第35話 出会いは財産

 翌日。

 午前中に研究所へやって来たバーバラが扉を叩いた。

 反応がない。


「朝まで研究でもしとったんか?それともビジネスとやらか?」


 無理に起こすのも悪いと思ったが、このまま行ってしまって困るのは彼らだろう。

 そう考えたバーバラは杖を振り上げると、扉を思いっきりぶっ叩いた。


「こらっ!はよ起きんか小僧ども!」


 ドンドンドンという激しい音と大声に、さすがの青年ふたりもビクンと目を覚ました。

 

「すまない、バーさん。今日だったな」


 ボサボサ頭のビーチャムが迎えに出てくるなり、バーバラは陽気に笑った。


「充実しとるようじゃな。レオ」


「バタバタしていてな。ちょうど貯めた魔力も切れてしまったところだった。とにかく、中に入ってくれ」


 バーバラに研究室へ入ってもらうと、大成とビーチャムはさっそく改良版メラパッチンをお披露目する。


「ほう。火の魔法石もまた新たに作ったのか」


「当然だが大きさが違うだけじゃない。性能も大きく異なっている」


 ビーチャムが石を手に取った。


「使用回数は百六十回。発火させるには簡単な詠唱を必要とする」


「となると、必要とする魔力量もかなり増えるんじゃな」


「当然そうなるが、それについてはこれでカバーできるようにした」


 ビーチャムの説明に合わせて大成が〔魔法の泉マギアフォンス〕を示した。


「ビーチャムがこの石鍋に改良を施したんです」


「ほう?」


「ビーチャムの計算では、それまでと同等量の魔力充填で、十倍の魔力充電が可能になります」


 実は改良版メラパッチンの開発に並行して、ビーチャムは〔魔法の泉〕の改良開発も行っていた。

 というのも、大成のアイディアを実現して改良版メラパッチンを作るとなると、必要魔力が大幅に増えることは明白だったからだ。

 

「せっかくバーさんに貯めてもらった魔力がすぐに切れてしまうようではしょうがないからな」


 言うのは簡単だが、やるのは難しい。

 事も無げにやってしまうレオはやはり天才だ。

 バーバラは改めてビーチャムに感嘆の眼差しを向ける。


「やはりレオは大したもんじゃな」


「僕はいつも通りだ」


「いつもどおり、ねぇ」とバーバラは大成を一瞥した。

 今、レオの才能を刺激しているのは、間違いなくこの男だ。


「出会いとは、何よりの財産じゃな」


「えっ?」


 何のことだかわからない大成はすっとんきょうな反応をする。

 

「ほっほっほ。では、魔力注入を始めようかの」

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