第37話 命令
上に近づくにつれ騒音が聞こえ、大きくなっていった。まだ戦闘が続いているようだ。
下に降りた時と同じ場所に穴を開ける。魔法具で造られていようが、俺の魔法で造られていようが関係なく『空間』はぶち抜く。
上にあがると戦局は大きく予想通り、こちら側に傾いていた。シャスが例の男と一対一で戦っているが、ソーレリスが奮闘しており、雑魚がほとんどいなくなっていた。ラスカとリテイトは連携して強者数名担当で、クレアの広範囲魔法が雑魚を、葬っている。その上、クレアは合間に魔法で二人のサポートもしている。あれは完全にセンスだな。どうやったらあんな的確なタイミングで二カ所に挟めるのやら。
だが、かなり苦戦しているようだ。というのも奴らにも強者が何人か混じっているようで、そいつらを倒すのに時間がかかっている。シャスは側近の相手で手一杯だし、クレアの魔力も残り少ない。
まぁ俺が戻るまで耐えたから、及第点か。
はい、『空間』っと。
いやー、やっぱり『空間』便利すぎる。シャスやソーレリスがあれだけ苦戦していた相手の息を一瞬で止めれる。俺の代名詞になりつつあるな。
シャスは驚いたがすぐに立ち直りこちらに頭を下げてくる。ソーレリスは目の前の死体を見てずっと呆然としている。
ソーレリスの確認を終えるとシャスへ近づく。
「よくやった、シャス。自分と対等な実力相手に長い時間戦い続けるのは難しい。必ず決めてやろうという思考が生まれる。その考えのもと、実行したなら実力不足で殺せなかったことを悔やみ、実行されたなら防げた経験を生かせ。」
「はい。・・・・・・ですがせめぎ合いの末、主様のお手を煩わせてしまったのも事実です。申し訳ございません。」
「別にそんなことはいい。これくらいは些事だし、おもしろいものを見つけたからな。」
「おもしろいもの、ですか。もしかして、その担いでらっしゃる・・・・・・。」
「ああ。」
俺は下で起こったことを共有する。
「・・・・・・そうですか。フォアが上位個体である可能性が・・・・・・。」
シャスとフォアは睨み合いながらも互いを気に入っている様子だった。シャスとしては複雑な気持ちだろう。
「お前とフォアはどちらも可能性を秘めた存在だ。そうだな・・・・・・、んんっ」
俺は咳払いをしてシャスに言う。
「お前たち二人がいつか俺、この『秘天』に追いつくことを期待しているぞ。」
「!・・・・・・はっ!」
いい返事だ。この二人はきっと伸びるだろう。
「さて、期待を寄せるのはここまでにして。」
ここまでは朗らかな未来の話。ここからは主と駒の今の話だ。
「シャス。『命令』だ。」
俺は宣言と共に術式を発動する。シャスもそれを感じ取ったのか、片膝をつき頭を垂れる。
今思えば、秘密守秘のことを除いて術式を使って『命令』するのは初めてか。
「これより俺はここを離れる。お前は『アルレルの町を拠点として冒険者の活動を続けろ。期間は、俺と会うまで』だ。」
「・・・・・・何故、ですか?私は、あなたと共に、ガッ!!」
シャスの顔が痛みに歪む。術式が発動したか。
「俺は契約のときに言ったはずだぞ。『意見は必要無い』って。だから術式が発動したんだろうな。・・・・・・まぁ、理由ぐらいは説明してやろう。今の俺は気分がいい。」
シャスに流れる痛みを解除する。自分で付けといてアレだが、これいらないか。俺はシャスの首輪の術式から『意見できない』という項目を削除する。
俺の魔法技術もかなり向上したよなぁ。この世界にきたばかりの頃や、シャスの首輪に術式を刻んだ頃と比べればスムーズに使える。
「まぁ、理由も複雑なものじゃない。そもそも俺はこの町に留まるつもりは無かった。いろんな所を見て回りたいからな。そうすると、お前は付いて来るだろ?それは困る事態になるんだよ。フォアの炎のことや、万が一周囲に知られたときの反応は気掛かりな事だ。だから、フォアには大きくなり力をある程度使いこなせるまで護衛を付けたい思った。俺が信用でき、護衛として実力に不足のない人物をな。それがお前だ。それに、お前もフォアも個人での努力タイプだ。護衛をして、同じようなタイプであるフォアに付いていれば今よりも強くなれると俺は踏んでいる。何も四六時中張り付いていろって言っている訳ではない。普段は普通に冒険者をしつつ、どこかに遠出するとか、そういった時の判断はお前に任せる。」
俺はシャスにフォアを渡す。そして出口に向かって歩き始めた。
「もう、行かれるのですか。」
「決めたらさっさと動く性分でな。」
「・・・・・・あなたらしいです。御命令、承知致しました。私の勘ですが、再びお会いする時は、かなり時間が経った後な気がします。その時まで、私は御命令を遂行し続けてみせます。」
「おーう。頑張れよ。」
フォアのことをシャスに任せ、俺は離れる。さて、どこに行こうか。この国のほかの町に行ってみたいし、他国にも行きたいな。まぁ、時間はたっぷりあるか。行き当たりばったりで旅をしてもいい。
「待って!!」
俺が出口に近づいたとき、そんな声が聞こえてきた。
――――――――――――――――――———
【あとがき】
私も書いていて思うのですが『空間』が便利すぎですね。主人公のぶっ壊れっぷりを表現するにも、私が展開に困ったときにも・・・・・・。
次回、第一章最終話(予定)です。
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