第7話 第一次・乙女決戦、始まりの予感と――その結末(※風呂シーンは趣味です) ※一章ラスト

 かぽーん、とおけの音が高鳴る、風情ふぜいある木造の浴室。

 浴槽までヒノキで造られた、やはりには異様な、この光景の中。


「……ふぁ~~~……ゆっくり湯船に浸かるなんて、ひさしぶりぃ~……きもちーですぅ~~~……」


 存分に堪能するのは、今日初めてこのランダム生成ダンジョンに足を踏み入れた、少女剣士ラム=ソルディア――無論、生まれたままの姿である。繰り返す、生まれたままの姿である。


 冒険者をこころざしながら、さてもたまの如き白肌は、白磁はくじを彷彿とさせるなめらかさ。

 少女の純真さとは裏腹に、脱げば思いのほか起伏に富んだスタイルもあらわ。蝶よ花よも浮き世の夢に、散りぬるものぞと心得たりて(イヨーッポンポン)


 意外な好スタイルはともかく、背丈は小柄なラムなら、足を充分に伸ばせるほどの広い浴槽で――少女剣士は、この後に控えし戦いを思い描いた。


(お父様……政争に負けて〝明日から我々は庶民どころか貧民です。各自、自力で頑張って生きてください。はい、解散!〟の一言以降、一度も再会していないお父様。〝あたくしは流しのギャンブラーとして一攫千金を目指しますわオホホホ〟と何処かへ旅立って行ったお母様。アタシ、ラム=ソルディアは今宵、大切にしていた操を捧ぐべき御方へ捧げ、少女剣士から真・淑女剣士へジョブチェンジを果たします所存)


 ふう、としばし目を閉じて後――カッ、と刮目かつもくしたラムが、ざばーんっ、と勢いよく立ち上がる。はしたないッスよ乙女。


「いざ――いざ、まさに雌雄しゆうを決する時! お覚悟を、お覚悟をなされませ、お師匠ーっ! 今こそ弟子ラム=ソルディアが、いっちょかましに参ります次第~! ここが天下分け目の決戦でございますですわーっ!(イヨーッポポンッ)」


 勢いそのまま、浴室を飛び出し、脱衣所に入ったラム―――が。


「……ま、まあでも、タオルくらいは巻いてっていいですよね、えへへ……」


 軽く尻込みしつつ、姿見の前で風呂上がりの身だしなみをチェックするのだった(乙女心)


 ◆        ◆        ◆


「………………………………」


 さて、タオル一枚、少女剣士ラム=ソルディアが、木造の食卓のある広い居間を抜けて、ハークの部屋へ入ると。


 そこで―――嗚呼、そこで目にしたものとは―――


「……ぐー、すやすや。ぐー、すやすや……」


「………………………………」


 さて。

 ベッドに横たわり、なかなか分かりやすい寝息を立てている、文句なしで睡眠中のハーク=A=スラスト氏。


 そんなハークのベッドとは反対側の部屋隅に、なるほど、ラム用であろうベッドが約束通り用意されていた。


 何というお気遣い、何というおもてなし――師の心意気を前に、弟子たるラム=ソルディアの反応は――!



「――――襲えや!! もう逆に襲えや!!」


「ぐー、すやすや! ぐー、すやすや!」


「ええい強情な睡眠っぷりですねぇ! 自分で言うのも何ですけど、アタシ結構うるさいと思うんですけれど! アタシの覚悟の行き場はどこにー!?」



 ダンジョン内で時間の変化は分かりにくいが、とにかく夜深き時――残念ながら乙女の決戦ならず、悶々もんもんとする夜は更けていくのである―――………。

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