそれって、そういう!? そっそれはまあハーク師匠のこと、憎からず思う部分もありますけどぉ……でもでも、さすがに出会って初日でって、早急すぎると申しますかぁ……!?」


「? よく分からないけど……そんなに気が引けるなら、やめとくか?」


「ッ! ……っ……ッッ!」


 何やらラムなりの葛藤かっとうがあるらしく、逡巡しゅんじゅんを繰り返していた、が。

 もじもじと身振りした後、彼女がついに出した結論とは。



「せ、せめて―――優しくお願いしましゅっ!(噛んだ)」


「おお、そっか……よし、最大限に、するぞ……!」


「さささ最大限に!? あ、アタシ……おもてなされちゃう……!(?)」


「ちょうど〝最高級のパン〟もあるコトだし……明日は、幸せな朝を迎えさせてやるからな……!」


「初めてでいきなりパンを駆使した特殊なプレイを……!? あ、アタシ、どうなっちゃうんですかっ……し、幸せにされちゃう……!?(??)」



 何やら師弟兼パーティーメンバーの間で、意思の疎通にイマイチ不安があるような気はするが。

 とにかく、とハークは自身の道具袋から、金色に輝く宝玉を取り出して。


「さて、それじゃ俺の部屋でもあるセーフティールームには……コイツを使って飛ぶとしよう。帰る時にしか使えない一方通行のアイテムだけど、まあ三階層まで一気に瞬間移動できるし、便利だからな」


「は、ハーク師匠のお部屋って、三階層にあるんですか? ……熟練や一流冒険者でも一階層も攻略できないのに、アタシなんかが一気に三階層になんて行って、大丈夫でしょうか?」


「三階層程度なら魔物とかに襲われても、俺が守るから大丈夫」


「ハーク師匠……♡」


 また〝きゅん〟としてしまっている様子のラムだが。


 そんな彼女に片手を差し出し、ハークが言葉と共に招き寄せる。


「それじゃ、ラム――おいで。瞬間移動するから、出来るだけ俺から離れないよう、くっついてるんだぞ」


「ほほう。これが女の子を部屋に招く男性の、オトナの余裕……アタシ、べんきょ~になりますっ!」


「なんかよく分からんが、何かの学びになってるんなら何よりだよ。

〝状態異常:混乱〟は続いてそうで心配だけど……じゃ、行くぞ!」


「は、はいっ。……ひゃあ、ひゃあっ……腕が広い、めっちゃ密着してるぅ……なんかもうこれだけで、ダメになっちゃいそ―――」


 ハークの腕の中で、何やら呟いていたラムだが。

 その言葉も言い切らぬうちに――二人は眩い閃光と共に、その場から姿を消した。

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