第30話


鈴の音に導かれるように、私たちは屋敷を飛び出した。

夜空には月が煌々と輝いている。


「ジィ!」


私の呼びかけに応えるように、蒼い光を放つジィが現れた。


「行くぞ、如月」


瑠生が私の手を引いて、ジィの背に飛び乗る。


ジィが大きく羽ばたき、私たちは夜空へと舞い上がった。


「あれだ!」


瑠生が指差す方向に目を向けると、巨大な影が見えた。


「あれが……鯰?」


私の問いかけに、瑠生が頷く。


「ああ。だが、今まで見たこともないほどの大きさだ」


確かに、その鯰は今まで見たどの鯰よりも巨大だった。

まるで山のような大きさで、その体は黒い鱗に覆われている。


「キナ、瑠生!」


振り返ると、黄金の龍に乗った不知火が追いついてきた。


「不知火、状況は?」


瑠生が尋ねる。


「最悪だ。あの鯰、尋常じゃない。白狐家の結界を簡単に破ってきやがった」


「なに!?」


私は驚いて叫ぶ。

白狐家の結界は、代々受け継がれてきた強力な防御だ。

それを簡単に破るなんて。


「おそらく、黒狐家の仕業だろう」


不知火の言葉に、瑠生が歯を食いしばる。


「くそっ、あの当主め」


「でも、どうして?」


私が尋ねると、不知火が答える。


「おそらく、白狐家と黒狐家の力のバランスを崩すためだろう。キナ、お前が戻ってきたことで、白狐家の力が強まった。それを恐れたんだ」


「私のせいで……」


「違う」


瑠生が強く否定する。


「お前は悪くない。黒狐家の野心が、全ての元凶だ」


その時、鯰が大きく口を開いた。

そこから、まるで大砲のような光線が放たれる。


「危ない!」


瑠生の声と共に、ジィが急降下して攻撃をかわした。


「くそっ、あんな技まで使えるのか」


不知火が舌打ちする。


「どうすれば……」


私が呟いた瞬間、心の中で何かが反応した。


(そうか、これが……)


「瑠生、不知火!私に力を貸して!」


「どうする気だ?」


瑠生が尋ねる。


「説明している時間はないわ。とにかく、私の後ろに!」


二人は躊躇なく私の指示に従った。


私は目を閉じ、心の中にある力を呼び覚ます。

すると、体が淡い光に包まれ始めた。


「これは!」


不知火が驚いた声を上げる。


「白狐の血と、黒狐の血」


私は静かに呟く。


「二つの力が、私の中で一つになる」


光が強くなり、私の周りに巨大な狐の姿が現れ始めた。


「行くわよ!」


私の叫びと共に、光の狐が鯰に向かって飛び込んでいく。


鯰が再び光線を放つが、狐はそれをいとも簡単に払いのけた。


「すごい……」


瑠生の感嘆の声が聞こえる。


光の狐は鯰に体当たりをし、その衝撃で鯰が大きくのけぞる。


「今よ!」


私の声に反応し、瑠生と不知火が一斉に攻撃を仕掛ける。


剣と光の矢が鯰に降り注ぐ。


鯰は苦しそうに身をよじる。

その瞬間、私は狐の姿をした自分の意識を鯰の中に送り込んだ。


(これで終わりよ)


鯰の体の中で、私の意識が光を放つ。


轟音と共に、鯰の体が光に包まれた。


「やった!」


不知火が歓声を上げる。


しかし。


「まだよ」


私は静かに言う。


鯰の体が崩れ落ちていく中、黒い霧のようなものが立ち昇っていく。


「あれは……」


瑠生が声を潜める。


霧の中から、一人の男が姿を現した。


「よくやった、白狐家の姫君よ」


その声に、私たちは凍りつく。


黒狐家の当主が、私たちの目の前に立っていた。


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