第9話 出会いと再会

昨晩と今朝、亭主さんとフォアちゃんとほのぼのした時間を過ごして、ウッキウキでやって来た冒険者ギルド。仕事をやる気たっぷりで始められると思ったのに、


「おぉぉぉぉぉい、ガァァァァァキィィィィィイイ!」


二度あることは三度あると言うが、俺の場合三を飛ばして今は四ではなかろうか?そしてこいつ一番ひどいな。つまり最もウザイ。

絡んできた時点で手を出してきたと見ていいだろう。早急に処理

・・・しかけたところで


「おいおい、か弱いそうな子供に絡むとか冒険者としてなってねぇな?」


背の高い女がソイツに突っかかっていった。同じくらいの歳だ。余計な真似を。


「!引っ込んでろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


こいつの叫びくせ強すぎないか?どこぞの絵画を真っ青だぞ。いや、あれは元々真っ青か。


と思ったところで、女が首に手刀を入れて黙らせた。早業だな。だが、


「すみません、代わりに黙らせてもらって。」


「おう!いいってことよ!」


「ですか、次回からは手出し無用です。自分で何とかできますので。それに、これだとあなたが、先に手を出したことになるのでは?」


「ほう、言ってくれるじゃねぇか。そこまで言える実力はあるんだろうな。あとお前を助ける名目だから問題ねぇよ。」


「当然です。それこそ、あなた程度問題にならないぐらいは。」 


「あぁ!?なら実際にヤるしかないよな。まさか、ここにきてやっぱり無理はないぞ。」


「どうぞ、ご自由に。示せと言うなら付き合いましょう。」


「よっしゃ!おい、訓練場貸切にするぜ!」


女が受付に向かって叫ぶ。


「承知しました。」


そう答えたのは有能さんだ。というか、あんだけシフトまわってるのにいっつもいるよな、有能さん。


「うし。付いて来な。」


そう言われたので、女について行く。









案内されたのは小さめの闘技場のような場所だった。小さめと言えど、普通に動き回れそうな広さはあるし、観客席だってある。


「じゃあ、早速ヤるか。ルールはなんでもあり。うちのパーティーに部位欠損まで治せるやつがいる。つまり、禁止なのは殺しだけだ。」


文句は無いので頷く。女がニタリと笑いじゃあ早速、と始めようとしたそのとき、


「待て待て待て待て!」


慌てて入ってきたのはギルマスだ。どうしたんだ。


「ギルマスじゃねぇか。何かあったか?」


「あぁ。今俺の目の前で起こってるんだよ。お前らほんとにやる気か?」


とか今更なことを聞いてきたので、肯定しつつ問題点を指摘する。


「ええ、当然です。いくらギルマスとはいえ、介入は不可能ですよ。なにせ、ギルドには中立の決まりがありますから。」


「ソイツの言う通りだ。だから止めるなよ?ギルマス。」


俺と女が同時に見ると、ギルマスは言葉を詰まらせていた。


「・・・分かった。ただし、審判は俺がやる。俺が決着がついたと見て、終わりと言ったらそこで終わりだ。いいな?」


「それで構いません。」


「いいぜ。」


「・・・ほんとやりすぎないでくれよ。」


何故かギルマスは疲れた様子だ。走って来たからか?

いつの間にか観客席はいっぱいになっている。暇なのかコイツらは。


正面を向くと女が構えていた。獲物は長剣らしい。


「おいおいさっさと構えろよ。」


「不要ですよ。」


「ふざけてんのかてめぇ!」


女が沸騰しているがうるさいので無視する。

ギルマスの宣言


「それでは、始め!」


「っらぁ!」


女が真っ直ぐ突っ込んでくる。バガの一つ覚えだ。


勝負は一瞬で終わった。


「は?」


「勝者、レイ!」


女は呆然としている。まぁ、分からなくもない。おそらく普通の反応だろう。自分の四肢が全て切り落とされているから。切り落とされるっていうことがおそらく珍事だろうから、普通の反応は分からないが。

観客席で騒いでいるのは一部だけ。騒いでないのは、あの現場にいた奴らか。


やる事も終わったのでさっさと立ち去る。依頼、まだ残っているだろうか?


