第32話 新たな旅立ち


あれから1ヶ月が経った。

白狐家と黒狐家の和解により、両家の関係は急速に改善されていった。


私は相変わらず会社に勤めながら、龍騎士としての仕事もこなしていた。


「如月、この書類を」


川瀬が近づいてくる。

以前のような嫌味な態度はなくなり、今では普通の先輩後輩の関係になっていた。


「はい、ありがとうございます」


書類を受け取ると、川瀬が小声で言った。


「今日も"残業"か?」


彼は私の"残業"が実は龍騎士の仕事だということを薄々気づいているようだった。


「はい、ちょっと用事がありまして」


「そうか。気をつけてな」


川瀬が心配そうに言う。

彼なりの気遣いなのだろう。


「ありがとうございます」


私が答えると、川瀬は満足げに頷いて席に戻っていった。


時計を見ると、もうすぐ定時だ。

私は急いで仕事を片付け始めた。


「如月」


声をかけられて顔を上げると、そこには闘護部長ーーいや、瑠生がいた。


「準備はいいか?」


「はい、もう少しで」


瑠生は黙って頷き、私の仕事が終わるのを待っていた。


定時になり、私たちは一緒にオフィスを出た。


「今日はどこへ?」


私が尋ねると、瑠生は少し照れくさそうに答えた。


「実は、食事でもどうかと思って」


「え?」


「たまには、普通のデートもしたいと思ってな」


瑠生の言葉に、私は思わず頬が熱くなるのを感じた。


「うん、行きたい」


私たちは人気のない路地に入り、そこで音夢へと移動した。

現世では社員と上司の関係だが、ここでは恋人同士。


音夢での私たちは和装姿に変わっていた。

瑠生の姿を見て、ドキリとする。

やはり彼は和装が似合う。


「どうした?」


「ううん、似合ってるなって」


「そうか? お前こそ美しいぞ」


照れ隠しに咳払いをする瑠生。

その仕草が可愛らしくて、思わず笑みがこぼれる。


私たちは音夢の街を歩きながら、露店で食事を楽しんだ。

現世とは違う雰囲気に、まるで異世界デートをしているような気分になる。


「ああ、そういえば」


瑠生が突然言い出した。


「来週、白狐家と黒狐家の合同会議があるんだ」


「うん、聞いてる」


「お前も出席してほしい」


「私が?」


「ああ。お前は両家を繋ぐ存在だからな」


私は少し緊張した表情を浮かべる。


「大丈夫か?」


瑠生が心配そうに尋ねる。


「うん、頑張るわ」


「俺がついているから」


瑠生の言葉に、安心感が広がる。


食事を終え、私たちは小高い丘に登った。

そこからは音夢の街全体が見渡せた。


「綺麗」


私がつぶやくと、瑠生が静かに頷いた。


「如月」


振り向くと、瑠生が真剣な表情で私を見つめていた。


「なに?」


「俺たちの結婚の話なんだが」


「え?」


突然の話に、私は驚いて目を丸くした。


「白狐家の長老たちも、もう認めてくれたんだ」


「本当に?」


「ああ。だから、その……」


珍しく言葉に詰まる瑠生。

その姿が愛おしくて、思わず笑みがこぼれる。


「待ってたわ」


私の言葉に、瑠生の表情が明るくなる。


「じゃあ」


瑠生がポケットから小さな箱を取り出した。


「如月キナ。俺と結婚してくれないか」


箱を開けると、中には美しい指輪が。


「はい! 喜んで!」


私は迷わず答えた。


瑠生が指輪を私の指にはめてくれる。

そして、静かに唇を重ねた。


月明かりの下、私たちは抱き合っていた。

これからの人生を、共に歩んでいく。

そう誓い合った瞬間だった。


************

この作品が少しでも良いと、思ってもらえました、☆や♡で応援お願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

現代龍騎士の憂鬱 影燈 @kuraakashi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