第28話 寒暖差
勇者と聖女が勝手に同行し始めてから早一週間。
2人が待ち伏せして一緒に仮に出掛けることは、もはや新たな日常となっていた。……非常に遺憾だが。
そして勇者の宣言通り俺が興味を持ち始めていることも非常に癪に障る。
初日に実力を見た時、これ以上興味を示すことはないだろうと、高をくくっていた自分を殴りに行きたい。
あの二人、俺の狩り様子を見て面白いほど自分の物にしていくのだ。さらに、合間に自分たちが前に出て、その後にさりげなく改善点を聞いてくる。それに反射的に答えてしまうのだ。
そんなことがあって、二人の実力は遭遇した時と比べて大きく伸びている。当時勝てなかった魔物が、今では片手間で討伐できるのではなかろうか。あの吸収力は才能と言わざるを得ない、驚嘆すべき領域だ。
才能やポテンシャルだけを見れば珍しい。だが、それだけ。
もし、生かすか殺すかの二択を選択するとするなら、迷いなく殺す。
仮に死んだとしても、勿体ないと思う程度。数分でどうでもよくなるだろう。
つまり、普段はうっとおしいことこの上ない存在なわけだ。
そんな二名は今日、王城に呼び出されたとかなんとかで、いない。
そう、久方ぶりの自由である。
そんな吉日の行動はある程度考えている。王都の飲食店・屋台・出店をうろつきあさるのだ。最近は某邪魔者のせいでろくにまわれていなかった。せっかくの美食の町を堪能しないのは勿体ない。
よし、じゃあまずは朝食。確かこの辺りにフワフワのパンが付いてくる店があったような……。
◇side勇者 第三者視点◇
レイが自由の食に舌鼓を打っている頃。
シドは物優しそうな柔らかい笑みを浮かべ…………内心ではこれでもかという怨念を目の前はじめ周囲の人物に向けていた。
しかし目の前にいるのはイルミア王国国王、壁に沿うように並んでいるのはこの国の貴族たちだ。当然、本音を正直に吐き出せない。
(本当なら今日もレイと外に出てたはずなのに……。)
最初は虫を払うような扱いだったレイだが、一度戦って見せてからは戦闘後に講評してもらえるまでに進歩していた。戦闘後以外は全て無視されるが、最初と比べれば極めて重要な一歩だ。仲間に加わってもらうという意味でも、自分たちの実力の面でも。
実際、レイの指導は分かりやすく的確なのだ。細かなところを指摘してくるため、シド達も改善しやすい。そのおかげで今の自分は前の自分とは違う、シドはそう感じるまでになっていた。
(本当に、何が何でも加わってもらわないと。だから毎日付いて行って地道に交渉している。それなのに……、おっと。)
シドは思わず睨みつけそうになって慌てた。もちろん表には一切出さない。
地道に交渉を続けるだけでなく、自分たちが力をつける意味でも今すぐにでも飛んで行きたいぐらいだ。だが、今朝一番に伝達係がいて、国王が呼んでいると伝えてきた。流石に国王の呼び出しは勇者として無視できない。
(呼び出されたから仕方なく来たけど、何だコレ?)
シドが心の中で呪詛を吐いている理由が、コレだ。この国王、自国の貴族を見せびらかすようにわざわざ並べただけでなく、呼び出した理由が理由だった。
(なんだよ、『勇者として、民に説き、余の支持を集めてほしい』って。知らないよ、そんなこと。支持が欲しいなら自分が頑張ればいいし、そんなちょっとしたことで貴族を集めるなよ!)
なんともしょーもない理由である。
『勇者だから』という文言にまったく沿っていないし、他人に頼むのもおかしなことである。そもそもこの国は王制で世襲制であるため、民の支持はほとんど関係ない。
しかもシドの考えも間違っておらず、ここに並んだ貴族は法衣貴族、領地を持たない貴族であり、思想の強いものばかりのためこの場においては完全なお飾りである。
どれくらい酷いかというと、シドがレイに同情されるぐらい。とにかく、シドのはらわたは煮えくり返っていた。
そして同じように、いやそれ以上に沸騰寸前なのが、隣で同じように跪いたアルミリネ。
聖女の慈悲を持ち合わせていないかのような言葉を、心のうちで紡いでいる。あるいは、こういった為政者をバッサリできるのが聖女なのかもしれない。
だが、伊達にシドと旅をしてきていない。勇者の仕事として魔物を狩ってきているのだから、当然血生臭い現場にも立ち会うことになる。その経験は、アルミリネの持ち前の精神力と相乗し無駄に高いと言える程の忍耐力を兼ね備えるまでになった。高いとはいえ限界はもちろんある。
いい加減爆発しそうなアルミリネを横目に、シドは怒鳴りつけてやろうと思った。
勇者としてこの横暴な為政者は見逃せないし、自身も聖女に劣らないほど爆発寸前だからだ。
意思を固め、跪くのを止めた瞬間――――轟音が響いた。
「「!?」」
その音にいち早く反応した勇者と聖女。それに遅れて放心気味だった貴族たちが騒ぎ始める。
が、そんな様子には目もくれず二人は謁見の間を飛び出した。後ろで国王などが騒いでいるが、そんなもの気にしない。
2人は察していた。自分たちがこの国を訪れた、各地を巡っている理由が起こってしまったのだ。
これはレイにも話しておらず、仲間になったら伝えようと思っていたことだが、魔族が襲撃してくる順番は神託で分かっているのだ。だから、勇者一行は聖都を出発しその順で巡り、最終的に魔王を倒す。
そして今、この国の番がやってきたのだ。
2人は相対するであろう魔族の予想を立て、装備を整えながら急いで向かった。
―――一方そのころのレイは。
「おぉー。これは……うまい!」
ここ数日で新たにできた食堂の料理に歓喜していた。
外の轟音など自然の一部だと言わんばかりに。
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【あとがき】
復★活(←黙れ)
はい。お久しぶりです。方夜です。遅くなりました。
ピークはあと1週間ほどで終わるはずなので、そこから少したてば投稿頻度上げれると思います。
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