第3話 〝鑑定スキル〟こそが――ランダム生成ダンジョン必須スキルなのだ――!
……超高難度ダンジョンの床に、あまりにも無造作に。
蓋をされた丼が、ポツンと一つ、置かれていた。
ちなみにご丁寧にも、簡易的な紙包装がされた箸が
と、ただでさえ異様な光景だが、少女剣士ラムは更に疑問があるようで。
「? え、アレって……なんですか? 底の深い……器? ??」
「ああ、この辺の地域じゃ一般的じゃないか……十年もここに住んでると、外の感覚とズレてきちゃうな。えーと、アレは
「あ、じゃあお料理なんですかっ。そういえば、あの添えられてるの……昔、貴族だった頃に見た、東の国の文化? の……お箸っぽいかもです。アタシは全然使えませんでしたけど……でもあの料理、誰が作って置いていったんでしょう?」
「誰か作ったとかじゃないよ。日が変わったらランダムで、いきなり完成品が出てくるんだ。床に、ポンッと」
「怖くないです?」
「怖いよ。でもまあ、慣れたから。さて、それじゃ……中を見てみようか」
言いながらハークが丼を拾い、蓋を開けると――ふわっ、と温かな湯気が立ち、
そしてラムにとっては見たこともない料理に、彼女は目を輝かせた。
「! わあっ、敷き詰められたライスの上にスライスオニオンと、とかした卵が絡んで……それとこれ、何でしょう? お肉が、何かに揚げ物みたいに包まれて……」
「ああ、これは―――カツ丼だ」
「かつどん。……う、う~ん……やっぱり聞いたことないですね……でも確かに、こういうのが出てくるなら、魔物のことは置いておけば生活していけるかも――」
「いや、本番はココからだ。俺がこの実家で、生きるため必要に迫られて身に付けたスキルを――今、見せよう」
丼――即ちカツ丼たる馴染みのない料理に、ハークは手のひらを向け。
魔物を斬り払った時とは比較にならぬほどの気合で――カッ、と眼を見開き――!
「――――鑑定スキル――――!」
「ハーク師匠、気合、入りすぎでは!? 商人さんとかのスキルですよね!?」
「でもこれが本当に絶対必要だから……お、鑑定結果が出たぞ。フムフム……」
ハークが導いた鑑定結果を、本人が読み上げる、と。
――――★鑑定結果★――――
『邪神のカツ丼』
手ごろな大きさにカットしたポークに衣をつけて揚げたカツを、ライスの上に乗せた丼物の料理。醤油出汁と
※付加効果:力・賢さ・生命力=+30 運=-40 呪い付与・絶望付与
――――★鑑定終了★――――
「―――チッ、〝邪神の〟か。残念だけど食えたモンじゃないな」
「―――いえあの〝邪神のカツ丼〟ってなんですか!? 聞いたことない
「邪神はな~、ホント謎なんだよね……どこの宗派やどんな神話の邪神なのかとか、全く説明ナシだし。あと〝絶望〟は意外と厄介でさ、もう超ネガティブになって何もする気が起きなくなって、生きる気力すら無くなる感じかな。〝猛毒〟とかの方が解毒剤で治せる分、遥かにマシだよ」
「その辺に普通に落ちてる食べ物なのに罠すぎる! ……あ、でも、デメリットに目をつぶれば、力とか上がるのは良いかもですね……運が下がっちゃうのは気になりますけど――」
「ああそれ〝カツ丼のステータスが上がってる〟って意味で、食べた人が強くなるとかじゃ全然ないよ。若かりし頃に試した俺が断言する。そのクセ状態異常はしっかり付与されるんだから理不尽だよな、ハハッ」
「カツ丼のステータスとは一体!? というか食べたことあるんですね〝邪神の〟! もしかしてハーク師匠、勇者さんでは!?」
「勇者ではないけど。……あと深く考えると怖いから、いつもは考えないんだけど……例えばこのカツ丼なら、〝邪神が作った〟のか〝邪神で作った〟のか、もしくは〝カツ丼自体が邪神なのか〟とかも、一切不明だから」
「ランダム生成にしたって程がありません!? 重ねて言わせて頂きますけど、よく食べましたね!? ハーク師匠、やっぱり勇者さんでは!?」
「重ねて言うけど勇者じゃないし、ただの実家暮らしの長男だよ。っと……またちょうどイイところに、魔物だ」
通路のまだ遠い先、ハークが目ざとく見つけたのは、迷宮の天井に頭をぶつけそうなほどの巨体を持つ――異様な蒸気を振りまくオーガだった。
「ぇ……ひゃっ! あ、あわわ、あんな大きなオーガまで普通に歩いてるなんて……は、ハーク師匠、大丈夫でしょうか――」
「――――鑑定スキル――――!」
