第24話 見かけによらず

は?マジか。

どう考えたってどう推理したって犯人が俺たちとは辿り着けないはず。


言い当てられたことに驚くが、俺もシャスも表には一切ださない。俺は無視できるし、シャスは最近ガチの完璧奴隷になりつつあるから。

あくまで自然体で困惑したように返す。シャスも分かっているようで、主を疑われた怒りのような雰囲気を出している。


「どういうことですか?俺たちではありませんよ。その根拠はアルレルの町で示したはずです。アルレルの支部長から何も聞いていませんか?」


「いえ。確かにヴォイド支部長から報告は受けています。あなた方が犯人ではないことの裏付けまで。」


意味が分からない。ただの鎌かけだったのか?


「俺たちを試しただけですか?」


「いいえ。私はあなた達だと確信しています。」


「その根拠はどこから?間違いのない証拠でも?」


「いいえ。そのようなものはありません。」


うん?鎌掛けではない、犯人だと思っている、ただ紹介はない、こちらの証明はできていることを承知の上。どういうことだ?


「結局どういうことですか?」


「初めに言った通り、サネル消滅の原因はあなた達だと思っています。証拠はありません。どうやって消したのか、どうやって時間の矛盾を消したのかは分かりません。ですが……」


統括は真っ直ぐこちらを見ながら言った。


「原因はあなた達。私の勘です。」


……ん?統括がそれでいいのか。

説明は続く。


「私たち冒険者ギルドの統括や支部長と言うのは、例外なく元冒険者もしくは現役の冒険者で、どちらも高ランクのものがほとんどです。一部は、事務能力や統率能力を買われているものもいますが、基本的に戦闘は強い方が多いです。私もその1人で、こう見えて元Aランクです。自慢ではありませんが、数多くの修羅場を潜り抜けた経験があります。そのせいか、私は直感的にどんな相手か分かるのですよ。あなたが入口で絡まれた時、私が来るのが早すぎると思いませんでしたか?普段は目の前にして漸く分かるのですが、あなたは違いました。あなたがギルドに入った瞬間になんとなくこれはマズイと思い、急いで降りて行ったのです。なんとか間に合いましたが、あなたは彼らの四肢……最低でも、腕は切るつもりだった。そして、対面したときは腰が抜けるかと思いました。こんなの勝てるわけがないって。私の勘が告げたんです。異常だと。だから、あなたを『秘天』だと分かり、同時に原因があなただと分かりました。

もう一度お聞きします。サネルを滅ぼしたのはあなたですね?」


これだから野生的な奴は。何だよその直感。レーダーかよ。

面倒……な部分はあるが、呆れが大きいせいか。そこまで感じない。

だが、それはそれで面白い。


俺は指を鳴らし、この部屋に結界をはる。隔離、隔音のダブル体制だ。


統括が勢いよく立ち上がり、後ろに退がる。結界については分かっていないだろうが、何かされたのは気づいたみたいだ。統括位は伊達じゃないということか。

俺は警戒している統括に話し始める。


「あーあ。結局トリックが無駄になったな。何だよ勘って。お話にならないじゃないか。」


「……それがあなたの素ですか。」


「ん?あぁ、気になるなら戻しますよ。」


「いえ、大丈夫です。」


「それはどうも。ほら、座ったらどうだ?さっきのはちょっとした魔法を使っただけだ。この魔法がある限り、音は漏れないし、誰も入れないし出れないってだけ。だから、そんなに警戒する必要はない。話がすすまないぞ?このままだとどうなるか。」


「そうですね。私としてもあなたと争うことは避けたいですから。絶対に勝てないと分かっている相手に挑むのは死にに行くことと同じです。」


「分かってくれて何より。」


統括が警戒を解き、席についた。


「では統括。あなたの仰ることは正解だ。サネルを滅ぼしたのは俺達、正確には俺だけど。トリックは明かさない。それにしても、その驚異的な勘には呆れるしかないな。そこから他のところに結びつけ、どうするかまでの策略も。」


「……サネルに住んでいた人はどうしたのですか?」


「予想できていないとは言わせないぞ?もちろん、皆殺しにした。」


「そうですか。」


「案外アッサリしているんだな。」


「悔やんでもしょうがないですから。なぜそんなことを?」


「それはシャスが関係している。」


俺は軽く事情を説明した。今回は何故滅ぼしたかなので、契約の一部は話すことにする。聞き終えた統括は苦い顔をしていた。あの領主について詳しく知らなかったようだ。


「あの領主が……。」


「そういう訳だ。今回の事案で俺が非難されるのはお門違いだと思うぞ。」


「確かに、あの領主がやったことは許されることではありません。しかし、あなたが筋違いと言うなら、なぜ住人を皆殺しに?そもそも、シャスさんに契約なんか持ちかけずに、我々ギルドに通報していただけたら良かったのに。」


「なんだ、そんな事を聞くのか。聡明な統括のことだから、てっきり分かっているのかと。単純な話、それじゃあ面白くないから。」


統括が唖然としている。アレ?ほんとに分かってなかったのか。


「シャスと契約したのも面白そうだったから。皆殺ししたのも、ブタの反応が面白そうだったから。ちなみにサネルの冒険者ギルドは腐ってたぞ。ま、それ以外に特に理由はない。な?単純だろ?」


統括が悩み始めた。そんなに悩む部分あったか?


「・・・・・・あなたは面白そうだったからと言いましたね。なら、もし仮に同じような状況に遭遇したとして、また滅ぼすのですか?」


「いい質問だ。答えは是であり否。そんなものは俺の気分次第だ。シャスのときは気が乗っただけ。全ては俺の気分だ。他の運命もな。」


統括が手に力を込めていることが分かる。なかなか正義感が強い人物らしい。


「・・・・・・なるほど。あなたの人となりはよく分かりました。初めは噂で間違いなかったはずですが、こうして話してみると間違いなく『秘天』そのものですね。」


「全くだ。俺もそれ聞いたときはなんだそりゃってなった。」


「そうですね。2つ名が実は当たっていたという笑うに笑えない話です。・・・・・・ところでレイさん。冒険者ギルドの統括にはかなり大きなある権限が与えられているんです。それもギルドや国家を左右する事柄で。本来こうした案件はギルド本部で会議が行われた後に成立となるんですが、これに関しては、緊急性を要するため統括に本部の承諾なしでの決定権が与えられています。私はこれをあなたに対し使うべきだと考えました。私はこの権限を行使し、」


さ。何を言ってくる?別に何をされても痛くないな。特段気にいらなかったら消せばいいし。


「レイさん、あなたをSランクに認定します。」







—————————————————————

【あとがき】

『秘天』。この世界に於ける新たな天災の種類です。

実は地球では1000年以上前からある天災の一種です。今はほとんど知られていませんが。なんでも、予測・観測がほぼ不可能で、ふらっと発生し、甚大な被害が生まれる時もあれば、むしろ有益な時もあるそうです。『実は〜』から後は勿論嘘です。



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