第10話:公家みたいな名前の男。

釣り場の岩から降りて、ふたりのところにやってきていた陸はその会話を聞いて、


東高円寺 公仁ひがしこうえんじ きみひと・・公家みたいに立派な名前だけど、名前負けしてるだろ」


「陸はもう、また人のことをバカにして・・・高貴な名前なんだぞ」


「だから、名前がすごすぎて、お前の存在が霞んでるんだよ」


たしかに、お公家さんみたいな名前のメガネ男さんは、よく見るとあまり

名前ほどご立派には見えなかった。


そのお公家さんみたいな男はほんとに牛乳瓶の底みたいなごっついメガネを

かけていたので、それがめちゃ印象的だった。


「あの、ひがしこうえんじさんって呼ぶの長いですから、メガネさんって

呼んでいいですか?」


「ん〜メガネかけてるヤツはたくさんいると思うけどな・・・」

「まあいいけど、それが俺の個性でもあるからね・・・名前で呼びずらかったら、

メガネでいいよ」

「うん、まあだからほとんどの人が俺のこと名前で呼ばないけどね」


メガネさんはメガネ以外、特に特徴もなく痩せてて体型もひょろっとして

頼りなさそうな人だった。


身長は陸より少し低く感じた。


「で?・・・ルフィアさん、なんで君は陸んちにいるのかな?」


「私、陸と結婚するために遠い星から来ました」


「​陸、この子、大丈夫か?」


「ほんとらしいぜ」


「まじでか??え?・・・今、星から来たって言ったぞ」


「そうだよ、ルフィアは間違ったことは言ってないぞ」


「なんか、すごく訳ありな感じだな・・・」

「で?おまえ、もうこの子と一緒に寝てるのか」


「なわけないだろ・・・」


「へ〜、なんか分かんないけど、いいなおまえ」

「俺、おまえんちに遊びに行く楽しみがひとつ増えたな」

「けど、すでにこの時点で俺には、なんのチャンスも見込みもないんだ」


「なんのチャンスだよ」


「いいな〜って思った子には、すでに彼氏がいて、ひとり枕を濡らすのか〜、

ってそんな心境だって言ってるんだよ」


「何、訳のわからないこと言ってるんだよ・・・おまえには関係ないだろ」


「大いに関係あるね・・・この子は・・・ルフィアは俺の親友の奥さんに

なるかもしれない人だろ?」

「見て見ぬ振りなんてできるかよ・・」


「おまえ彼女に、ルフィアに余計な真似も余計なことも吹き込むなよ」


「な、それより説明しろよ・・・なんでこう言うことになったのか?」

「おまえと・・・ルフィアの・・・馴れ初め?」


「聞きたいのか?」


「聞きたい・・・」


「私も聞きたい・・・」


メガネとルフィアは顔を見合わせて笑った。


「この子面白い・・・気に入ったね」


メガネはルフィアのほうに右手の親指を立てて見せ た。


「帰るまで待てないから今、ここで聞かせろ」


もちろんその前に真由美さんが作ってくれたサンド イッチは三人で

仲良く平らげた。


つづく。


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