第35話 違い

「お前がこの犯罪者集団のリーダーか。」


俺は目の前の男に言い放つ。男は苦笑気味に笑って返してきた。


「犯罪者集団はよせよ。ちゃーんと『バーブリザム』っていう立派な名前があるんだからなぁ。」


「悪いがどうでもいいことはさっさと忘れてしまう主義でな。ついでに言うならお前との会話にも乗る気はない。」


俺は辺りの檻を見回す。一人ずづ別の檻に入れられ、横並びになっている。フォアはどこだ?見る限りいないようだが……。


「そんなつれないこと言わずにちったぁ付き合えよ。お前にだって聞きたいことあるんじゃねぇのかぁ?」


「もちろんある。だから、今から行われるのは会話ではなく一方的な尋問だ。」


「……ナメられたもんだなぁ。俺様たちは騎士団さえ相手どれる天下の『バーブリザム』だ。ガキ一人でどうにかなる訳ないだろお?いくらSランクだからと言ってもな!」


男の後ろから笑い声が起こる。やはり、俺のことを調べた上でのあの襲撃らしい。

俺は魔力を使い魔法を行使する。


「っと、俺様としたことが自己紹介を忘れてたぜ。じゃ、改めて。俺様はエンデュイ。ご指摘通り『バーブリザム』、お前の言う犯罪者集団のリーダーだ。次はお前の番だ。どんな悪名高い尋問官でも名乗りはするぜ。」


「……レイ。知っての通りSランクだ。」


いた。フォアは奴らの真後ろの檻にいる。『空間』で探知したから間違いない。『空間』の探知はある程度親しい人物なら特定することができる。幸い、危害は加えられていない。それどころか、奴らは他の人にも一切手を出さず檻に入れているだけ?

あの様子だとすぐに危害を加える感じではない。なら、現状維持でいったん様子見がいいか。


「……では、尋問だ。」


「ハハッ。今俺様は気分がいい!なんでも答えてやるぜ!」


「一つ目。王都も含めてだが、こんな地下をどうやって造った?こんな規模でかつあの数は何十年とかかるはずだ。なのに、聞けばお前らは最近名前が挙がるようになったとか。かといって昔からあるとするには新しすぎる。どういうことだ?」


「あぁ!やっぱそれ気になるよなぁ。もちろん答えてやるぜ!そいつはなぁ、コレだ!」


そういって取り出したのは謎の球体。魔力を帯びている。何らかの魔法具か?


「こいつは『反撃の斥候』っつう魔法具だ!こいつを使えば、ここみたいな大規模な拠点が無限に作れるんだぜ!こいつを見せれば、いくらでも組織の駒が集まる!まぁ、単純に俺様が強いってのもあるんだがな!」


「……そんなもの、何処で手に入れた?そこまで強力な魔法具なら国やギルドが回収しているはず。」


「それは正規品の話だろぉ?こいつはとある町の闇市で手に入れたからなぁ。国なんかに気取られるわけがない。」


へぇ。魔法具って闇市とかに行けばあるかもしれないのか。おそらくあいつがもっているものも特殊な魔法とやらか。

それにしても拠点を造る魔法、か。俺の『空間』を一部限定的に使える魔法具みたいだな。この世界には『空間』という概念はないみたいだから、あれを作った奴は気づいたか発見したか。

だが、あれには攻撃能力はない。奴は自分が強いと言っているが、俺からしたら大したことない。


「おいおい。これだけだと思ってないよな?俺様はもう一つもってるんだよぉ!それがこの『反撃の先兵』!こいつがあれば、俺様の部下は凡人以下でも天才とヤりあえる。最強の部隊の完成だぁ!」


次に奴が取り出したのは同じく球体。見た目同じに見えるが何か違いでもあるのか?あれの効果は超強化みたいだな。だからここに人数を溜めこんだのか。上にいる奴にもかけて上で止めないのを見ると、範囲制限か数に限界でもあるのか。というか、『反撃の~』って魔法具はシリーズなのか?いつか見かける機会があるかもしれない。


「この二つの魔法具の前ではSランクだろうが関係ない!さらに俺様の地力も合わさって国ですら滅ぼせる!意気揚々と助けに来たのに残念だったなぁ。死ぬしかできないなんて!」


「……次の質問だ。アルレルの住民を捕らえてどうするつもりだ?危害を加えていなしし、金品を奪う訳でもない。ただ檻にいれているだけ。お前たちのことだ。ただの観賞用って訳ではないだろう?」


