第36話 炎の申し子

「な、な!?なにが起こった!?」


奴らのリーダーが声を荒げる。奴らの下っ端も、周りで捕まっている人も呆然としている。その気持ちがよく分かる。俺も同じだ。

当然だが、さっきの炎は俺が放ったものではない。仮に、俺があの規模の火属性魔法を使えば必ず爆発するだろう。

あの炎は何だ?あの規模の炎を出すには魔法しかないはずだ。しかし、魔法を使うには魔力が必要なはず。この世界に来て数ヶ月経ち俺は魔力を感じ取れるようになっていた。それも僅かなものまで。今の俺ならよっぽどでない限り魔力の動きは逃さない自信がある。さっきのような30人を呑み込めるような魔法なら、かなりの魔力を使うはずだ。だが俺は、魔法を放つような魔力を一切感じなかった。

考えられるのは俺の感知を遮れるような魔力隠蔽技術を持つ奴がいることか。だが、炎は奴らを呑み込んだ。なら奴らが放ったものではない。捕まった住人のなかにそれほどの使い手がいるなら、そもそも捕まらないだろう。もしくは、俺みたいに特殊な何かを持っているか。いずれにせよまずは特定か。


「クソッ!どこのどいつだ!俺様の駒を燃やしやがったのは!」


首魁がわめいている。奴からしたら部下を燃やされた訳だ。俺からしたら手間が減るからありがたいが。

そういえば・・・・・・


カラ・・・・・・


何か金属のようなものが落ちた音がした。そうだ。奴らのうち、燃えたのは後ろにいた30人。それに、炎は横切っていない。ここからは分かりにくいが後ろから真っ直ぐ放たれた感じだった。

首魁も同じ考えに至ったのか、それともただ音がしたからなのか、後ろを振り向いた。

そこにいたのは、オーラのように炎を纏う小さい子供。


フォアだ。


フォアが炎を纏い立っていた。


「な、なんだあのガキ!?気色悪いなぁ!さっさとヤっちまえぇお前らぁ!!」


フォアを嫌がった首魁が部下に指示を出す。が、その部下も躊躇いがあるようだ。それが相手が子供だからか、炎を纏う人間を気味悪がったのかは知らないが。

奴らはいつまでたってもかかろうとしない。その間に首魁のイライラはどんどんたまっていっているようだ。奴は動かない部下をどうにかしたいんだろうが、その間も警戒したいのか、俺のほうを牽制するように見てくる。あれだけ敵じゃないって言っていたのに、Sランクを脅威に感じているらしい。滑稽なことだ。


まぁ、安心しろよ。今の俺にお前たちみたいなものに割く意識はない。なぜなら、おもしろいものを見つけたから。


「・・・・・・?」


犯罪者集団全員の頭と体が泣き別れする。当然に首魁も。いつもの如く俺が『空間』を使っただけ。他愛のない話だ。

俺は未だ炎を出し続けるフォアに近づく。途中で奴が使っていた魔法具を回収し『空間』に入れておく。いずれ役に立つだろ。

フォアの目の前に来た。俺はまだ年齢一桁の子供に期待を寄せる。さぁ、お前は何だ、何を見せる?

炎に包まれながらも意識はあるようで、フォアが口を開く。


「・・・・・・あ・・・・・・おにい、ちゃん。どう、ですか。わたし、わるいひと、やっつけました。これで、わたし、おにいちゃんたちに、ついていけ、ますか?あ・・・・・・いまは、まだ、この、ひを、じゆうにできない、けど、ぜったい、できるように、なるから。ぜったい、やくにたてるから。」


炎に包まれているからか、その声は途切れ途切れになっている。だが、その息やよし。シャスに並ぶぐらいの掘り出し物かもな。フォアは賢いから、ちゃんと炎を抑える事だけでなく、使いこなせるようになればいいことも分かっている。積極性の強い子だから、シャスと同じようにほっといたらいつの間にか伸びてるタイプだ。

いいだろう。俺が手を貸してやる。


「フォア。その言葉、忘れるなよ。」


フォアが小さく頷いたのを確認し、俺はフォアに触れる。

近づいた時点で解析を始め、炎の原因が分かった。これは魔法だ。汎用の火属性魔法。魔法であるため、魔力が使われている。フォアの場合、魔力を魔法変換する過程が体内で処理された後、外に出てきている。つまり、体内の火属性魔法が生成されている部分を一度遮断してやれば・・・・・・予想通り、フォアの炎が消えた。気が抜けたのか、フォアは意識を失いその場に倒れ込む。俺はフォアを受け止めた。

俺はフォアを眺め、考え込む。


俺はフォアの体内での魔力の動きを、近づき解析するまで感知出来なかった。まるで、その処理が当然であるかのような・・・・・・。

フォアの魔法の根本が分かった瞬間から、俺の頭にはある存在がチラついていた。おそらくフォアはソレなのだろう。


『上位個体』


普通は魔物に対して使われる言葉で、力や体格、知能など、ある魔物の定義を大幅に逸脱した個体のことを指すらしい。

だが、それが人間に対して適用されることがあり、何かで大きく逸脱した人間のことらしい。人間の上位個体は半ば伝説と化しているとか。天才や秀才との違いは、それがその要素の範囲内であるとか、周囲の人間から見て、バケモノと呼ばれるような存在かどうからしい。そうなると、もう一人のSランクも上位個体である可能性が高いな。

重要なのは魔物が大雑把に種で括られるに対し、人間はある一要素について逸脱しているかどうか、ということだ。それについて考えると、フォアは火属性魔法で逸脱していることになる。差し詰め、炎の上位個体ってところか。

もし、フォアが成長してあの力を十全に使えるようになれば。あの火属性魔法を操り、俺と並ぶ存在になるか?俺と対等に戦えるようになるか?


あぁ、楽しみだ。


それまでフォアが摘まれるようなことがあってはいけない。その種は今のうちに潰しておかなければ。


『創造』、『意識操作』


名前に関しては効果をそのままつけただけだ。

俺は新しく創造した能力を行使し、檻に捕まっている人間の意識を刈り取り、記憶をイジる。とは言っても、ぐちゃぐちゃにする訳ではない。フォアが出てくる場面を消すだけだ。

作業を終えフォアを見る。フォアがある程度戦えるようになるまでは、記憶を封じようかと思ったが、このままでいいだろう。覚えていた方がフォアは伸びるだろう。十分になるまではシャスをつけとくか。


『空間』を再び使い、気絶している人間の檻を破壊する。これで後から来たものが簡単に救出できるだろう。犯罪者集団が先に来る心配はない。

これから一人もいなくなるからな。


俺はフォアを抱え上にあがる。今度は天井に穴を開けていく。

さて、上はどうなっているかな?










——————————————————————

【あとがき】


上位個体の初登場回が分からない人は8話をご覧ください。

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