「おい!何したんだ!」


女が叫んでいる。勘弁しろこっちは3回目だぞ。


「教えるわけないたろ。お前のような人間に。」


そう。この女も結局あいつらと同じだ。相手の実力を測れず、しかも舐めてかかるタイプ。相違点をあげるなら、絡みに来なかったこととある程度の実力があるという部分だけ。その実力も俺には及ばない。女の手刀は早業だったが普通に見えたし。逆に女は俺の攻撃を知覚できていない。


「騒ぐなよ。そんなに叫ぶと出血多量で死ぬぞ?さっさとお仲間に治してもらえ。」


と言って俺は上に行く。ここはギルド地下だ。よくこんなところ作ったよな。









適当な依頼をこなしギルドに戻って来る。あの争いはかなりの観客がいたから、もう絡んでくるやつはいない。テンプレはいいが、多いのは困る。面倒だ。


今日の報酬を受け取る。昨日より時間があるから、昨日より多めだ。これだけあれば亭主さんの宿何泊できるんだ?


「すまん、ちょっといいか?」


とか言われたせいで俺の気分はダダ下がりだ。心なしかギルド内の空気の温度も下がった気がする。

声の方には朝の女がいた。まだ絡む元気があるのか、と思ったがそんな様子ではないようだ。


「なんだ?」


「その、今朝はすまなかった。舐めてかかって見事に返り討ちにされた上に迷惑をかけた。謝罪したい。」


もう一つ今までのやつとは違う部分追加だな。その潔さは良いものだ。冒険者にも認めて謝罪できるやつがいたんだな。


「謝罪を受け入れましょう。こちらこそ煽るようなマネをしてすみませんでした。では。」


あまり長々と立ち話をするつもりはない。注目されているのが手に取るように分かる。


「待ってくれ。きちんと謝罪したいから、一杯奢らせてくれ。実はパーティーメンバーを紹介したい。」


意味が分からん謝罪で一杯奢るはまだいい。たっだ、パーティーを紹介したいとはどういうことだ?


