第4話 手違い

「どうしましたか?」


「いや、なんでもないよ」


「では、お話を続けましょう」


「わかった。飛ばしてくれ」


「はい?」


「どうせもう戻れないんだろ?だったらさっさと連れてってくれ。その世界に」


「良いのですか?」


白々しらじらしいな。どの道それしか残されてないんだろ?今の俺には」


「さすがは徳富大成様。賢い方です。やはりわたくしの目に狂いはなかった」


「つまらないお世辞はいいから」


「かしこまりました。では早速、貴方をお運びいたしましょう」


「ちなみに、どんな世界なんだ?」


「そうですね。わかりやすく言えば、ファンタジーな世界です」


「ファンタジー?まさか、魔法が存在したりとか?」


「そのまさかです」


「ま、マジか!じゃあ、俺も魔法が使えんのか!すげえ!」


「ひとつ、徳富様に謝っておかねばならないことがございます」


「な、なんだ、突然」


「実は手違いがございまして」


「一体なんの話だ?」


「本来、貴方はするはずでした」


「え?どういう意味?」


「つまり、貴方はだったのです」


「は??」


「女性を助けた貴方は、本来あそこで死ぬはずでした。ところが手違いで、貴方は死なずしてここに来てしまった」


「いや、ちょっと待ってくれ。つまり、俺が生きたままここにいるのは、手違いだったってこと?」


「はい」 


「となると、貴女が俺の命の恩人というのも、結果的にそうなった、というだけじゃないか」


「結果的にそうなれば、それが事実ではないのですか?」


「それはそうだけど......」


「話を戻します。徳富大成様。貴方は転生先の世界...否、転移先の世界で、本来は与えられるはずだった力を、与えられなくなってしまったのです」


「......つまり、俺はどうなるんだ?」


「本来持ち得たはずの、賢者レベルの魔法能力は一切得られず、まったく魔法の使えない人間として転移されます。つまり、ほぼ今まで通りの貴方のままです」


「それって......ファンタジーな世界で、不利だよな?」


「ええ。しかしご安心ください。その世界は、すでに大きな戦争が終わったばかりです。当分の間は平和だと言えるでしょう」


「ちょっと待て。転生女神テレサ。あんたは最初、その世界の人々を豊かにしろと言ったよな?それが俺の使命だって」


「ええ。それがなにか?」


「それって、本当は魔法の力で何とかする想定の使命だったんじゃないのか?」


「そうですね」


「そうですね、じゃないわ!ただの一般ピーポーな俺が、そんなファンタジー世界に行って何ができるんだよ!?」


「徳富大成様。貴方にはあるじゃないですか」


「何がだよ?」


「営業力が」


「ファンタジー世界でそんなものが役に立つかぁ!」


「そうとも限りませんよ?やり方次第では、魔法なんぞよりもよっぽど希望のある力になり得ます」


「くっ、納得できない」


「それに、まったく特別な力がないというわけでもありません」


「な、何かあるのか!?」


「言語能力です」


「は?」


「転移先の世界では、当然のことながらまったく異なる言語が使用されています。しかし徳富様は、何の問題もなく、今まで通り日本語を使用するのと同様に、転移先の世界の言語を操ることができます」


「そ、それは、確かに役立つけど......」


「というわけで、私からは以上です。さあ、新たなる世界へ、旅立ちの時です」


「もう?ま、まだ心の準備が」


「さっさと連れて行ってくれと仰ったのは貴方でしょう?さあ、行くのです」


「いや、ちょっと待って...」


「行きなさい。徳富大成よ。そして、崇高なる使命を果たすのです。さすれば、元の世界へ戻して差し上げましょう」


「えっ?俺、日本に戻れるの!?」


「使命を果たせば、です。その時は、あの時に死ななかった世界線の未来へ、貴方をお連れいたしましょう」


「マジか。てゆーかそれ最初に言えよ!なんか騙されたみたいだぞ!というより騙しただろ!?」


「もう遅いです。さあ、行くのです!」


「あっ、あ、う、うわぁぁぁぁっ!!」



 青年は、神秘的な光と共に何処いずこへと消えていった。

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