「それモンスターにも使えるんです!? 分析魔法とかじゃなく!? モンスターを鑑定するなんて、初めて聞きましたよ!?」
「俺は魔法とか全く使えないから。……お、鑑定結果が出たぞ、どれどれ……」
――――★鑑定結果★――――
『灼熱のフロストオーガ』
力:めちゃ強
速さ:そこそこ
魔力:意外と多い
生命力:鬼
耐性:炎・冷気
弱点:ケツ・心臓
関係:敵対
――――★鑑定終了★――――
ハークが読み上げた鑑定結果に――少女剣士ラムの感想は。
「―――灼熱なのかフロストなのか、どっちかにしましょうよ! あとステータスみたいなの
「俺が人間なせいか、人間に近しい生物ほど詳細に数値化できたりするんだけど……まあこれで割と詳しいほうだよ。スライムとかだと生態すら違うせいか〝ぷるぷる〟としか出ないコトあるし。ああでも〝賢者のスライム〟とかなら詳しく分かったし、相手の知能や文化にもよるのかも?」
「〝賢者のスライム〟とは一体……ってそれよりも魔物、どうしましょう……? ランダム生成の仕組みが雑なせいで生まれた悲しき生命体みたいな能力ですけど、炎にも冷気にも強いなんて……」
「いやあ、ハッキリとした弱点があるんだから、むしろ簡単さ。というワケで、コッチに気付かれる前に……取り出したるは〝致命の矢〟(※クリティカル率上昇)」
ハークが道具袋から一本の矢を取り出すと、ラムは尊敬に目を輝かせて――
「えっ……ハーク師匠、弓も撃てるんですかっ? す、すごいで――」
「
「いえまあ当たれば同じなのかもしれませんけど、身も蓋もないですねぇ!」
『Gurururu……エッ、オアアーーーッ!!』
「うわあ、野太い断末魔……かなり遠かったのに正確に当てられるハーク師匠はすごいですけど、えーと……お尻にクリティカルする最期って不憫ですねぇ……」
「弱点はケツだぞ、フフッ!」
「せめてお尻と言わせてくださいよ。それ言いたくなくて躊躇ったんですから。それにしても〝生命力:鬼〟な割に一発なんて、クリティカル怖いですねぇ……」
「まあ弱点も狙ったしな。おっと、アイツも宝石になったな、拾いに行くか。……それで、だ」
「見ての通り、俺は別に剣士ってワケじゃない。ランダム生成ダンジョンと化したこの家で生き抜くため、スキルは必要に迫られて身に付けたんだ。だからやっぱり、ラムに教えられるコトはないよ」
「……い、いいえっ、そんなことありませんっ。やっぱりハーク師匠は、すごいですっ! この超高難度ダンジョンで生活できる、その飛びぬけた実力と適応力……アタシ、ハーク師匠から教わりたいんですっ。あのあの、ご迷惑なのは分かってますけど……どうか、お願いできませんか……?」
「うーん、そうは言ってもな。……ラム、さっき聞いた話じゃ、キミがここで生きていけるほど強くなりたいのって……冒険者として一攫千金を求めてのコトなんだろ? それなら……よいしょ、っと」
言いつつ、ハークが別の袋を取り出し、そこに詰めたのは――つい先ほど斃したフロストオーガや、少し前のケルベロスや魔物達が宝石と化したもの。
実のところ〝斃した魔物が宝石化する〟というのは、このランダム生成ダンジョン(※ハークの実家)だけに見られる特徴だ。
ただ、そうして生成された宝石は、強力な魔物の力が収束したかのような魔力を秘め、とてつもない価値を持つらしい。これは、運よく魔物を仕留めて辛うじて帰還した熟練冒険者の情報である。
少女剣士ラムもまた、その話を聞いて訪れたクチだが――そんな彼女に、ハークは大量の宝石を詰めた小袋を差し出して言った。
「斃したら宝石になんてならず、食料にでもなってくれれば、俺にとってはありがたいんだけど……まあ仕方ないよな。ていうワケで俺はコレいらないから、ラムにあげるよ」
「えっ。……えええ!? も、もらえませんよっ、アタシなんて戦ってもないですしっ……それにそれ、すっごく高価で――」
「俺は諸事情あって実家から出られないし、無用の
「っ。………………」
暫くは、どころか――ハークの言葉以上に、大きな利益となるだろう、多量の魔力を含んだ色とりどりの宝石群。
それを目の前にして――ラムが出した、答えとは――?
……ところで余談だが、美少女に宝石袋を差し出す寝間着姿の青年の姿は、
『今晩どう?』
と交渉しているように見えなくもない。フフッ。
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