第47話 その女、魔導師につき①

 バーバラがビーチャム研究所へ訪問する前日の夜のこと。

 ひとりの軽装の冒険者風の女が、クオリーメンの繁華街を歩いていた。


「おい見ろよアレ。イイ女じゃねえか」


 ひとりの男がその女に目をつけると、ツレの男たち二人も彼女に釘付けになる。


「可愛い顔してやがるな」


「スタイルも良いぞ。胸はデカいしケツもイイ」


 三人組の男は頷き合い、彼女へ近寄っていった。


「ん?」


 気配に気づいた彼女が男たちを振り返って立ち止まった。

 男たちは思わず彼女の顔と身体をまじまじと見つめてしまう。

 金髪のショートヘアーに無邪気な少女のような可愛らしい顔立ち。

 それに反比例したスタイル抜群の大人っぽい体つき。

 ショートパンツから伸びるすこやかな脚は、女らしさとたくましさを兼ね備えている。


「よお、ねーちゃん。こんな所でひとりかい」


 ひとりの男が声をかけた。

 ナンパである。


「ひとりだよ?」


 女は屈託なく答えた。


「この町の人間じゃあないっぽいが」


「そうだよ。旅の魔導師的な?」


 女は誇らしげにえっへんと口角を上げた。

 その素振りは子供っぽく、天真爛漫な元気っといった感じだ。


「へえ、意外だな。ねーちゃんは魔導師なのか」


「魔導師ナナラといったら泣く子も黙るんだゾ」


「ローブも羽織ってないし、冒険者って感じだけどな」


「こっちのほうが動きやすくていいんだ」


「なるほどな。で、この町には来たことあるのか?」


「ないよ。だから全然わかんないや」


「じゃあさ、ナナラちゃん。おれたちが案内してやるよ」


 男たちは下品な笑みをひた隠しながら微笑んだ。


「ほんとにー?」


 ナナラはノリが良かった。


「よし。じゃあとりあえず美味い店に案内するぜ」


「やったー!わたし、お腹すいてたんだ〜」


 この時ばかりは男たちもニヤつきを隠せなかった。

 今夜は眠れない夜になりそうだぜ。

 などと期待に下半身...でなく胸を膨らませた彼らはまだ知らなかった。

 それがほんの数時間の儚い夢だったということを。





「お、おい......」


 男たちは呆然としていた。

 飲み始めてから何時間経っただろうか。

 ナナラのペースがまったく落ちない。

 それどころか、酔っているのかどうかさえわからないほど彼女はケロッとている。


「店員さーん、おかわり!」


「ちょちょちょっと待て!」


 思わず慌てて男たちはナナラを制止した。

 これ以上この勢いで飲み続けたら、自分たちのほうが先に潰れてしまう。


「も、もう、そのへんにしとこうぜ?」


「あれ、朝まで飲みまくるって言ってなかったっけ?」


 ナナラにはまるで他意が無く、あどけなかった。

 その様子はむしろ男たちを「うっ」と萎縮させる。


「わるい。おれ、便所行ってくるわ......」


 男のひとりがそう言って立ち上がり、酒酔いのおぼつかない足取りで店内を歩いていった。

 その時だ。


「あっ」


 男はすれ違いざまに誰かと軽くぶつかった。

 

「あんだテメー」


 ぶつかった相手の野太い声が聞こえた。 

 反射的にそいつを見た。

 すると、縦幅も横幅もデカいレスラーのような体格をしたギャング風の大男が、強面こわもてに濁った眼をギラつかせていた。


「いや、おれは便所に行こうとしてだだけで」


「謝んねえーのか、テメー」


「ち、ちょっとぶつかっただけじゃねーか」


「謝んねーんだな」


「いや、だから......」


 その瞬間だった。

 やかましい衝撃音とともに破壊されたテーブルに、男が体ごと埋まった。

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