第13話 悪魔の所業
数分後
アネモネは倒れ込んだ。アネモネの服や渡した短剣は真っ赤に染まっている。バテてはいるが、アネモネはゴブリン5体を殺しきった。戦闘経験無し、武具や魔法の心得も無いことを考えると及第点か。
「よくやったアネモネ。短剣一本でここまでやれるとは正直予想外だ。」
そう言葉をかけるとアネモネは非難するような視線を向けてくる。おっと、
「言ったはずだぞ?悪魔と契約する気はあるかって。今日から毎日、この森にお前を連れてくる。後は自由にしろ。ある程度のレベルに達したと判断すれば、復讐させてやる。要は早く復讐したければ、その分頑張れってことだ。当然、甘く判断するつもりはないぞ。あぁ、安心しろ。ちゃんと3食は持ってくるし、夜になれば連れて帰る。必要なものがあれば言え。最大限のサポートはする。リミットは俺の準備が終わるまでにしようか。」
さて、それじゃ俺も取りかかるとしますか。まずは冒険者ギルドに行って・・・
「待って。」
そう言ってアネモネは立ち上がる。ほほう・・・。
「どう考えても無理。誰かに教えてもらうならまだしも、独力は限界がある。あなたはそういった面でサポートしてくれないの。」
「そうだな。そのぐらい自分でやれ、と言いたいところだが実際は教える方法がないんだよ。剣も魔法もな。」
剣は『武器』に頼りきりだし、魔法は完全にイメージで使っている。詳しい理論を言えといわれても不可能としか答えられない。
「まぁ気が向いて時間があるときに、俺の自己流でいいなら教えるよ。どうなってもいいならな。それを待つ間のアドバイスとしては、ひたすら殺しまくれ。お前の復讐もそうだし今後駒になることを考えると慣れてもらっとかないと困る。お前なら普通の人間より数をこなせるはずだ。さっきあんだけバテてたのにすぐ立ち上がったろ?お前の体力がすぐ補充されるのか、種族柄なのかは知らんがな。」
アネモネは少し考え込むと短剣を向けた。
「おいおい、俺の駒だろ。反抗していいのか?」
「それはあなたが命令したときだけで、普段の禁止は敵対だけ。それ以外は基本自由って言ってた。これは敵対じゃない。・・・大量殺人の予定でもあるの?あなたはやたら殺しに慣れることと体力のことを気にしてる。」
今度は俺が考え込む番だった。
「ははっ。君のような勘のいいガキは嫌いだよ、敵に回ればね。これから駒になるのがこれほどなのは嬉しいことだな。」
「私はガキじゃない。もう15歳。」
「もう?というか同い年か。まあいい。いずれ分かるさ。それに、操り人形になるお前が気にすることじゃない。」
「・・・やっぱりあなたは悪魔。人間だけど悪魔。」
「そうか。じゃ、頑張ってな~。」
そうして俺は『転移』を使った。
◇
おおまかに人間を分類するものに職種がある。職業はどうしても人によって得意不得意があるもので、現代教育では自分にあった職業に就くことがすばらしいとされているらしい。また、多種多様な人間が就職するが、職業によっては見事にどんな人間が就職するか偏っているとか。もちろん、例外もいる。あくまで傾向であって、就いている半分が、3割が、8割が、といった具合もあるらしい。だから、ある職業について聞かれたとき、答えがニュアンスが違ってもだいたい同じになるのではなかろうか。
そしてこれは冒険者にも当てはまる。冒険者と言われて何を想像するだろうか?危険、一攫千金、ロマン、等々あるだろう。だがしかし、テンプレラノベの民ならこう思うのではないか?
