第29話 明かされる過去


白狐家の屋敷に戻った私たちは、静かな和室で向かい合って座っていた。

月明かりが障子を通して柔らかく部屋を照らしている。


「さて、どこから話そうか」


瑠生が少し困ったように首を傾げる。


「私たちの出会いから、教えて」


私の言葝に、瑠生はうなずいた。


「そうだな。それは5年前のことだった」


瑠生の口調が柔らかくなる。


「お前がまだ18歳の時だ。俺は白狐家に派遣された護衛として、初めてこの屋敷に足を踏み入れた」


「そう、覚えてる。あなたは随分と若い護衛だって、みんなが噂してたわ」


「ああ。当時23歳だったからな」


瑠生が懐かしそうに笑う。


「最初は、お前のことを"守るべき大切な姫君"としか見ていなかった。だが、日々を共に過ごすうちに……」


「惹かれあったのね」


「ああ。お前の強さと優しさに、俺は魅了されていった」


瑠生の言葉に、私は頬が熱くなるのを感じた。


「でも、身分違いの恋。周りは反対したわ」


「そうだ。特に、お前の父上は……」


瑠生の表情が曇る。


「父は最後まで認めてくれなかったわね」


「ああ。だが、俺たちは諦めなかった」


「そう、秘密の約束をしたのよね」


私は左手の薬指を見る。

そこには、細い糸が巻かれているような跡があった。


「赤い糸の代わりに」


瑠生も同じように左手を見せる。

彼の指にも同じ跡があった。


「いつか必ず公に認められる関係になろうって」


私の言葉に、瑠生が頷く。


「ところが、その直後だった」


瑠生の表情が急に厳しくなる。


「黒狐家の襲撃が」


「ええ」


私も、その時の記憶が蘇ってくる。


雨の中、刀を交える人々。

血潮が飛び散る中、必死に逃げる自分。


「俺は必死でお前を守ろうとした。だが……」


「私は崖から転落して」


「ああ。あの時は、本当に絶望したよ」


瑠生の目に、悲しみの色が浮かぶ。


「でも、私の遺体は見つからなかった」


「そうだ。だから俺は信じていた。お前が生きているって」


「そして、現世で再会したのね」


「ああ。だが、お前は記憶を失っていた」


瑠生が私の手を取る。


「俺は迷った。このまま何も言わずにいるべきか、真実を告げるべきか」


「だから、龍騎士としての私を目覚めさせようとしたの?」


「ああ。でも、それはお前を危険に晒すことでもあった」


瑠生の手に力が込められる。


「本当に、ごめん」


「謝らないで」


私は瑠生の手を強く握り返す。


「あなたのおかげで、私は自分を取り戻せたのよ」


「如月……」


瑠生が私を抱きしめる。


「もう二度と、お前を手放さない」


「ええ。私も、あなたの側を離れない」


月明かりの中、私たちはそっと唇を重ねた。


長い年月を経て、やっと辿り着いた今。

これからの人生を、共に歩んでいく。


そう誓い合った瞬間、どこからともなく鈴の音が響いた。


「これは!」


瑠生が驚いて立ち上がる。


「どうしたの?」


「鯰だ。しかも、とてつもなく強大な気配がする」


私も立ち上がる。


「行きましょう、瑠生」


「ああ、一緒に」


私たちは互いの手を取り、部屋を飛び出した。


新たな戦いの幕開けだ。

しかし今度は、二人で立ち向かう。


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