第28話 ゴミ掃除
そしてフルーガルから依頼を受けた日の夜。日付が変わろうとしている頃。
俺とシャスは襲撃一発目となる建物の上に陣取っていた。
あらかじめ、襲撃順は決めてある。移動は『空間』で済むため、効率を考える必要はない。じゃあ何を元に決めたのかと言うと、即席のくじ引きで運任せだ。俺達的には幹部級の人物は後の方にいてほしい。輸送が面倒だ。
「主様。日付が変わりました。」
シャスがそう言ってくる。襲撃はどうせだし零時ピッタリにやろうと思ってシャスに時間を計ってもらっていた。
「じゃ、行くか。ゴミ掃除の時間だ。」
奴らの溜まり場は十カ所全て地下にある。その入り口はいたって普通の一軒家に見える家の中にあるようだ。見張りらしきものが2名。
サクッと殺して『空間』を使用し、入り口の場所、内部構造、人間の位置と数を把握する。・・・・・・いた。一番深い部屋にいるアイツがここでは最上位だろう。
地下への入り口はカーペットで隠されていた。蓋を開けるとはしごがあったが、十分飛び降りれる場所に部屋があった。そこから大きい螺旋階段が下へ続いている。当然そんなものは無視し、真ん中の空いた部分へ飛び降りる。それにしても、ただの犯罪者がこんな場所作れるか?大きい螺旋階段も、あの規模の地下室をそう。『空間』で見た限りでは地下室と言うより、地下家と言った方がいいぐらいの広さだ。
暗めだが、地面が見えてきたので風の魔法を使って減速、着地する。シャスにも使い、降り立った。体感50メートルぐらい降りてきた。やはり、チンピラどもにしては深すぎる。何かあるのだろう。
そういった探りは後に置いておいて、今はゴミ掃除だ。この場所は階段の部屋から二手に分かれ、再奥の部屋までそれぞれ部屋と廊下を繰り返す一直線になっている。この設計にした奴らバカだろ。他の部屋に行くには、必ず別の部屋を通らなければならない。プライバシーフル無視の構造だ。ただ、俺達にとっては都合がいい。
シャスに合図し、二手に別れる。こうすることで、取りこぼしはないし、逃げ道を塞げる。『空間』で見て、隠し通路が無いことは確認済み。
途中の扉は蹴って壊し、部屋にいた奴を辻斬りにしながら進む。当然といえばそうだが、なかなか解決しないと言われるにしては呆気ないな。
だいたい10部屋ぐらい走り抜けた次の部屋で、2本の道が合流する。その部屋の奥に一部屋、幹部かもしれない奴がいる。俺に数秒遅れてシャスが来た。
目で合図して奥の部屋に入る。その部屋にいたのは身長より大きな剣を持った男だった。
「よくきたな!連中を倒してここまで来れるんだったら、それなりにヤれるんだよなぁ!だが、俺には勝てねぇよ!お前らはここまで死ぬ。泣き叫んで謝った方が身のためだぞ!」
流石に犯罪者。自分が絶対優位だと思っている。相手が冒険者なら手出しを待つ必要があるが、今回は許可が出ているため待つ必要はない。
余談だが、Sランクはギルドからの『暴れないでくださいお願いします』(フルーガル弁)という証らしい。だから定期的に金が出るし、ギルド規則もよっぽどでなければ無視しても何も言われない。言う方が怖いんだとか。まぁ、Sランクに認定される時点でそういった人物ではないんだと。実力を伴わないとか何とか。
ともかく、Sランクにも面白さ以外にちょっとしたメリットがあった訳だ。俺は肩と膝を床に打ち付けられ固定されている男を見ながらそう思った。分かりきっていた事だが、どれだけ啖呵を切ろうと所詮はこの程度。
俺は男のほうをシャスに任せて部屋を漁る。『空間』で書類の位置を把握して……うん?