めんどくさい微ナルシ多め、と。現実逃避終わり。
はい。ということでただいま絶賛絡まれ中でございます。最近無いから忘れてた。そりゃアルレルで絡まれないのはよく知られているからで、余所の土地じゃこうなるのは当たり前か。特に治安が悪いって言われるサネルのギルドなら尚更か。忘れた頃に・・・はぁ。
あ、手出してきたんで早急に処理。いつも通り腕を切り落とす。何回やるんだよこの流れ。
そのまま受付で達成報告書を出す。まーた何か言ってくるが全部無視だ、無視。しかもアルレルの職員と違って自分の進退がどうの言ってる。さすが治安最悪の町。
めんどくさいので軽く脅すと、黙って進めてくれた。なんだ、やればできるじゃないか。
これでCランクに上がれたし、かなりの報酬も入った。何日かは食費等2人分でも大丈夫そうだな。とはいえ、ずっとはもたないからまた依頼を受ける必要があるが、ここで依頼を受ける気は全くない。誰が来るかこんなギルド。
俺はギルドから出て通りを歩く。今いる宿は食事がついてないから買い物もして行かないとな。
今後の予定をたてながら俺は人目につかない裏路地に入る。さて、邪魔なものはさっさと処理。常識だよね。
「一応聞いといてあげるけど何の用?」
ある程度奥に進んだところでそう呼びかける。物陰からでてきたのは3人組。
「へへっ、あんだけたんまり貰ってたんだ。ちょっと俺たちに分けてくれたっていいだろう?」
「そうだそうだ。」「分けてくれよ。」
「この町には学習能力がない人間が多いのかな。さっきのギルドのこと見てなかったの?」
「あんなのハリボテで仕込みがあるに決まってるだろ。なら今ならカモってことだよなぁ?」
ほんとに学習できないやつららしい。いつもなら淡々と終わらせるところだが、
「俺、今上機嫌なんだよな。」
「なんだぁ?」
「ギルドでの一件を差し引いても、優秀な駒をゲットして、今後のことを想像してルンルンな訳だ。だから、さっさと終わらせるようなマネはしない。」
「な、何言ってんだ。やるぞ!お前ら!」
3人組が武器を抜いて走ってくる。あーあ、武器抜いちゃった。これって手を出してきたことになるよね?
「なんだ、動け」
「はい、残念。これは正当防衛だよ?」
後に全身串刺しにされた死体、ぐしゃぐしゃになった死体、外見はきれいだが解剖すると中身が潰されていた死体が見つかったとか。
◇
「やっほー。調子はどう?」
夕方になりアネモネを迎えに来ていた。居場所は魔法で簡単に特定できる。
「そこそこ。言われた通りに会った魔物を殺して行った。はいコレ。」
渡されたのは大量の魔石だった。思ったより多いな。しかもかなり大きいものまである。魔石は大きさでどのくらいのランクか判断できるらしく、アネモネが狩った中にはおそらくDランク相当のものもあった。戦闘経験なしの初日でこれはすごいことなんじゃないか?アネモネはこの方面のポテンシャルが高いっぽい。まぁ、日数の話は人のこと言えないが。
「すごいな。このペースだとリミットに間に合うだろ。俺が教えるなら尚な。」
「・・・そう。」
「何かご不満でも?」
「分からない。あなたはとてつもなく強い。それは分かる。だからこそ私を育てる意味が分からない。護衛なんて必要ないし、自分でほとんどこなせるはず。私にとってもあなたが強いから自分が強いのか弱いのか分からない。」
「・・・そうだな。俺がお前を育てるのはただの気まぐれだ。お前の復讐が面白そうだったから手伝ってやって、ついでに便利な駒を得ようって思っただけだ。お前の強さははっきり言ってまだまだだな。雑魚の部類だ。ただ、この成長速度と相手の実力を測れる目があれば、一般に強いって言われるのもそう遠くはない。ま、ここで言えるのは・・・」
見つめてくるアネモネに俺は変わりようのない事実を伝える。
「全部俺の気分次第ってことだ。それに抗えるようせいぜい頑張れ。」
そう言い放つとアネモネは視線をそらした。納得できずに拗ねちゃったかな?
なお、その後用意した夕食にはあまり表には出なかったが、大変ご満悦だったよう。
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