第30話 小芝居

まだ昼を過ぎないぐらいに俺とシャスはアルレルに戻ってきた。王都から出て見えなくなったところで転移したから、盗賊とかに遭う心配はしなくてよかった。王都のギルドを出て特にやることもなかったから直行だ。そもそも俺もシャスも王都に他の用事がある訳じゃない。ならさっさと戻って依頼を受けたほうがいい。あ、でも俺ギルドに養われるようになったから、依頼は受けなくていいのか。そうなるとやることがなくてニート化してしまう。

とりあえず継続的な収入ができたことを前向きに受け止めよう。そうでないと憂さ晴らしに街ひとつ飛ばさなければならなくなる。


俺達が転移したのはアルレルの適当な路地だ。流石に、移動に何日もかかる距離の往復をたった2日で用事を終えて戻ってきたとなると、面倒事になるのが目に見えている。だから今までに関係のない宿をとり、できるだけ昼間は『転移』で街の外にでて移動の間に狩ったことにする魔石をとる。夜間は宿に引きこもり、街を彷徨くのは一切なしにする予定だ。まぁ、アルレルで泊まったことがある宿は小枝亭しかないが。頃合いを見て街の外から今戻ってきました感を出す。

と言うことで俺は食事付きの宿を探し始めた。













数日後。これぐらいなら押し通せるだろうという日にちが経ったので宿を引き払い、街の外に転移した。王都からアルレルに来るときは転移してきたので南側の門は一度しか通っていない。

少し歩いて門に行くと身分証の提示を求められたので、素直に渡した。


「はいどうも・・・・・・え?」


門番は割と適当そうに見える中年の男だ。俺の冒険者証を見て目を見開いているが何か不備でもあったか?


「あの、これ偽造じゃないか?」


「間違い無く本物ですが。何か問題でも?」


心外だ。ちゃんと見れば本物と分かるだろうに。フルーガルに聞いた話だが、特殊な魔法具を使うため偽造は不可能なんだとか。その判定の為の道具は街の関所にもおいてあるらしい。


「いや、だって冒険者ギルドSランクって言えば今は1人しかいない伝説で、女性だろ。君は男でしょ。なら違うって分かる。」


「ついこの間認定されました。偽造かどうかは魔法具通せば分かるのでは?」


「そうなんだけどさ・・・・・・まぁ、ちょっと待ってて。」


そう言って門番は奥に消えていく。初めてアルレルに来たときの門番とは対応に差が出ている。ちょっとして、さっきの門番の叫びが聞こえた。本物と証明されたか。


「疑ってしまい申し訳ありません。まさかSランクとは想像もしなかったので。こちらはお返しします。」


門番が戻ってきたら急に態度が丁寧なものに変わっていた。冒険者ギルドSランクがどれだけ恐れられているか分かる瞬間だな。

向こうがSランクに対して敬意を示したのだから、こちらも相応の態度で返してやろう。


「別に構わない。そもそも顔が売れているかよく会う知り合いでなければ、一目見てSランクだと分からないだろうからな。」


「寛大な対応感謝致します。申し訳ありませんが、規則ですのでお連れ様の身分証を拝見してもよろしいでしょうか?」


「勿論だ。シャス。」


「どうぞ。」


「ありがとうございます。……なんと。Aランクですか。SランクとAランクで行動しているとは。こちらはお返しします。お時間いただきありがとうございました。問題ありません。どうぞお通りください。」


「あぁ。門番の任ご苦労。これからも適切な対応を続けることを期待している。」


「はっ!」


俺とシャスは今日2回目のアルレルに入った。ついノリに乗って尊台な口調で話してしまったが、門番もあの調子だったので良しとしよう。


さて、しばらく歩いて小枝亭に戻ってきた。潰れてないようで何より。道を普通に歩いてきたが、写真が無く人相がギルドから広まっていないこともあり、特に面倒なことにならずに済んだ。

俺は扉を開ける。今日はゆっくりして、明日ギルドに行くことにした。何故かと言うと、離れられない気がしたから。

中ではワーデンが机に突っ伏していた。俺は無言で扉を閉じようか迷ったが、近づくことにした。

だってねぇ。あそこだけ湿地帯なのかと言うほど空気が湿っている……ような気がする。相変わらず客はいない。


「何やってるんですかワーデンさん。」


「だってよ、フォアが……娘にあんなこと言われたら立ち直れないのが普通だろ……。何も感じない親は親じゃねぇ。……ん?おぉ、あんちゃん達、帰ってきたか。」


何やらブツブツ言っている途中で俺たちに気づいたらしい。


「どうも。さっき戻ってきました。で、何があったんですか?フォアがどうこう言ってましたが。そういえばフォアがいないですね。客は当たり前のようにいませんが。」


「るっせぇよ。客がいないことを当たり前にすんな。」


「でもいないんですよね?」


「あぁいないよコンチクショウ。」


もうこのやりとりもお馴染みになってきている。

亭主としては嫌だろうが。


「フォアは今買い出しだよ。」


「なるほど。で、フォアに言われたあんなことって何ですか?」


「あぁ。実はな。」


ワーデンさんは机の上に肘をおき、口の前で手を組んだ。サングラスでも渡せば某指令に見えてきそうだ。


「フォアに『じぶんでやるからほおっておいて。』って言われたんだよ!」


……。


「分からないだろうな!お前もいづれ子供が出来たら分かる!自分と子供に拒絶される痛みというものが!」


「……それはただの親離れでは?自分でやりたがるのもよくある話で、寧ろいい傾向だと思いますが。」


「それとこれとは関係ないんだよ!今関係あるのは俺の傷心だけだ!」


そう言ってまた突っ伏した親バカ。これは放って置いていいな。

その時、扉が開く音がした。噂をすれば。


「……!」


「よっ、フォア。数日振り。」


片手を挙げて挨拶すると、走って来て抱きつかれた。買い物したものを落としたためぐちゃぐちゃになっている。

しばらくよしよししたところで俺は気になったことを聞いてみることにした。


「なぁ、フォア。ワーデンさんから聞いたんだが、いろいろ自分でやりだしたんだって?どうしたんだ急に。いいことなんだがワーデンさんがだからな。良かったら理由を教えてくれ。」


俺は正面からフォアと顔を合わす。亭主が使い物にならないとここが回らないのではっきり聞かせておく。


「・・・・・・おにいちゃん、さいきんずっとどこかにいってる。さびしい、です。でもおしごとだからしかたがないって。なら、わたしがいっしょについていけるようになればいい、っておもいました。そのために、じぶんでできるようにならないと。」


あー。そういう理由ね。間接的に俺達が原因になってるような。ともかく、ワーデンさんに理由を聞かせられたものの、親離れには変わりないから一定のダメージは入っているようだ。だが、俺はフォア派だ。自由にさせるのが一番だと思っている。


「そうか。ならちょっとずつできるようになればいい。ワーデンさんに迷惑をかけない程度にな。」


「・・・・・・うん!」


いい返事だ。もう一度言うが俺はフォア派だ。

だから、そんな裏切り者!という目で見られる筋合いは無い。








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【あとがき】


ワーデンさんは決してい◯り指令ではありません。

フォアちゃんの言葉に敬語が混じっているのは仕様です。




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