「いいでしょう。今からですか?」


考えた結果、誘いに乗ることにした。奢ってもらえるのはいいし、パーティー云々も気になる。


「助かる。私たち行きつけの店があるんだ。案内しよう。」


ということで飲みに行くことになった。






「ここだ。」


案内されたのは居酒屋らしきところだ。見たところ綺麗だし、問題は無さそうだ。


店の中に入ると居酒屋!って感じの店内だった。異世界にもこんな店あるんだな。電気とかはないが。


何席かあるうちの角のテーブル席に近づく。そこにはもう2人座っていた。


「悪い、待たせたか?」


「いえ、きちんと謝罪してきたのでしょう?それならばいくらでも待ちます。」


そう答えたのは席に座る神官っぽい服の女。依頼をこなしてそのままという感じだ。

もう1人は、


「あれ?」


「また会った。」


そこにいたのは図書館で声をかけてきた人だった。相変わらず魔法使いのような服装をしている。相変わらずと言っても1日だが。


「なんだ、知り合いか?」


「いえ、図書館で声をかけて頂いただけですよ。」


「へー。」


「取り敢えず席に座ってはどうですか?そちらの方もどうぞ。」


「あ、お前何呑む?」


未成年だろ。俺もお前も。


「この国は飲酒に年齢制限はかかっていないのですか?」


「あぁ、外国では何歳以下は呑めないという法があると聞いたことがあります。ラーベアル王国の法にそのようなものはありませんよ。」


なら遠慮なく。奢りだし。取り敢えずビールにしてみよう。何が美味いのか知らないため食べ物は任せることにした。

注文を終えると女が切り出す。


「じゃ、まずは自己紹介だな。」


「闘う前に名乗らなかったのですか?」


女が言って神官にツッコまれていた。かなり手慣れてるな。常習犯か。

手出ししてきた女こっちを向く。


「まずは私からだ。私はラスカ。15だ。冒険者やってて、得物は長剣。例の件では迷惑かけたが、よろしく頼む。」


「私はリテイトと申します。ラスカと同い年で神官です。回復属性を使えます。」


まず2人の自己紹介を聞いた。めっちゃ気になるんだが、


「回復属性とは特殊な属性のひとつなんですか?私が見た本では基本属性になかった気がしますが。」


「そうですね。ただ、回復属性は特殊な属性の中でも抜きん出て発現する方が多いそうです。そのため基本属性に追加するかどうか議論がなされているとか。」


なるほど。そんな属性もあるんだな。そして、


「最後は私。クレア。15。魔法使い。よろしく。」


図書館で会った人はやっぱり魔法使いらしい。これで魔法使いじゃなかったら見た目詐欺だもんな。


「私はレイと言います。15歳です。基本的に剣と魔法の両方を使います。」


「まじか、同い年だったのか。じゃあ敬語抜きで話そうぜ。な?」


「わか、分かった。」


ここで飲み物と料理が運ばれてきたので、


「出会いを祝して、乾杯!」


「「「乾杯!」」」



それから3人の話を聞いた。

普段は『ソーレリス』という3人パーティーで活動しているらしく、なんとBランクだそうだ。確かにバランスいい構成だからスムーズに行けるかもな。パーティーとはギルドで全員が揃った状態で書類を提出することで成立するらしく、報酬の配分とかをあらかじめ決めておけるんだとか。俺に紹介しておきたいというのは連携と取れる冒険者が欲しかったらしくチャンスだと思ったと。一応パーティーに誘われたが断っておいた。

そんな話をしているとラスカが言ってきた。


「なあ、今朝のやつどうやったんだ?」


「というと?」


「誤魔化すなよ。私の腕と足全部切ったやつだ。」


「あぁ、あれはただの風の魔法だよ。」


「嘘。風の魔法であんなことできる訳がない。」


本物の魔法使いがそう言ってくる。これ以外言いようがないんだが。


「どういうこと?どうやってやったの?」


あのクレアさん?ちょっと目がイッちゃってるんですが。


だか、このパーティーには抑え役が・・・


「そういやリテイト喋ってないがどうした?」


リテイトは下を向いていた。なんだ?寝たのか?リテイト以外が不思議に思っていると、急に立ち上がり、頭を下げてきた。

俺たちが困惑していると、


「ごめんなさい、レイさん。今朝ラスカに行くように言ったのは私なんです。対抗できない人が絡まれているようにしか見えなくて。ダメでしたよね。そもそも私は・・・」


前半はまともだった。別に構わないことだ。問題は後半、今も小声でぶつぶつ永遠と呟いている。視線を2人に向けると


「悪いな。リテイトは普段は酔わないんだか、結構飲んだりするとこうやって悪酔いし始める。」


「ん、いつもはこうなったら部屋に放り込んでおく。」


それでいいのか、それで。

ちょうど良いので、お開きにすることにした。また飲もうと言われたので、快く承諾しておいた。因みにリテイトはラスカに担がれていった。










もう最後の鐘がなってからかなりたった。今は日付をまたぐぐらいの時間だろう。小枝亭の扉は俺が帰るまで開けていてくれたらしい。鍵がかかっていない。亭主さんに感謝して扉を開けると

フォアちゃんが飛び込んできた。いつもは寝ているはずだけど。


「おそいです。」


と言って抱きついたまま寝てしまった。

亭主さんがきて、


「フォアはあんちゃんが帰るまでずっと待ってたぞ。寝る時間だと説得しても嫌だって言ってな。客に言えることじゃないが、フォアのことも気にしてやってくれ。」


微笑ましいな。全く。おそらくこういうのをほのぼのしているって言うんだろう。










——————————————————————

(あとがき)


ほのぼの・・・大◯さんシリーズ・・・

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