美味い酒

酒は美味い。

酒飲んで見る景色はなんでも美味い。

だくだくどろどろ豚骨スープのラーメンも美味い。

なんて美しい色。広大な砂漠。まさに絶景。

白い煙がネオンライトにかかって美味い。

割り箸すら美味い。

「おいおい、大丈夫かぁ?」

賑やかな店内と笑い声も美味い。

こんなに言葉が出てくる俺も美味い。

「もう帰ってくんな!クソジジイ!」

そう叫ぶ俺の女も…美味かったなぁ。

あー。天国って、豚骨スープの中なのかもしれない。

右見ても美味しい。

左見ても、下見ても、美味しい。

あーー。極楽。

「おいお前、知ってるぞー!お笑い芸人だろ!」

「へぇそーなのか?」

うるせえジジイどもめ。

美味しいの邪魔だ。

「そーーなんですよ!良かったら忘年会でも呼んでくだへぇ」

そんな奴らに媚び売るオ・レ。

「お前なんか呼ばねぇよ!」

ジジイがこの一言で爆笑を掻っ攫う。

俺も笑っちまった。

くそぅてめぇ、一撃じゃねぇか。

すげーな!

感心も束の間、急にガシッと後ろから肩を掴まれる。

振り向くと、あいつ。

「ネタ合わせ」

それだけ言うと、隣に座って豚骨ラーメンをオーダー。

「こいつにツケてくださーい」

と俺に親指を向ける。

「たいしょー!来月はらいまあす!」

大きな声でざけんな!と叫ばれ、店内爆笑を掻っ攫う俺。あ、さっきより多いんじゃね?

「ベロベロだな」

こいつのゴミを見るような目。美味しく無い。

「ベロベロ〜」

おどける俺。美味しいかも?

「…あと3日なんだけど」

トーンでわかる。こいつはかなり怒っている。

冷静な怒りとは不思議なパワーを持っていて、酒をさーっと冷ます効果がある。

「…すまん」

「すまんとかじゃなくて、なんで来ないの」

「…………気分?」

ドンッと机を叩かれた。

そこをすかさず手でヨシヨシする。

「こんなんで勝てると思ってんの?」

「…大丈夫だよ。お前のネタだよ?いけるって!」

「ネタ練習サボって、負けた時仕方なかったなで終わらせたいだけだろ」

おぉ、図星。

「毎回毎回直前になると酒に逃げる。

酒飲んでも良いからさ………。

せめて合わせにくらい来いよ!」

店内にもこの気まずい空気が伝染している気がして、俺は思わずラーメンを啜った。

「そゆとこだよ、きょーちゃん。

真面目に話してるんだから、真面目に返してやれよ」

大将がそう言って、隣に湯気立ち登る豚骨ラーメンを置く。

俺は隣が見れない。

真面目に…って。真面目にしていたくないからこんな生き方なのに。

「…賞金、欲しく無いの?」

隣からぽつりと聞こえたこのセリフ。

こいつ…分かってやがる。

「欲しい。すごく欲しい」

「じゃあやろーぜ。賞金どころか、知名度が上がればその後も数年は安定だろ」

「…そうだよな。そうなんだよ」

なぜこんなにも進まないのか…。

理由は分かっている。

分かってるんだ…!!

言うぞ。もう10回くらい言ってるけど、、、

言うんだ!!!!俺!!!!

何万回も!言ってやれ!!!

「じゃあ、あの…ネタの、俺が証券サラリーマンって役、やめない?」

「え?なんで?」

え?なんで????

「いや、想像できないんだよ!!

絶対胡散臭いし、絶対嘘だよね?」

「そこが面白いんじゃん!」

「いや、じゃあ詐欺師ってことにしない?

淡々と証券サラリーマンやるの、キツいし、なんならツッコミ寄りの役の設定だし。

あの役、俺がやるなら絶対ヤバい奴じゃないと。ネタ入ってこねぇって。

それか逆にお前が詐欺師で、俺が簡単なやべー客の方が想像出来るじゃん!」

「それじゃあ普通じゃん」

「普通で良いんだよ!そこは!!」

「じゃあお前が書けよ!」

「無理だよ!大将、生2つ!!!」

「なんでビール頼んでんだよ…」

「飲もう!そして語り合おう!それしか道は無い!!」


酒は美味い。

友と飲む酒はより美味しくなる。

相方は正直心底理解出来ないが、酒は美味い。

それが共有出来ればひとまず今夜は良い。

とりあえず、良い。

ネタ、、、書いてみようかな。

めんどくせぇな。

けど金が欲しい。

酒でも飲みながら、一本書いてみるかぁ。




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