第23話 勘違い。


ロビーに着くと、みんなすでに集まっていた。


「遅刻だぞ、如月」


川瀬が嫌味たっぷりに言う。

昨日のことは覚えてないのかな。


「すみません」


私が頭を下げると、闘護部長が割って入ってきた。


「もういいだろう。バスの出発まであと10分ある」


「はい」


部長の顔を見ると、昨日のことを思い出してしまう。

奥さんがいるんだ。

胸が締め付けられるような感覚。


「如月、気分悪そうだな。大丈夫か?」


部長が心配そうに声をかけてくる。


「平気です」


「本当か? 顔色悪いぞ」


「二日酔いなだけです」


私の返事に部長は眉をひそめた。


「昨日そんなに飲んでたのか」


「ええ、まあ」


「気をつけろよ。おまえは今後、体調管理が大切になる」


そう言って部長は背を向けた。


みんなでバスに乗り込む。

私は涼子の隣に座った。


「ねえねえ、昨日どうだった?」


涼子が小声で話しかけてくる。


「え?」


「課長とさ」


ああ、そういえば涼子は課長と二次会に行くって言ってたっけ。


「どうだったの?」


「うーん、まあまあかな。お酒飲むとすごく話しやすくなるんだけど、奥さんの話ばっかりで」


「奥さん?」


「そう。奥さんがどうのこうのって」


「へえー」


「キナは? 部長と何かあったの?」


「え?」


「だって美佳さんが朝からずっと不機嫌そうで、部長の悪口言ってたよ。何かあったんでしょ?」


「ああ」


そうか。美佳さん、朝から部長の悪口を。

昨日のことを根に持ってるんだ。


「ちょっと誤解されちゃったみたい」


「へえー、どんな風に?」


「いや、ほんとに何もなくて。ただ話してただけなんだけど」


「そっかー。でもキナ、部長のこと好きでしょ?」


「えっ」


「バレバレだよ。部長見る目が違うもん」


そんなに見透かされてたのか。

顔が熱くなる。


「でも無理だよ。部長、結婚してるし」


「え? してないよ」


「してるって。美佳さんが言ってた」


「美佳さんが? あーそっか。キナ、勘違いしてるんだ」


「勘違い?」


「うん。美佳さんが言ってたのは、闘護部長じゃなくて総務部長の話だよ。美佳さん、総務部長のことが好きだったんだって。でもその人が結婚しちゃったから、それで落ち込んでるんだよ」


「え?」


「だから闘護部長は独身だよ。キナ、チャンスあるんじゃない?」


涼子の言葉に、私の中で何かが弾けた。

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