【短編集】これだから人間はおもしろい

かなこ☺︎

コーラとリンゴジュース

「コーラの罪悪感って癖になるよね」

目の前でスマホいじってるあおぴょんに突然そう投げかけた。

「あーわかる。なんか、ダメなんだけど、そこも魅力みたいな」

そんな風に、あおぴは快く共感してくれた。やっぱ気ぃ合うわ。

「それに似てんだよね、翔斗追いかけちゃうの」

私はため息をつく。

さっきから微動だにしないスマホ。

開いているメッセージアプリには太晴(たいせい)からの通知が2。

「あー…なるほど。てか分かりやす!その説明!やっぱ、りさぴ賢くない?!」

「あざ〜」

「あははっ元気出しなって。りさぴ太晴にはかなり好かれてんのにね〜」

「太晴は、りんごジュースって感じ」

「うっっわ!分かるわ!

万人受けするし、別に嫌でも無くて、けど1番じゃない感!」

「私わがままだよね〜〜、つらああ」

翔斗も太晴もかっこいいしタイプではある。

翔斗はノリが良いし、一緒にいると楽しい。けどまじで浮気ばっかのクソ。

1番はりさぴだけ、とか言っといて何度も裏切られた。

それに比べて太晴はとにかく優しい。

「別れたの何回目だっけ?」

あおぴが相変わらず忙しなくスマホを触りながら、目の前の紙パックカフェラテを飲む。

「…2回目、かな?多分」

「太晴に告られたのは?」

「ん〜…なんか別れる度言われてるかも。だから2回?かな?」

「やっば。太晴まじ一途。

追われる方が幸せって言うよ〜??

なんだかんだ、毎日コーラってきついし」

……確かに。

「あおぴ天才」

「いぇーい」

お互いの紙パックカフェオレで乾杯した。

太晴に返事しようかな、とタップした瞬間、コンビニに人が入ってくる音が響いた。

いつも気にならないのに、ふと入口に目線を送ると、部活終わりの太晴が立っていた。

「あれ、何してんの」

太晴と目が合ってしまい、普通に気付かれた。

背を向けていたあおぴが振り向き驚いてあわあわしながら話す。

「え?!太晴じゃん!

えーと…か、カフェオレで乾杯してた」

あおぴはテーブルにあるカフェオレを指差したけど、太晴は私の目の前のスマホを見てるんじゃないかと思って心臓がドキッと大きく跳ねる。

「へぇ…」と太晴がため息みたいに言葉を発して、無言の時間が訪れた。

な、何、この間。

やばい、返事返せよってこと??

あおぴが太晴を見ながら少し口を動かしている。

言葉を探しているんだろう。

どうしよ、気まずい。逃げたい!

「た、太晴は?何?お菓子買いに来たの?」

「俺さ」

太晴があおぴの言葉を遮る。

「りさのこと、諦めるわ」

太晴が顔を歪めながら、私を真っ直ぐ見た。

「もう良いよ。………翔斗が好きなんだろ。

自分を大事にしてくれる奴もわかんねぇから、人を大事に出来ねぇんだな…」

少し裏返った声が、きゅっと胸に食い込む。

「もう、返事も、良いから」

太晴はそのままコンビニを出て見えなくなった。

その後ろ姿が、小さく小さくなっていくにつれて、さっき胸に食い込んだ言葉が深く深くどこかに刺さっていく。

「何あいつ、急にキレて。りさぴ悪くないよ〜!」

あおぴは私の表情を見て慰めてくれたが、太晴の言葉がなんだか苦しくて上手く話せない。

「りさぴ、なんて返せば良いか迷ってただけじゃんね。決めつけてさ。大事にしてるっつーの!」

目の前のスマホに目を落とすと、太晴からの『今日部活終わり時間あるから』『元気出るように、前言ってたカフェオレ届けよっか?』の文字が浮かんでいる。

そうだ。

何て返そうか迷ってただけなのに…。

でも、本当に迷ってたのかな、私。

「ま、ちょっとカッとなっただけだよ。明日には謝ってくるんじゃない?」

そう話すあおぴのスマホが震えて、また忙しなく触り始めた。

『自分を大事にしてくれる奴もわかんねぇから、人を大事に出来ねぇんだな…』

どうしてこんなに、食い込んでくるんだろう。

「多分…だけど、太晴は謝ってこないよ」

「えー?そう?」

「…帰るわ」

私はあおぴに呼び止められながらも、聞こえないフリをしてそのままコンビニを出て家に向かった。

「気分最悪……」

何か、大事なものを無くした気がした。

昔幼稚園の先生が大好きで、ずっと通っていたいのに卒園した日のことがなぜか頭を過ぎる。

泣く私に、優しい声で「じゃあね」と言った、顔も思い出せないお姉さんのような先生。

なんで、それが浮かぶの。

スマホがポケットで震えた。

あおぴかな、と思って見ると、翔斗の文字。

『今暇?うち来いよ』

うん、とすぐに打ち込んだ。

『コーラ買ってきて』

とすぐに返ってくる。

私は翔斗の家の近くのコンビニに立ち寄った。

やっぱ、私コーラ派なんだ…。

トイレで化粧直しをしながら、会ってから復縁する為の会話を脳内でシュミレーションする。

なのにどこかで止めろと叫ぶ自分もいる。

太晴の言葉と顔が浮かんでは消え、なんだかもう感情ぐちゃぐちゃで、何が正しいか分からない。

「コーラはダメだよ。体に毒」

ペットボトルコーナーで男性にそう話す女性が居た。

えー、と不満気な男性はどことなく嬉しそうでもある。

「あんたの為に言ってんでしょー!

良いわよ、別に。買ったって」

「分かったわかった、ありがと。

俺にはリンゴジュースが丁度良いや」

「リンゴジュース舐めんな」

夫婦、だろうか。

なんだか喧嘩みたいな会話なのに、仲が良さそうだ。

手元に取ったコーラを見る。

翔斗にそんなこと言ったら、何て言われるだろうか。

は?俺最強だし、なめんな。とか言いそう。

太晴に言ったら、ありがと。って言うのかな。

どっちも良いな。

でも……。

「今はこっちがいい」

私はコーラを買って、翔斗の家に向かう。

罪悪感。

罪悪感という過ちを犯す。

傷付くと分かっていても、好きなものは好きだ。

他人からは馬鹿げてるって言われても、私は真面目に馬鹿してやるんだ…。

これからもきっと辛い。

でも、やっぱり会えないのが今は一番辛い。

だから覚悟を決めてやる。

太晴を失っても、翔斗を追いかける、覚悟。

持っていた黒のサインペンで、"コーラはクソ"とペットボトルに書いた。

液体のせいでよく見えない。

そして小さく、"でも大好き。"と書き加えて、思いっきり上下に振ってやった。

これでもかと振った。

嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い!

はじけて、噴き出て、無くなっちゃえ。

いつか笑い話になるくらいに。

いつか、そう言えば好きな時あったなぁって言えるくらいに。




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