第4話 少女剣士ラム=ソルディアを鑑定した!

「……ハーク師匠、初対面のアタシなんかのため、色々と考えてくれて……ありがとうございます」


 丁寧にお辞儀して礼を言う少女剣士ラム――だが直後、顔を上げた彼女は、凛と響く声でハッキリと告げた。


「ですがやっぱり、。落ちたりと言えど我が家には〝施しに甘んじるを良しとするな〟という家訓があります。ハーク師匠が同情やあわれみで言ってくださっているわけでないのは、理解してます。でもこれは、アタシの……冒険者としての道を選んだ、アタシのささやかな矜持きょうじなんです」


「……そっか。俺には貴族の世界なんて縁が遠いけど、その姿勢は立派だと思う。……ちなみにその家訓、貴族だったお父さんも同じように?」


「あっ、はいっ。というか父が言い始めたことでして、えへへっ」


(この子のお父さんが政争に弱かったの、なんか理解できてしまうな。高潔こうけつだし尊敬できるんだけど、ちょっとな、なんだかな)


「あっ、それはそうと〝尊敬すべき先達せんだつには進んで教えをえ〟というのも我が家の家訓ですっ。アタシが今、考えました! えへへっ」


(されどこの子は……ラムは、大物になるかもしれないが……!)


 少なくとも柔軟性と、意外とグイグイくる姿勢は大したものである。


 さて、宝石の譲渡じょうとを拒まれ、どうしたものかとハークが悩んでいると――思い出したように、ラムが自身の腰元に備えた道具袋に手を突っ込み。


「あっ、そういえばハーク師匠、ダンジョン……もとい師匠の家の入り口で、こんなのんですけど……鑑定スキルで、何なのか分かりませんか?」


「ん? うーん、一階層の、しかも入り口付近じゃ、そんなに大したモノは出ないはず……ん? ……え、ちょ……それ、良く見せてくれるか?」


「ふえ? は、はい、むしろお願いしたいくらいで……ハーク師匠?」


 戸惑うラムから、ハークが受け取り凝視するのは、一本のナイフ。


 一見すると、何の変哲もなく見える〝未鑑定〟のそれを。


〝鑑定スキル〟を使用したハークが、読み上げると――



 ――――★鑑定結果★――――


『伝説のナイフ』

 刃渡りの短い、初心者向けの武器。


※基本性能:攻撃力=+8

※付加効果:攻撃力=+100 会心率=100%


 ――――★鑑定終了★――――



「いえあの、初心者向けの武器で、一体何の伝説が――」


「ちょっ……な二つ名もちだァァァァ!!」


「きゃあビックリした!? 出会って初めて見るテンションですね、ハーク師匠……あ、あのあの……コレそんなに、すごいんですか?」


「スゴイも何も、〝伝説の〟は滅多に出ない二つ名だよ! 俺も八歳の頃から十年間も暮らしてきて、四~五回くらいしか見たコトないし……攻撃力+100って、それだけで武器なら鋼鉄の大剣クレイモアクラスだぞ! しかもほぼ会心必中だし!」


「こ、こんな小さなナイフなのに、そんなに強いんですか? う、うーん、そんなレアな二つ名が、こんなナイフなんかに付いちゃうって、逆に損した気もしますけど……ん? あれっ?」


 会話しながらも、ラムがたまたま視界の端に捉えた――だ。超高難度ダンジョンにポツンと置かれているのは、やはりどう考えても珍妙な光景だが、とにかくパンが置かれており。


 ラムがそれを拾い上げると。


「パンとかも落ちてるんですねぇ……うわあ、ほんのり温かい、出来立て感が怖い……あのあの、ハーク師匠、これって――」


「鑑定させて頂いてもよろしいでしょうか」


「いえその、お願いしたいくらいですけど、なぜ敬語……弟子にそんな口調やめてください、ハーク師匠っ!」


 ちゃっかり弟子入りを印象付けようとしているラムは、確かに大物になりそうだが――とにかく、ハークが使用した鑑定スキルの結果は。



 ――――★鑑定結果★――――


『最高級のパン』

 パンである。コイツだけはいつの時代も普遍的だ。安心感ある。


※付加効果: 全ステータス=+20% 祝福付与


 ――――★鑑定終了★――――



「さっ……最高級のだァァァァ!! コレも滅多に出ないレア二つ名だぞ!?」


「そ、そうなんですか? ……ちなみに〝全ステータス=+20%〟っていうのは……?」


であって、食べる人には関係ない」


「そこ毎回ガッカリですよ! ランダム生成にしたって!」


「でも祝福(※数時間、色々と運が良くなる)は付与されるぞ。しかも食べ物系だと二つ名に応じて、味も本気で最高級になる……それこそ一度食べたら忘れられないほどに! ……にしても、こんなにイイヤツが立て続けに出るなんて、どうもおかしい……ラム、すまないけど、キミを鑑定させてもらってもイイか?」


