第10話 その目に映るのは

(前書き)

本作の変更点を近況ノートに掲載しております。ちょくちょく変わるのでご注意ください



↓本編




例の飲み会から数日後。

俺はアルレルの南東にある『サネル』という町に向かっていた。

事の発端はギルマスの提案だった。





「悪いな。急に呼び出しちまって。」


支部長室に来た俺は開口一番そう言われた。

いつも通り依頼を受けに来たら、受付でギルマスから話があるから部屋に行ってほしいと言われた。


「いえ。それではランクアップについての話があるんですよね。」


「ああ。お前にはある依頼を受けてもらいたい。もしこれを受けるなら、達成報告と同時にCランクに昇格だ。」


「支部長権限でいけるのはDまでじゃ無いんですか?」


「無条件ならな。条件付きならある程度の裁量権がある。」


なるほど。俺が思っている以上に支部長ってのはお偉いさんのようだ。ただ、条件付きで、と言うことは依頼自体が訳ありか。


「受けましょう。では、依頼の説明をお願いします。」


「今回お前にやってもらうのは護衛依頼だ。依頼主はある商会のオーナーで隣町まで物資の輸送をしたいが、盗賊や他の商会から妨害されそうで守ってほしいそうだ。護衛は町に着くまでで、予め連絡しておくから向こうのギルドで報酬の受け取りと昇格が出来る。後は構わない。好きにしろ。」


意外と真っ当な依頼だな。聞いている限り普通の依頼として誰かが受けそうだが、


「何故その依頼がこんな形で?普通そうですが。」


「理由はいくつかある。まず、その商会は最近できた勢いのある商会で、他の商会に狙われている最中であること。2つ目は物資の輸送があるため通常と比べて長くなること。んで、今回の目的地が治安が悪いことで有名な町であることだ。」


誰も受けたがらなそうな依頼だな。ギルドはそれでいいのか。どんだけ悪条件盛れば依頼として成立しなくなるんだ?


「で、塩漬けにしとくぐらいならランクアップを餌に俺にやらせようと。」


「はっきり言えばそうなる。だが、悪くない条件だろ?」


「ええ、そうですね。」


俺の実力があれば盗賊如き問題ないだろうしな。

そういや会ってないな、盗賊。


それはさておき、こうして俺は依頼を受けることになった。回想終わり。






こうして今俺は馬車に乗っている。因みに小枝亭にしばらく帰らないことはフォアちゃんには言っていない。時間がかかるのが目に見えたからだ。

俺の仕事は敵が出てきたら処理するだけ、後は自由の簡単なお仕事だ。


ここにくるまでに、盗賊の相手が2回、盗賊擬きの相手を1回しただけであとは特にない。盗賊はまあイメージそのまんまだ。

町をでる前にしばらく帰らないことを伝えたらもろ嫌がられたお嬢様をなだめたことを除けば、楽々だ。


あとは何も起こらずその日の夜。野営地にて


「いやぁ、助かりますよ。お強い方が来ていただいて。」


そう話しかけてきたのは例のオーナーだ。20代くらいの男性で、これからというところを狙われているのだから苦労が絶えない身だろう。


「報酬が魅力的でしたからね。依頼である以上完璧にこなしますよ。」


「これはこれは。ありがたいことです。」


そんな話をしながら食事を取っていると、


ガタ!


と馬車の荷台から音がした。荷台には布が掛かっていて中は見えない。そういえば今回の物資とやらが何なのか聞いてなかったな。


「気になりますか?」


先手を取ってオーナーが言う。


「誰も受けないところを受けていただいた恩がありますから。見てみますか?」


「よろしいので?」


「ええ。」


荷台のなかを見せてもらうことにした。


近づき、オーナーが布を取る。そこには










大量の人間がいた。

よく見ると首には鉄でできた首輪のようなものがある。

布の下は檻のようになっていて、乱雑に人間が座ったり寝たりしている。


「これは・・・。」


「おや、奴隷をみるのは初めてですか?」


「奴隷・・・。この王国に奴隷制があるんですね。」


「はい。奴隷になる理由は様々ですが、主に犯罪者や何かの代償を支払うために定められています。奴隷の主人はその奴隷に対して一切の権利を得ます。家事でも犯罪でも夜伽でも何でもです。魔法で縛られるので逆らうことはできません。そこの奴隷たちですが、ご自由に見ていただいて構いません。」


俺は檻をぐるりと一周する事にした。男、女、子供から老人まで様々な人間がいる。


一周し終えるところで顔を上げた奴隷と目が合い、俺は足を止めた。


そこには、俺が目を見開くには充分なのがいた。


そこにオーナーがやってくる。


「気になる奴隷でもいましたか?・・・ああ、その獣人ですか。」


そう、俺が気になったのは普通の人間ではなく猫耳と尻尾を持った奴隷だった。この世界には奴隷もいれば獣人もいるらしい。

オーナーが説明を始める


「その獣人は詳しい経緯は不明ですが、道の途中で馬車にぶつかったので奴隷にしたものです。なにせ喋らい上にフラフラでしたので。」


なるほど。奴隷になる理由は様々と言っていたが奴隷商人にはそう言ったことも許されるらしい。


「この奴隷、この後どうなる?」


「この後はサネルに着いたあと店に並べる予定ですが。」


「なら、俺が買おう。」


「え、本気ですか?獣人は差別の対象となる種族で連れていたらどんな目に会うか分かりませんよ?」


「別にいい。それより契約はこの場でいいか?」


「い、いえ。ここには魔法具が無いので町についてからでお願いします。」


魔法で縛られると言っていたが、あれは魔法具とやらで縛るらしい。恐らく、冒険者ギルドのランク関係の特殊な魔法についても魔法具を使っているのだろう。公然の秘密ってやつか。そうでなければどの支部にも常時特殊な魔法を使えるものがいるはずだ。過労死するぞ、そんなことがあったら。


そんなこんなで俺は奴隷を買うことにした。オーナーの目には連れているだけでリスクのかかる獣人を買う物珍しさで好奇心を抑えられなかった人間かそういう好色家かのように見えただろう。


もちろん、獣人を珍しいとは思った。元の世界にはいなかったしな。

だが俺が、目を見開いたのはそれが理由ではない。


オーナーが立ち去ると、俺はその獣人のほうを見た。

ああ、いまの俺にはどうしようもない笑いが、悪魔のような笑いが浮かんでいることだろう。その獣人と目が合ったとき感じてしまった。










『とても、とてもとても面白そうだ。』

って。

だって、その獣人の目には











異常なまでの絶望と、それを軽く上回る復讐心がやどっていたから。

これを達成できるなら、他を殺し尽くしても、何をしても、何も思わないと言わんばかりの。












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