第46話 真実

 バーバラを連れて研究所に戻ったふたりは、はじめて真実を知った。

〔魔法の泉〕への魔力注入の後、バーバラが毎回こうなっていたことを。

 ゆえにこの先は、老魔導師の自分ではなく、もっと活力に溢れた若い魔導師が相応ふさわしいのではないか、そう考えてバーバラが辞去しようとしていたことを。


「そんなに負担がかかっていたのか......」


 ビーチャムは心配と反省と気づけなかった自分自身への怒りを織り交ぜた如何いかんともしがたい表情をにじませる。

 

「だから代わりの魔導師を見つけることを勧めたんですね。でも、なぜ今までこうなっていたことを隠していたんですか?」


 大成が訊ねた。

 椅子に座りながら杖をついているバーバラは、はぁーっと吐息を吐いた。


「ただの老魔導師の意地じゃよ」


 バーバラの本音ではあった。

 だが本音のすべてではなかった。

 こう言った方が若者ふたりに気を遣わせないで済む。

 バーバラは杖を支えにゆっくりと立ち上がった。


「報酬までもらったんじゃ。プロとして当然の仕事をしたまでじゃ」


「それも貰わないで行こうとしていたじゃないか」


 ビーチャムが真剣な顔でツッコむと、バーバラは飄々ひょうひょうと笑った。


「バーバラさん......」


 大成は感謝の気持ちと同時に、いきでカッコいい人だなぁ、と素直に感嘆していた。

 それからこうも思う。

 魔法や魔力だけじゃない。

 きっとこの人は、俺たちにとって必要な人間だ。

 

「それじゃあ、わしは行くぞ」


「バーさん、もう大丈夫なのか?」


「休んだから大丈夫じゃよ」とバーバラが玄関に向かおうとした時だ。


「あの、バーバラさん!」


 大成が老魔導師を呼び止める。


「なんじゃ?」


「バーバラさんには、俺たちの相談役になってもらえませんか?」


「相談役?」


「ベテラン魔導師として、あるいは人生の先輩として、バーバラさんの知見に授かりたいと、そう思ってます」


 バーバラを見つめる大成の眼差しは、誠実そのものだった。

 青年らしい快活な輝きがあり、相手への敬意と尊敬もある。


「タイセー......」


 ビーチャムの視線はむしろ大成に貼りついていた。

 本当に不思議な奴だ。この男は。


「そうかい」


 バーバラはふっと頬を緩めて、うんうんと頷いた。


「わかった。引き受けるよ」


「ありがとうございます!」


 大成はグッと小さくガッツポーズを取ってから、その勢いのままいきなり切り出した。


「さっそくひとつよろしいですか?」


 あまりのスピード感に一瞬バーバラは呆気に取られるが、次第に面白がってニヤリと笑う。


「なんじゃ?」


「参考までに教えてください。俺たちに合う魔導師って、どんな魔導師だと思いますか?」

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