「主様。こちらはアッサリ吐きました。この男は幹部級で間違いなさそうです。そちらは如何ですか?」
「そうか。ならその男は連れて行くとするか。聞いて驚けシャス。なんとこの部屋書類どころか紙の一枚も無い。」
棚や引き出しはあるものの、その中身は金になりそうなものしか入っていなかった。書類もなければペンもない。
「仕方ない。まだ時間内だから、さっさと次に行くぞ。」
「承知しました。」
書類が無かったことに若干落胆しながらも、後々隠されているだろうと気を切り替えていく。まだ九箇所もあるんだから何処かにはあるだろう。
男を『空間』の檻に入れて、俺とシャスは次へ向かった。
◇
その後八箇所を回ったが、重要書類は一枚も無し。収穫と言えば、幹部らしき人間を数名捕まえただけ。美味しくないにも程がある。
そもそも犯罪者が書類に纏めるかってところを考えるべきだった。チンピラが組織運営なんて考える訳がない。
そうしてやってきた10軒目。ここが、王都にある拠点で最も中心に近い場所だ。
一番奥の部屋までは他の拠点と全く同じ。その部屋にいた奴も例に漏れず。俺もシャスももう手慣れたものでサクサク進む。
お、この部屋には紙があるな。反応があった引き出しを開けると、確かに紙が入っていた。それも連中のいろいろが書かれた書類と呼べるものが。
よし、これで依頼は完遂だな。
「こっちは見つかったぞ。そっちはどうだ?」
俺はちょうど終わったであろうシャスに声をかける。あまり表情は変化していないが、なぜか不可解そうな顔をしているような気がする。
「こちらも簡単に吐きました。しかし、ここまで捕らえた数人が吐いた情報はほぼ同じ内容です。これでは誰か首魁か分かりません。先に捕まったときの対応を決められているのかもしれません。」
そうだとすると面倒だな。根本から潰せない上に、得られる情報が少なくなる。
「まぁ、いいだろう。俺たちの依頼は幹部級の人物を捕えることだ。そいつらに情報を吐かせるのはフルーガルがやるだろう。あいつなら多分大丈夫だ。」
「随分と信頼されているのですね。」
「そうだな。あの話術は信頼している。うっかり話してしまいそうになるな、アレは。だが、この数を調べるのは少々骨が折れるだろう。せっかくだ。俺たちのほうで厳選していてやろう。」
俺は捕らえている奴を檻の中で一列に並べた。
「さて。諸君らは俺たちに犯罪者として捕まった訳だ。捕まえはしたが、俺たちにはお前たちの生死を自由にできる権利が与えられている。幹部を捕えろという依頼があるが、こんなにはいらない。つまり、今から数人殺す。そうだな……3人。生き残れるのは3人にしよう。3人以外は殺す。決め方は……普通に決めても面白くないな。じゃあこうしよう。俺は今から目をつむり耳を魔法で塞ぐ。見えず聞こえずの状態だ。この間にお前たちは一列に並んでもらう。順番は好きにしろ。並び終わったら、俺は目をつむったまま適当に3人になるようにする。簡単だろ?」
奴らは戸惑っている。そんなに難しいこと言ったか?
「分かっていると思うが、拒否権はもちろん質問も許さない。じゃ、早速やるぞー。だいたい30秒で決めてくれ。」
そう言って俺は目をつむり魔法使う。ここで動くか動かないか、協力するかしないかは奴らの自由だ。
そして30秒。俺は目をつむったまま魔法を解く。
「決まったな?シャス。」
「はい。ちゃんと一列に並んでいます。」
「それではお待ちかね運命の抽選発表。今回は……左から3人だ。一番左にいる3人は生かす。」
そう宣言した後俺は目を開ける。生き残れるものと死が宣告されたものとの反応の差がおもしろい。3人は目に見えて喜び、それ以外は嫌だと言って騒いでいる。
「あー。うるさい。死ね。」
俺は3人以外の首を切り落とす。この辺の後始末はギルドがやるだろ。
ほっと安心している3人に俺は告げる。
「もっとも、ここで死んでおいたほうが良かったかもしれないな。何せこの後、取り調べを受けて牢獄で一生を終えるか、公開で処刑されるかもしれないからな。」
それを聞いた3人の顔が青くなっていく。もちろんこれはもしもの話だ。牢獄から出られるかもしれないし、死刑でも少人数でひっそりと執行されるかもしれない。ここはギルドや司法機関の話だ。俺には関係ない。もしもの話で賭けに出るなら絶対的に生き残った方がいいがな。
「だから、そういったことを避けたいなら、この後の尋問で素直に話すことをおすすめするぞ。」
3人はコクコクと頷いた。さっさと話してくれたほうが、俺たちは顛末を聞き早く戻れて、フルーガルはスムーズに処理できる。
俺は3人を檻に入れギルドに向かった。
……夜中だが、ギルドは空いているのか?朝まで待つとなるとこの3人を抱えておかなければいけないんだが。
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【あとがき】
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