「ククッ。お前は的確な質問をしてくるなぁ。いいぜ、答えてやる。お前の予想はちょっと外れだ。こいつらは観賞用だ。」


「?檻にいれて永遠と眺めるのか?」


「まさか!そんなつまらないことするわけするわけないだろうぉ?俺様の部下から『バーブリザム』の目的は聞いたか?」


俺は頷く。確か、国への復讐とか言ってたな。


「俺様たちは犯罪者として虐げられた。快楽目的のヤツもいるが、ほとんどは生きるためや仕方がなかったことなのになぁ!ふざけんなってな。だから復讐してやろうと思った訳だ。だが、快楽目的の犯罪者である俺様は考えた。ただ攻め滅ぼすだけじゃあつまらない、ってな。だったら、この国に住む人間や土地を滅茶苦茶にして、普段贅沢三昧の貴族や王族どもに見せつけてやろうってことだ!なかなか愉快だろぉ?」


「つまり今捕まえている人間はあとで引っ張り出して使うってことか?」


「その通り!部下全員に好きなようやらせるつもりだぜ。男はどんな凄惨に殺してもいい、女は犯してたらい回しにしたらいい。建物は粉々に砕いて土地は焦土にしてもいい!これを見たら貴族ども、特に領主は何を思うだろうなぁ?領主以外は何も思わないと思うか?違うぜ。『バーブリザム』が領主相手に圧勝できるとしたら、どうだ?次は自分の番だって恐怖に震えるだろうなぁ。あぁ、最高だ!」


「なるほど。お前たちと目的はよく分かった。」


「ハハッ。そりゃぁよかった!どうだ?お前、こっち側に来ないか?Sランクなら大歓迎だ。お前だって、欲望の一つぐら」


「断る。」


「……あ?」


俺は奴の勧誘を遮って拒絶する。なんでそんなものに乗ると思ったんだ?


「バカだろ、お前。Sランクの意味知ってるか?欲望?そんなもの自分で叶えられるに決まってるだろ。国を滅ぼせる?国ひとつ簡単に滅ぼさないようじゃお話にならない。俺は自分でおもしろいって思ったことしか乗らない。前にある獣人が復讐したがっていてな。そいつは自分の実力を理解し最適解として俺に協力を求めた。対して俺はそいつの人生を対価として要求した。そいつはどうしたと思う?地獄への片道切符だと分かった上で吞んだよ。よっぽど憎かったらしいな。そういえばあの復讐対象は貴族だったか。ま、その結果サネルという町が消し飛ぶことになったんだがな。文字通り。」


「な!?」


いくら調べたといって俺がサネル消滅の原因だとは探れなかったか。当然と言えば当然だが。


「お前たちとあいつの復讐対象は同じ貴族だが、俺はお前たちに全く魅力を感じない。おもしろくない。くだらない。あいつが復讐に囚われている姿は言葉で言い表せないぐらい面白味があった。それと比べたら、お前たちなんて復讐という名目を引っ提げて、ただ欲望に忠実であろうとするだけの何かにしか見えない。だいたい、その勧誘には俺の利益が何一つない。利益なしでの勧誘が成功するのは、相手が格下のときだけだ。」


シャスとは大違いだ。俺がおもしろそうと感じない時点で終わっている。

リーダーの……なんて名前だったか。男がワナワナと震えだす。


「お前、俺様に向かってさんざん言ってくれるじゃねぇか、あぁ!?『秘天』の名は間違っちゃいねぇようだなぁ!後悔してももう遅いぞ!」


「そんなのもどうでもいい。聞きたいことは聞けたしサクッと終わらせよう。」


「クソガキがぁぁぁぁぁぁ!」


男が球体の一つを掲げる。すると後ろにいた犯罪者共に変化があった。筋肉は肥大し、外見には表れないが魔力が増大する。あれが例の魔法具の効果か。マッチョ軍団製造機だな。


「ハハハッ。俺様がこれを使えばどんな相手も踏み倒せる!行け、お前らぁぁ!」


男の後ろで犯罪者共が走りだそうとする。俺も魔法の準備を始める。

これから、俺と奴らが正面衝突する。檻の中の人間も含めて、全員がそう思った。



次の瞬間



奴らの後ろ30人ぐらいが炎に吞まれた。








——————————————————————

【あとがき】


前回言った要素まで行けなかったので次回に持ち越しです。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


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