第21話 主従?

アルレルに戻ってきて数日後。

俺達はほぼ毎日狩りに出て、報酬をもらって宿に帰るという日常を過ごしていた。特に変わったことのない毎日だ。シャスのことを除いて。

アイツは、戻ってきた翌日からもずっと付いてこようとしていた。ただ、一緒だとランクの関係で同じ依頼を受けられず手間がかかる。そう伝えると、『では、ランクが近ければ良いのですね。』って別行動を始めた。冒険者ギルドの規則上、パーティーを組むにはランク差が1段以内でないといけない。昇格には時間がかかるから諦めたかと思えば、昨日やってきて


『これで文句無いでしょう。』


って言ってきた。見せられたのはDランクの文字が浮かぶ冒険者証だった。Cランクまでは、俺みたいな例外を除き、昇格には一定数依頼をこなさなければならない。Dランクあがるにはそれを2回繰り返す訳だから、かなりの数になる。Cランクまでに戦闘に慣れさせるため、ひたすら数を打つ。そんなポンポン昇格しても死人を増やすだけだからな、妥当な仕組みだ。

それをコイツは数日でこなしやがった。1日あたり何件受けたらそんな事になるんだよ。絶対時間足りねぇだろ労働基準法守れ。

そんなこんなで俺とシャスはパーティーを組・・・・・・んでいない。何故かというと俺が断固拒否したから。パーティーは申請とか報酬の配分とか含めて考えてもデメリットの方が多い。ということで俺とシャスはパーティーを組まず、共同で依頼を受けるってことにした。違いはあらかじめルールを決めるかどうかだけ。そもそもコイツは奴隷ですのでって言って収入を全て渡してくる。そのせいで、シャスの分の宿代や食事まで俺が管理するハメになっている。そのくらい自分でやれよ契約上自由なんだから。どうせ奴隷ですのでって言われるから指摘しないが。


そんなことがあって本日。俺とシャスは依頼を片付けに行かず、支部長室に来ていた。なんでも聞いたいことがあるらしく、面識がないシャスまで呼ばれていた。

ノックをして中に入ると、支部長と有能さんが座っていた。珍しい組み合わせだな。


「おう、来たか。取り敢えず座ってくれ。」


促されたのでシャスとともに対面に座る。俺と支部長が正面になるかたちだ。


「悪いな。急に呼び出して。あぁ、受付で話したことあると思うが、コイツには記録係として同席してもらってる。」


「いえ、構いませんよ。さっさと用件言って終わってもらえるなら。依頼をこなしに行きたいもので。」


「まあ、そう急かすな。そっちの嬢ちゃんが例の?」


「そうだとは思いますが、どの?」


「ギルドでも有名になってるよ。かの『秘天』に付き従う実力者だって。」


おいちょっと待て。


「待ってください。その『秘天』ってのはなんですか?」


「ん?知らないのか?レイ、お前についてる二つ名だ。呼ばれ名とも言うな。誰が呼び始めたのか知らんが、訳のわからぬまま腕を切られたりする不思議さ、秘密、んで、絶対って感じがするから『秘天』らしいぞ?お前に関する噂はかなり出回ってて、中には歩いている途中で消えたなんてものもあるくらいだ。」


なんだそりゃ。ざっくりしすぎだろ。というか、『転移』を見てた奴がいるのか。

やべぇ、もう疲れた。


「はぁ。それで用件はなんです?」


「ああ。お前、数日前にサネルの町に行ったよな?それで、そっちの嬢ちゃんを連れて戻ってきたと。」


「ええ。それがなにか?」


「お前、噂とか聞かないのか?」


「全く興味無いですし、どうでもいいですね。」


そんなものはよっぽどで無ければ無視。当然だ。


「そうか。なら聞いてくれ。サネルの町が消滅した。」


まぁ、サネルっていう単語がでてきた時点で予想はしていた。それで何か知らないか、もしくは犯人ではないかと疑っているのだろう。俺はそのくらいやると思われているらしい。


「そうなんですか。俺たちが出た時には特に変わった点は無かったので。何も知りませんでした。」


「そっちの嬢ちゃんはどうだ?えっと、」


「シャスです。私も主様と同じく知りませんでした。」


「主様?」


「私はレイ様の奴隷ですので。」


おそらくシャスが奴隷ということを知らなかったのだろう。なんだったら女ってことも。獣人であることは言わずもがな。

それにしても、獣人であれば差別されるらしいが、奴隷も差別されるんじゃないのか?なのに何故シャスは奴隷であることを軽々明かす?俺のという所有され権付きで。


ともかく、こうした疑いがかかることは予想できていたため、シャスとは打ち合わせをしてある。

ギルマスはこれ以上は御法度の詮索になると思ったらしい。シャスの奴隷発言を気にせず続ける。シャスは基本、戦闘中でも宿でもフードをはずさないからな。奴隷とも獣人とも分からなくて当然だ。


「ハッキリ言うとお前たちには嫌疑がかかっている。何か無実だと証明できるものはあるか?」


「ちょうどいいですね。いつも受付にいる方が、俺たちが戻ってきてシャスの冒険者登録をしたはずです。そうですよね?」


「はい。間違いありません。」


「なら、シャスの冒険者証に記載されている日付から、俺たちがサネルをでたおおまかな日が分かるはずです。アルレルとサネルには定期便が通っていて、少なくとも1週間はかかります。なら、その日サネルをでた人間がアルレルに来ていれば証明になるでしょう。」


「なるほど。分かった。お前らは無実だな。」


「いいんですか?確かめなくて。」


「それだけ自信ありげに言えるんだったら事実なんだろ。一応確かめはするが、お前らの裏付けだ。ほぼやる意味はない。だが、噂には耳を傾けてみるといいぞ?全面的に信じる必要はないが。今回のだって、ある程度の規模の町が、一夜にしてまるっと消え去ったからな。」


「そうですか。一応、気にかけるようにはします。」


ギルドがだいたいの日の定期便を調べたところで、来ているという記録があるだけだ。この世界に『空間』という考えはない。俺たちは『転移』で移動しているから1週間どころか実際は1秒もかからない。つまり、俺たちがやったという証拠はでる訳がない。

もっとも、捏造なり何なりで縛ろうとしてきたならサネルと同じ道を辿るだけだ。









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【あとがき】

デデン!レイ君が称号『秘天』をゲットしました


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