第29話 不穏な気配
結局ギルドは開いてなかった。朝にならないと開かないらしい。やむなく俺達は宿に戻った。
そして朝。俺とシャスは朝食を食べながらゆったりとした時間を過ごし、ギルドに向かった。その時の様子はもう言わなくてもいいだろう。ひとつあげるなら、ギルドの受付に名前を言うと酷く怯えられたこと。フルーガルによっぽどな伝えられ方をされたらしい。
「おはようございます。何か進展はありましたか?」
統括室でフルーガルの出迎えを受けた。仕事をしていたようで、朝から真面目なことだ。
「ああ。もう終わったぞ。」
「え?」
昨日の今日で依頼を完遂したと告げると、フルーガルの目が点になっていた。フルーガルがこういう反応をするのはとても新鮮だ。
「早いですね。一切の不備無くですか?」
「勿論。王都にある拠点は全部回って3人以外は皆殺し、書類は確保してあるぞ。ほら。」
そのへんから出した書類手渡した。
「・・・・・・書類は本物のようですね。この書類をどこから出したのかは聞かないでおきます。」
「懸命な判断だな。聞いていたら、自ら炎に飛び込むのと同じだったぞ。」
「そんな事は無いようにしたいですね。・・・・・・それで、幹部数名はどちらに?」
「あ、忘れてた。」
うっかりしていた。あ、やべ。フルーガルが呆然としている。あれ絶対勘違いしてるな。
「別に捕まえることを忘れていた訳じゃないぞ。捕まえて、冷凍してたのを忘れてただけだ。ちょっと待ってろ。」
冷凍・・・・・・?と首を傾げているフルーガルをほっておいて、一度外にでてギルドの屋根の上に上がる。そして、3人を回収し統括室に戻った。
「ほら。捕虜3人。」
「・・・・・・何故凍えていて、体温が低すぎるのですか?」
「冷凍してたから。」
「はぁ。まぁいいです。ところで、」
フルーガルが3人の顔をじっと見つめている。知り合いでもいるのか?
「レイ。捕まえたのは3人だけですか?」
「ああ。各拠点の幹部らしき人物は捕まえたが、その後に3人に絞ったぞ。」
「その捕まえた人物の中に、服装が派手で金や宝石を身につけている者はいましたか?」
「いや、いなかったぞ。他もその3人のような感じだった。」
「なるほど・・・・・・。レイ。殺した数は覚えていますか?」
「だいたい500ぐらいだ。」
「500・・・・・・。」
フルーガルは手を顎に置いて考え始めた。服装が派手・・・・・・それが首魁の特徴か?だとしたら――――。
「まさか王都から逃げていた?」
「・・・・・・いえ。その可能性もありますがおそらく違います。私はバーブリザムの首魁や側近とは彼らが牢にいるときに会ったことがあります。顔や言動だけでなく性格も知っているつもりです。彼らの性格上、逃げることは有り得ない。勝てないと悟ると逆に向かっていくタイプです。彼と側近は金や宝石といった華美なものを好みます。でも王都いた人物の特徴とは当てはまらない。レイ。間違い無く王都に1人も残っていませんか?」
「ふむ。」
俺は『空間』を使い、王都の地下全体を探すが、俺達が襲撃した場所以外に施設はないし、そこにも誰一人としていない。次に地上をさっきの条件で探すが、貴族住んでいる場所以外には見当たらない。
「間違いないな。王都にいる組織の構成員はそこの3人だけだ。派手な人物も貴族を除けばいない。貴族は邸宅か王城にいるから、どこかを乗っ取っていない限りは間違いない。」
「そうですか。なら可能性が高い、いえ、ほぼ確定と言える事があります。奴らは近々何か起こすつもりです。」
「根拠は?」
「奴らが王都においていたのは約800人。ギルドと騎士団が合同で行った調査ですので間違いありません。それが500まで減っている上に首魁と側近は不在。そう考えると別の場所に潜伏し機会を伺っていると見るのが妥当かと。まだそういった知らせは受けていません。」
「そうか。だが、それは依頼には入らないぞ?俺達は受けたのは王都だけだ。一応注意はしておくが遭遇した場合はこっちの好きにさせてもらう。」
「えぇ。どうぞ。お好きになさってください。首魁を含めたメンバーは全員重犯罪者。この国から犯罪の種が消えることは本望ですので。それにレイはSランクです。そんな事をされたら止められませんよ。」
「それと俺達は今日中アルレルに戻る。だから報酬は早めに用意してくれ。」
「おや、もう帰られるのですか。報酬は受付で準備してあります。2日間の付き合いでしたが、楽しかったですよ。今後とも縁があることを願っています。良き友人として。」
「そうなると良いな。」
俺はシャスを連れ統括室出る。さて、どれくらいの額が貰えるのやら。
◇
「ふふ。レイ、あなたは不思議な存在ですね。『今日中にアルレルに戻る』。王都からアルレルまでどれだけ離れていると思っているのですか。」
◇
今回の依頼の報酬はかなり高い。袋で渡され、中には金貨1枚、大銀貨5枚、銀貨50枚が入っていた。Sランクへの依頼だからか、ものすごく高い。一部銀貨なのは日常でも使いやすいようにという配慮だろう。フルーガルの性格が出ている。
しかも、これはあくまで俺への報酬で、シャスの分は別にある。シャスは奴隷だからと言って全額渡してくるので更に増える始末。受け取る前に、欲しいものとかに使いたい時は遠慮なく言え、と念押しした。これより酷くなるなら術式を使って『命令』する事を考えなくてはならない。こんな使い方はしたくないが。
——————————————————————
【あとがき】
この世界の通貨単位は『エス』。
1円=1エス。銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨があり、銅貨1枚で100エス。そこから価値は10倍。
つまり、今回のレイくんの報酬は200万円。
お高いですね。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
★・フォロー・応援のほうよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます