第29話 因縁
◇第三者視点◇
石畳で舗装された道を駆ける二つの影。
武装を終えた勇者と聖女は、音源の方向へ急いでいた。
先ほどの轟音で二人は察していた。魔族が襲撃をかけてきた、そしてその討伐が自らの役目であると。
その直感に違わず、現場らしき場所に到着した二人を出迎えたのは大きなクレーター。先は見えるが、走っても数秒かかるであろうクレーターだ。ちなみに、何時ぞやにレイが作ったもの半分以下である。そんなクレーターの中心に人影が見えた。
人間より若干大柄な体躯、人間ではありえないような色の皮膚、皮膚と同色の羽と尾、そして頭から鋭利なツノ。人間の国で恐れられる魔族である。
しかも一体だけではない。紫の皮膚を持つ魔族が一体、もう一体は緑色。勇者たちが来たことを感じ取っていたようで、二人がいるほうをまっすぐ見つめ佇んでいる。
魔族の姿が目に入った瞬間、二人は臨戦態勢になる。勇者は剣を、聖女は杖を。
同じく宿敵の姿を確認した魔族も、構えはしないが雰囲気が戦闘のそれへと切り替わる。
空気が緊張するなか、紫の魔族が口を開いた。
「……来ると思っていたぞ勇者よ。一応聞いておこう。何故我らを害そうとする?」
「……それは、君たち魔族が僕ら人間を害すからだよ。そのせいで多くの人が苦しみ、亡くなっている。」
「ふむ。我らからすれば、先に害してきたのはそちらなのだがな。魔王様を世界の敵だとか称して、一方的にな。」
「いや、それは間違いだよ。人間世界を征服しようとして先に攻め込んできたのはそっちだ。だから、僕のような勇者がうまれたんだ。」
「……どうやら平行線をたどるようだな。結局、我らが真に信じるは自らの種の歴史。我らに歩み寄りはありえない、故に互いの歴史の擦り合わせは行われない。我もそうだ。貴様ら人間の所業に腸が煮えくり返っておる。」
「おい、もういい。」
話の切れ目を見て取ったのか、緑色の魔族が口を開いた。
「さっさと人間をぶっ殺す。それが俺たち魔族の在り方だろうが。現に魔族の中に人間を恨んでねぇ奴はいねぇ。これ以上待ってると狂っちまいそうだ!」
強い口調とともに足を一歩踏み出し強く打ちつける。その衝撃で地面はヒビが入り、辺りに大きな振動が響いた。
それが開戦の合図となった。
初めに仕掛けたのは緑色の魔族。武器を持たず、魔法をかけず、まっすぐに突進して行く。そのスピードはとても通常の人間が出せるようなものではなく、勇者と聖女でさえ普通ならあっという間に殺されていただろう。
そう、普通なら。
ここ数日以前の二人なら、呆気なく終わっていた。だが、今の二人は連日化け物レベルの実力者に付いて回っていた。持ち前の吸収力を存分に発揮し、実力はあり得ないぐらい上昇している。今の魔族のスピードに対応できるぐらいは。
魔族との距離が半分になる前に聖女が魔法を発動する。
勇者と聖女に選ばれる人間が例外なく持っている聖属性魔法は、魔族識別のように魔族特攻のものが多い。対人では他の属性と変わらない威力の魔法を、魔族が受けると数倍に膨れ上がるのだ。
聖女が発動したのは強化魔法。対象は勇者だ。身体能力だけでなく魔力量も一時的に向上させる。体内の魔力が増えたことを感じた勇者は、自らの頭上に聖属性攻撃系魔法を数多く展開し、放つ。その8割は目の前の緑色に襲い掛かり、残りはさり気なく後ろで静観している紫色に。
勇者が使ったのは球状の聖魔法。威力はそこまでだが、消費魔力が少ないため大量に撃てるという特徴がある。
緑色は両腕を体の前でクロスして止まることなく受け続けた。紫色に飛んだ魔法は身一つ動かさないまま。当たることなく、紫色の少し前で消えていく。
聖女は勇者への支援を続けながら、その様子を観察していた。
(緑色は典型的な肉弾戦タイプ。もともと体が丈夫な魔族であり、腕の強度を魔力で強化しているからこそできる芸当ですね。紫色のほうは……よく分かりません。魔法、でしょうか?しかし魔力を発している感じはしません……。私が未熟なだけなのか、それとも他の何かがあるのか。どうであれ警戒すべきはあちらでしょうね。こんなとき、レイさんであればすぐ見抜けたでしょうに……。)
聖女が思考している間に緑色が勇者のもとへたどり着く。そして防御を解き、見るからに筋肉の浮き出た剛腕を振り上げた。
振り上げられた剛腕は間を置かずにまっすぐ勇者へ迫る。よく見るとその腕は走ってきているときよりも肥大しているように見えた。さらに魔法を重ね掛けしたのか。
対して勇者は剣を振り上げて対抗する。勇者が持つ剣は代々受け継がれてきたもので、聖剣と呼ばれるものだ。勇者が生まれてくるまで聖都で厳重に保管されているが、錆付くことはなく切れ味を保ったままという不思議アイテムだったりする。
聖剣の名の通り、聖魔法と同じく魔族特攻である。
その甲斐あってか、剣のほうが折れそうな剛腕を何とか受け止めることができた。が、魔族の筋肉と勢いは凄まじく、更に押し込まれる。剣が折れないとはいえ勇者の腕にかかる負担は相当ものだ。
劣勢を見た勇者はすかさず公団を生成し、横方向から攻撃を仕掛ける。緑魔族は勇者を使って跳ぶように距離を取った。
再び睨みあう両者。前衛に勇者と緑魔族、その後ろに聖女と紫魔族が対峙する構図だ。
数秒経ったのち、今度は譲らないとばかりに、勇者が駆けだした。続くように緑魔族も駆けだした。
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【あとがき】
皆様お久しぶりです。方夜です。
ようやくキツキツのスケジュールから解放されました。なので更新頻度上げれそうです。
今後とも拙作をよろしくお願いします。
週3はできたらいいなぁ。
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