「えっ、人間も鑑定できるんですか!? ……いえ人間のステータスまで分かるって、大司教とか賢者とかの分析魔法レベルなんですけど……で、でも分かりましたっ。ハーク師匠のお言葉なら、信じますっ……どうぞ!」


「ありがとう、ラム。それじゃ……

 ―――鑑定スキル―――!」


「……あっでも、鑑定できるのって……あっちょっ」


 ラムは何か聞こうとしていたようだが、一足遅く――鑑定スキルの結果が出てしまい。



 ――――★鑑定結果★――――


『ラム=ソルディア』

職業:少女剣士・冒険者(新米)

性別:女性 年齢:16


STR(力):40

AGI(敏捷):55

VIT(生命力):45

MAG(魔力):70

LUK(運):255~(測定不能)

※一般的な基準値は「50」で、計測できる最高値は「255」である。


スキル:剣技C 探索C 交渉術B 家事B ???EX

魔法の素質:火A 神聖B

※スキル・魔法のランク「C<B<A<<<<<EX」


適職の参考:盗賊や魔法使い


状態異常:混乱(軽症)

関係:ひとめぼれ


弱点:わき・首筋・背筋・ケツ・心臓


 ――――★鑑定終了★――――



「……ん? 関係のトコ、ひとめぼれって、初めて見るんだけど、どういう――」


「―――ワーワーワーワーーー!! なっなな何を鑑定してくれやがってんですかー!? ちょっやめてください見ないでくださいウワーーーッ!!」


「ああ、まあここの〝関係〟って些細なコトでコロコロ変わるもんな。ちょっと肩ぶつかっただけで敵対とかになるし。……にしても、弱点が」


「ウオオオ見ないで見るな見んじゃねーですぅぅぅ!? 乙女の秘密をこうも軽はずみにあばこうとは何たる傍若無人ぼうじゃくぶじん、今まさに関係が敵対に――!」


「まあ脊髄せきずいや心臓が弱点って、生物なら大体がそうだよな。わき、首筋は……血管が集中してる部位だからかな? にしてもケツ弱点のヤツ多すぎだろ今日、フフッ!」


「あっはい、そうですねそんな感じで! 深く考えないでくださいよ絶対だぞ絶対だかんな! はあ、はあ……」


「いや、そんなコトより」


「そんなこととは何ですかそんなこととは! 全く気にされなかったらそれはそれで腹立ちますねぇ少しは頬を赤らめるとか反応してくださいよ、おらおらー!」


 鑑定スキルといえど、乙女心までは鑑定できない模様。少女剣士ラムの情緒の乱れといい、難儀である。


 まあより、明らかに異様なステータスに、とうとうハークが言及げんきゅうする。


「LUK255……? って……コレ……」


「ぜえ、ぜえ……コホン。……あのあの、ハーク師匠、それってすごいんですか? ていうかこんなに正確にステータスの数値が出て、運なんて項目も初めて見たんですけど……教会とかの分析魔法は高額で、しかも漠然と魔力量とか分かる程度でしたし。適職とか弱点とかまで、こんな風に分かりませんし。ハーク師匠の鑑定スキル、もしかしてんじゃ?」


「他の基準が分からないから、俺のコトは何とも言えない。でも、ラム……キミのLUK値は、スゴイなんてもんじゃないぞ。他の数値は微妙の一言で、何なら剣士に向いてないなって思うけど」


「よ、余計なお世話ですぅ~。適職の参考といい、放っといてくださいぃ~。ま、魔力はちょっとありますし、魔法剣士とか考えられますしぃ~」


「俺は魔法とか使えないから、やっぱり師匠に向いてないと思うけど……でもやっぱり、このLUKだ。他の能力と違って鍛えて何とかなるものじゃないし、それが測定不能なほど高いのは唯一無二の能力すぎる。ランダム生成ダンジョンな俺の家にとって、もはや最高の人材と呼んで過言じゃない……〝???EX〟のスキルが気になるけど、スキルは基本的にデメリットないしな……」


「え……さ、最高の人材だなんて、そんなぁ~♪ は、ハーク師匠にそうまで言われると、照れちゃいますよぉ~♪」


「―――――ラム、ラム=ソルディア」


「ひぇっ……ひゃ、ひゃはいっ!?」


 ハークが両手で、少女剣士ラムの小さな手を握ると。


 顔を真っ赤にし、慌てる彼女へと――そういえばいまだに姿の青年ハークが、真剣な眼差しと共に告げたのは。

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