第5話燻る火種ときな臭さ
御子様はお美しい、羨ましい、惜しむなら性が男なら。
王室に拝顔できる貴族が言う不躾な言葉に、護衛をする上総が指を剣塚にかける。
小男って大概大声で陰で話すものですよと教育係の声が頭に浮かび、聴いた少女は怒りを鎮める。
下々の育ちなら、どれだけピッタリな言葉でその愚かさを言い表せ、またハッキリ馬鹿だと言って仕舞えるだろうと思いながら、足音を潜ませ、男の死角から声を掛ける。
「あ、マドカ様。いつから此処に」
「全て聴いてましてよ、とお伝えしましょう」
全て聴かなくても分かるいつも、同じ事。
前は怒り騒ぎ立てお子様なのだとより、自分が王の御子として足らないと付けいられていたが。
全く。
ペラペラとこの私を心配したのだと言う男に、ありがとうでも、結構ですわと笑いかけて安堵した顔に水を掛ける。
あまりに、私が無能で男じゃ無いから不満だと言うように聴こえるのでと言うと。
誤解と、王家を心配してと言うのでならば自分からそう、言添え内容を王に伝えて置くと返す。
そうすれば、悪気があるほど貴方に、謝りすがるわけでしょう?とこれも教育係のアマナの受け売りは見事に当たり。
相手は頭を幾度も下げヨレヨレになり逃げ帰った。
私が分かった言わないと言うと、安堵して、慌てて、また最後に言わないように念押しし。
「よく堪えましたね」
上総が、残念そうに指で剣を竿の上から撫でる。度々嫌味な相手を剣でわからせてくれていたが最近その出番は無い。
我慢する、事。
それを学ぶ様にと父、王から言われ数ヶ月。
成果は出来始めた。しかし相手が去った後はまだ我慢ならない。
一通り話して吐き出して聴いてもらわないと、腹立ちは止まらない。
感情までは殺せなくて。
自室に戻ると、お勉強の時間だと教育係のアマナが待っていた。
「話を聴いて、アマナ」
「またですか?今度は上手くいなせましたか」
「上手くかは分からないけど逃げてったよ、な?上総」
「相手は見事に、アマナ様が言う通り喋り疑われていると慌てて、王には言うなと言い残し去りましたとも。マドカ様が言わないと言うとそりゃあ喜んで、ね?」
「まあ。良かったです事。とは言えそれで引き下がるなら小男。世の男は悪どい人も山ほどいますし、そう言う輩は尻尾をなかなか掴ませませんから、ねえ?上総様、そちらは何か有りませんか?」
「何も。ありましたらぜひ対策を教授希(こいねが)いましょう。アマナ殿」
「ねえ。アマナと上総は仲悪いの?」
「いいえ、いや、そうですと言う方が良いかしらね。どう思います上総様?」
「余計な事は命の血を縮めますよ?とは言え、マドカの為だから会話には応えています」
「はあ?いつも、口喧嘩してない?嫌いなら顔合わ全なきゃ良いのに」
「「2人っきりをアイツに譲るなんてっ!!!」
日の国には皇子が生まれず。
やっと授かった期待の子供はマドカ、女のみとなりその齢、12になる今も、変わらぬ状況に国の中では王に養子をすすめ、または王族内から王の次を選ばないかと、実権や次代王位を狙うものがある中で。
マドカを守るために王が用意をしたのが、
異国から来た剣士上総、そして庶民と恋した貴族の子、下町育ちのアマナ。
まどかが氣付く間を与えず火の粉を払う2人はマドカが、好きでそばに居て、だからこそ守るために互いに対話をしはするが。
好きな人を取られたく無いと嫉妬し合う事で、いつも3人一緒になりがち。
マドカとしてはどちらも好きなので仲良くして欲しいのだが、残念ながらまだ、マドカには2人がなんで口喧嘩をするのかも、しながらも一緒にいる理由もわからない年頃で。
また口喧嘩やめてと嗜めるマドカと喧嘩してないと言うアマナ、喧嘩して良いならしたいと言う上総のじゃれあい、が、この国日国、皇女の平和な日常。
それに水を差す知らせが国王、そして、守りをする2人に伝えられるまでの当たり前だった。
皇女マドカが自室で勉学に励みだした同時刻。
執務室のドアではなくて突然室内へ音無1人現れるが、王も護衛も手を止めず声だけ投げる。
「なんだ今日は。定期報告の時間には早いが」
「急ぎでして、今の時間はこちらかと」
「何処から湧いて出て来たんだ?」
護衛のカツマは冷静に冷たい視線を侵入者に投げるが来た男のような、女のような性別、年齢もわからぬ声の相手は王のみを見つめる。
「なんだ」
「日郡の長と姫様からこちら、預かって参りました。中身は知りませんし知りたく無いのですぐ退散いたします」
はあ?と言うカツマに最後まで目をくれず、
最敬礼を紙束を渡すとまた何処かへ人影は消えた。
と、すぐにノックの音がして。応じる王の声にすぐ入るはカツマの上司、カゲハ隊長。交代時間を告げカツマと変わり、次の約束について話をしようとしたが。
紙束を見た王は顔を変え、面会を取りやめると言い自室へ軍師やいく名かの腹心を集めるよう指示をする。来たばかりの隊長は軍部へ。そしてカツマは王と共に王の自室へ。
何かがすでに起きているらしい。
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