第34話 改善②

 ある日の午後。

 大成はリアカーを引いて川辺にいた。

 しかも以前やって来た所よりも遠い位置にある、町はずれに近い場所だ。


「この辺ならちょうどいいのがあるだろう」


 太陽が反射する川面を眩しそうに眺めながらそう言ったのはビーチャム。

 この日、大成はメラパッチン素材回収作業にビーチャムも連れ出していた。

 新たなメラパッチンに相応しい石を回収するためである。


「これとこれ、あとこれも良さそうだな」


 ビーチャムが次々と目をつけた石を手に取って布袋に入れていく。

 

「こんなもんだな」


「よし。すぐ始めるぞ」


 二人は石を集めた布袋をせっせとリアカーに積むと、また研究所へ引き返していった。


 やがて研究所に戻ってから数時間が過ぎた頃だろうか......。


「おおお!これが......!」


 大成の声が研究室に轟いた。

 今、彼らの目の前にあるモノは、それまでのモノよりも二回り以上大きいサイズの石。

 そう。改良版メラパッチンである。


「さっそく魔力を充電するか」


 ビーチャムが石鍋を台に置いた。

 魔力注入魔導具〔魔法の泉マギアフォンス〕だ。


「チャージ」


 相変わらず〔魔法の泉〕による魔力充電作業は簡単だ。

 石鍋に魔法石を入れ、蓋を被せ、唱えるだけ。

 石鍋が青く光り出したら充電完了。

 

「よし。さっそく試すぞ!」


 大成は魔法の泉からメラパッチンを取り出すと、台所に行って炉に入れた。

 あとは唱えるのみだ。


「ああ、ええと......ど忘れした」


 どうしてあんな簡単な文言を大成は忘れたのか。

 実はそれには理由がある。

 

「だから最初は暗唱ではなく文字を読み上げろと言っただろう」


 後ろからビーチャムがメモ用紙を持ってきて大成に渡した。

 

「覚えたつもりがダメだった」


「やったことないのだろう?」


「だからカッコよく紙を見ないで詠唱したかったのに!」


「いいから早くやれ」


 わかったよと言いながら大成は、炉に入れた改良版メラパッチンに向かって手をかざす。


「メラパッチンよ。タイセーの名に於いて命ずる。火を起こせ。イグニア」


 次の瞬間、炉の中にパチパチと火が点った。

 実験成功。

 と思いきや、これで終わりではなかった、


「よし。火を消すぞ」


 大成は炉を消火すると、再び手をかざし、先ほどと同様に詠唱した。

 炉の中にパチパチと火が点った。


「もういいんじゃね?」


 大成は肩越しにビーチャムへ訊く。


「ダメだ。あとやるぞ」


 にべもなくビーチャムはびしっと言い放った。


「ですよねぇ......」


 大成は諦めたように大きく息を吐くと、拳を握って気合いを入れ直した。


「ソッコーで終わらせてやる。うおおおお!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る