第28話


刀と刀がぶつかり合う音が響き渡る。

私と瑠生は背中合わせで、次々と襲いかかってくる黒装束の集団を迎え撃つ。


「如月、大丈夫か?」


瑠生の声が聞こえる。


「ええ、問題ないわ」


記憶が戻った今、私の体は以前の戦いの感覚を取り戻していた。

刀さばきも、動きも、すべてが自然と体が覚えているかのようだった。


「くっ」


瑠生の苦しそうな声に、はっとして振り返る。

彼の腕から血が滴っていた。


「瑠生!」


「心配するな。かすり傷だ」


そう言いながらも、瑠生の動きが鈍くなっているのが分かった。


(このままじゃ……)


その時、空から轟音が響いた。


「ジィ!」


私の呼びかけに応えるように、蒼く輝くジィが空から舞い降りてきた。


「瑠生、ジィに乗って!」


「おまえは?」


「私は大丈夫。ここは任せて」


瑠生は一瞬躊躇したが、すぐに頷いた。


「分かった。だが無理はするな」


瑠生がジィの背に乗ると、ジィは再び空高く舞い上がった。


私は地上に残り、襲いかかってくる敵と対峙する。


「はぁっ!」


私の刀が敵を次々と倒していく。

しかし、その数があまりに多い。


(このままじゃ……)


そう思った瞬間、突如として地面が大きく揺れ始めた。


「なっ!」


驚く声が周囲から上がる。


地面が割れ、そこから巨大な影が現れ始めた。


(まさか、鯰!?)


だが、現れたのは鯰ではなかった。

それは、巨大な白狐の姿をしていた。


「なんだ、あれは!」


刻塚が驚きの声を上げる。


白狐は吠えると、その尾で黒装束の集団を薙ぎ払った。


「守護霊狐……」


私は思わず呟いた。

白狐家に代々伝わる伝説の守護霊。まさか本当に現れるとは。


白狐は私の前に立ち、優しく首をすり寄せてきた。


「ありがとう」


私がそう言うと、白狐は再び吠えた。

その声に呼応するように、空からジィが舞い降りてきた。


「如月!」


瑠生が私に手を差し伸べる。


「行くぞ!」


私はその手を取り、ジィの背に飛び乗った。


「刻塚!」


私は空から刻塚を見下ろす。


「これが白狐家の力よ。もう諦めなさい」


刻塚は歯噛みしながら、なおも刀を構える。


「くっ、ここまでか……」


そう呟いた刻塚の背後に、突如として黒い影が現れた。


「父上!?」


刻塚の驚きの声。

その黒い影は、刻塚の父である黒狐家の当主だった。


「刻塚、下がれ」


冷たい声で当主が言う。


「しかし、父上」


「もはやここでの戦いに意味はない。引くぞ」


当主はそう言うと、私たちに向き直った。


「白狐家の姫君、そして瑠生殿。今回の件は水に流そう。だが、これで終わったわけではない」


その言葉と共に、当主は黒い霧となって消えていった。

残された黒装束の者たちも、次々と姿を消していく。


やがて、辺りには私たちだけが残された。


「終わったのね」


私は安堵の息をつく。


「ああ」


瑠生も肩の力を抜いた。


ジィがゆっくりと地上に降り立つ。

私たちがその背から降りると、守護霊狐が近づいてきた。


「ありがとう。あなたのおかげで助かったわ」


私が感謝を述べると、守護霊狐は静かに頷いた。

そして、光となって消えていった。


「如月」


瑠生が私を抱きしめる。


「本当に、無事で良かった」


「瑠生……」


私たちはしばらくの間、そうして抱き合っていた。


「さて、と」


やがて瑠生が私から離れる。


「説明しなきゃいけないことがたくさんあるな」


「ええ」


私は頷く。

記憶は戻ったものの、まだ分からないことがたくさんあった。


「瑠生、私に話して。私たちの過去のこと、そして……これからのことを」


瑠生は少し考え込むような表情をしたが、すぐに優しい笑みを浮かべた。


「ああ、全て話そう。おまえには隠し事なんてできないからな」


そう言って、瑠生は私の手を取った。


「行こう、如月。俺たちの物語の続きを紡ぐために」


私はその手をしっかりと握り返した。


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