第4話嵐開帳するも休すにて。

「夢を、そう夢を見たんですわたし」

張り付くように喉が苦しいように、なかなか言葉が出ないニチカ。



少しの沈黙。



「そう聞いておる、どんな夢だ?......ゆっくりでいい。ああ、カスガ少し支えてやったらどうだ、構わん非礼かなんて遠慮はいらん」


ニチカ、と呼ぶ声に意識が遠のきそうになる。話すとなると、いつも体が震える。

嫌な夢も、嫌な事を告げるのも、皆聞きたくないものだ、当たれば気味が悪い。


だが。ここには。それを責めるものはいない。聴きたいと言うものしかいない。

気味悪いかと言いつつ人に見せない顔を晒してまでいる、姫様が、いる。

支えに手を貸すカスガの、厚くてタコのある手が温石のように熱い。そして微かに彼女も震えている。



合わない身分の上の人に謁見するなんて。

尽力があっても、なかなか無く。

一度産まれた際発現したものの以後ない、無能な立場では逆に集落での仕事はあまりない。そして、本来ならカスガはニチカをのみ呼んだこの場所に居なくてもいいのに。

居てくれて、いるのだった。


「はい、す、すみません。私が見たのは見た事ない石造りの部屋と男が2人、そして、見た事ない、旗です。私に氣付いた1人と目があって——」


ニチカが、夢を思い出した不快さに唾を飲み言葉を切ると姫様がゆっくりなあと声を掛けてくれる。


背中のカスガの手により力が入る。


「そう、目があったら何か喋りかけて来たんですが、咄嗟に耳を塞いで私も叫び、叫びながら目覚めたのが、えっと昨夜の丑三つ時」


そこで長も口を挟む。


「確か、集落の守りを固め直せたのがその時間です」

姫様も、力なく言う。


「私がふさいだ穴以外にまた、開けて覗いたのか。いや距離を無にするくらいだ、時間も操るのかも分からん。居た男達や、部屋についてもう少し詳しく話せるか?」


「はい。旗は三角、2辺にふさふさした飾り、中は刺繍で虎のような獣と、見た事ない形の刀のようなものが2本。足が長く大きい神輿の上にあるような豪華な飾りの椅子に人が1人いて。まるで眠って居るようなのを、もう1人が覗き込みその口端が釣り上がるを見た時、顔だけこちらを向いた人と目が合いわたしもニヤリと笑われて。」


「ふむ、私は人をたくさん見たのだ。

集まる身なりが良い服を着た人複数を背後に、旅人のようなボロに近い布を巻きつけた男。ヒゲは口周りと顎に少し、髪は黒、そしてやけに分厚い上唇に、不釣り合いに薄い下唇。そして手指にはに沢山の指飾りをしてその掌を振りながら笑うのが、やたら胸糞悪い、いやらしい感じがしてな、それが私が覗き穴を塞ぐ間際最後見た顔だ。そう、確か大きな鼻の横に黒子があったな。同じ男か?」


「有りました!!黒子も、指飾りも服も」


長は長で考えこむ。

「どこの国か?この国内中にその旗を持つものは無い。何せ、獅子は神の使い。旗に使うなど国の天子ですらせんが、異国なら。すぐさま日国へ遣いをやる。ニチカ。そなた、絵心はあるか?姫様はない。壊滅的だ。

姫様の記憶と合わせて見たものを聴き描いてくれたらそれも送りたい。直ぐに。」

絵は下手ではないと怒る姫様には構わず。

長は話は終わりと足早にあらゆる采配のためこの、屋敷内に用意された部屋へ。

構ってられるかとシッシと犬を追っ払うがごとく振る舞いはきっと幼馴染のなせる事だろうとカスガ、ニチカは少しやり取りにヒヤヒヤしたが。


長がいなくなれば、冷静になって。

赤ら顔に照れながら部屋を移動しようと姫様。先程通り抜けただけだった、姫様の私室へ。


姫様はみずから、髪を結い描く。

二チカも、紙筆を用意した使用人が高価な道具を差し出すに、跳ねる心の臓とその緊張をなんとか宥める。


どうだと言う姫様の絵は何か描かれているか判じられない。添えられた文字は美しく、説明を書き添えているので何を描きたかったか分かるがグネグネの線の塊に見えた。

ニチカが見て表情を失い描いた絵見せまいと隠すに、自ら絵を奪い見て、筆を投げる。


「同じ奴だ。ハイもう、ニチカに任す」

だが。

「あの、姫様はほらこれ、読めます?」

カスガがニチカの絵に付けた字、他人にはミミズの行列と評判で案の定。

笑い崩れた姫様はならば自ら代筆しよう、と機嫌を直し、また皆が渡す時間が迫るを見て急ぎ作業へ。




長が3人から離れて半刻で戻ると

燃え尽きたニチカを他所にカスガと姫様はテキパキ急いで乾かしていた。

長とともに御勤めの時間と姫様に人が呼び来る。


「2人はまたあの部屋にしばらく住むといい。

身の危険もある。カスガの仕事は大事ない。代わりを手配したまた後でな」

そう長が言い。姫様が付き人に2人を部屋へ案内する様に言いつけ。


2人とは違う砕けた会話をし歩き去る。

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