第33話 不思議な人

レイは建物の屋根の上にいた。後ろにはシャスが付いている。あの犯罪者集団を固定したのはレイらしい。


「ハッ、随分と気取った登場じゃねぇか。」


ラスカが恨むように言うが、その顔は安心しているような笑みがこぼれている。その気持ちは分からなくもない。図書館で初めて会ったは得体のしれない何かがあり、怖いと思った。でも話したり、一緒に依頼をしていると、その恐怖はいつの間にか安心感に変わっていた。それはたぶん、戦ってボコボコにされたラスカも、自由奔放な性格を警戒していたリテイトも同じはず。


「別に気取ってはいねぇよ。ちょうどよく見渡せるところが屋根の上だっただけだ。」


そういうのを気取ってるって言うんじゃ?


「それで?どういう状況だ?爆発音が聞こえるわ煙が上がってるわどう見てもテロ行為だが。今日俺たちかなり遠くまで行っていたのに急いで戻ってくる羽目になったぞ。」


「テロ……が何かは分からないが、お前の言っていたことが当たった。奴らは『バーブリザム』だ。」


レイの質問に支部長が答える。その答えを聞いてレイが楽し気な雰囲気になった。


「お。ならフルーガルの奴お手柄だな。時期的にも外れてないし、奴の洞察力には拍手だな。まさかアルレルで起こるとは思ってなかったと思うが。」


フルーガル……?統括を呼び捨て?さすが、冒険者登録をしてから短期間でSランク認定されたレイなだけある。

だが、と付け加えて、いまだに動けずにいる犯罪者集団を見ながら言う。


「奴の考察も完璧ではないようだな。」


どういうことだろう?聞いた限り完璧だと思うけど……。

レイが先頭の男に近づく。


「お前が犯罪者集団の首魁……の側近の1人だな。」


「……そうだ。何故分かった?」


!?あの男がリーダーじゃない?


「簡単な話だ。もっとも、普通であれば気づかないだろうがな。ここより人間が密集している場所がある。お前らは犯罪者集団だ。武闘派じゃない奴は少ないだろう。それに、首魁の性格は聞いている。もしお前が首魁であれば、最も多く人間を率いてくるはずだ。それこそ、全員で突撃とかな。そうじゃないってことはおおかた、首魁が出る幕じゃないってとこか?フルーガルのミスはここだな。王都を除いた総数500ってことだったが、目の前で固まってる奴らだけで、500。密集しているところに構成員が約800。騎士団の調査を信じすぎだ。余裕で越えてる。」


……え?

私と同じように味方も敵も呆然としている。それは当然だ。今の話には到底信じられない内容が含まれていた。


「……何故ここより人が多い場所があると知っている?ついでに、我らが動けない理由も教えてもらおうか。」


そうだ。レイはここより人がいる場所があると言った。おそらく生かされた町の人もそこにいるのだろう。問題は何故レイがそのことを知っているか。一番考えられる理由は先に行ってきたことだが、それだとレイは町の人たちを見捨ててきたことになる。レイとシャスの戦力を考えれば、救出は容易いはずだ。

レイが言い放つ。


「それらの理由は当然秘密だ。教えると思ったか?一応言っておくが一度行ってきた訳ではないからな?」


後半は私たちに向けていったのだろう。なら、いったいなぜ?


「さて、雑談はこれくらいにして。お前の反応から、首魁が密集地点にいることは分かった。助かったぜ?首魁だけ別行動って線もあったからな?」


それを聞いて男の顔が青ざめていっている。

レイはこの短い時間でどこまで……。


「ところで、俺はフルーガル……あぁ、統括にあるお墨付きを貰っていてな?王都にいたお前たちのお仲間を一掃したあと、お前たちに関しては殺しても文句を言わないっていうな。」


奴らに動揺が広がっていく。王都のお仲間を一掃?それって。


「というわけでお前たちは当然皆殺しにする。ま、俺がいるアルレルを標的にしたことを後悔するんだな。あぁ、でも安心しろ。俺は生き残りからいろいろ聞かなきゃいけないんでね。手を下すのは、俺の奴隷であるシャスだ。シャスは俺と違ってちゃんと短剣で切るから、ちゃんと自分の死を知覚できるぞ。よかったな。じゃ、れ、シャス。」


「畏まりました。」


そう言うとシャスが静かに近づいていく。ゆっくりと歩いていく。奴らとの距離がほぼ無くなったが、シャスは先頭の男を無視して後ろの奴から首を一閃し殺していく。そのスピードは恐ろしく早く、とても目で追えたものじゃない。


レイがこっちに近づいてくる。すると、避難した人の中から男性が飛び出てきて言った。


「あんちゃん……!フォアが……俺のせいで……!」


「無事でしたかワーデンさん。それで、フォアがどうしたんです?」


「フォアが奴らに連れて行かれた!外の喧騒には気づいていたが、大したことないと思って逃げなかった。そしたら、奴らが店の中に入ってきて……。抵抗したがフォアが捕まって、俺も捕まりそうになったがギリギリ冒険者に助けられた。俺以外にも家族が連れて行かれたっていう人が何人もいる。頼むあんちゃん!町の人を……、フォアを助けてくれ!」


「頼む!」「母が!」「兄妹が!」「足が悪いんだ」「この通りよ!」「お願いだ!」

「家族を助けてくれ!」


その人に続いて町の人が次々に願いの言葉を口にする。


「別に構いませんよ。ただ、この人数でフォアだけ贔屓するのもアレですし公平にいきましょう。俺はSランクだ。Sランクがどんな認定なのか知っていますか?そんな奴に依頼するってことは、代償を払う用意はできているんですよね?」


災害。天災。ある程度の年齢の人間でSランクの意味を知らないものはいない。だからといって、家族の命がかかっている町の人にそんなものを求めるのは。


「もちろんだ。何でもしよう。」


レイの目の前にいる人が言った。その後に他の人達も首を縦に振っている。


「いいでしょう。契約成立です。ちょうどあちらも終わったようですし。」


見れば、最後まで残されていた先頭で率いていた男が首を切られたところだった。

シャスが短剣についた血を払う。


「では。シャス、行くぞ。」


「待ってください。」


そう声をかけたのは意外にもリテイトだった。リテイトが目をあわせてきた。なんとなく分かったので頷く。次いでラスカも頷いた。


「私たち『ソーレリス』も連れて行ってくださいませんか?捕らわれた人達はかなり多いはずです。なら、あなた達が敵と戦っている間その人たちの護衛は必要です。それにあなたたちより、混乱している捕らわれた人を落ち着かせる役も必要でしょう?私は得意なほうですから。」


「……いいだろう。ただし、俺の指示には従ってもらうぞ。俺たちは走っていくが、遅れるなよ。それじゃ、行くぞ。」


そう言って二人が走り出す。早い。付いて行くだけで精いっぱいだ。これ以上スピードをあげられると付いていけなくなる。

こうして私たちは救出に加わることになった。


そういえば……












なんでレイたちは爆発音が聞こえていたんだろう?それに、遠くに行っていたならこんなに早く来れる訳がない。ああ言うということは私たちと普段行っているあたりより遠いはず。いつもの場所でも急いで1時間はかかるはずなのに……。













——————————————————————

【あとがき】

今話は引き続きクレア視点です。


なので今話のタイトルも視点を合わせてみました。



ここまでお読みいただきありがとうございます。


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