第8話 知識

宿を出た俺は昨日受付さんに教えて貰った図書館に向かっている。世界観こそ知っているものの、他を何も知らなさすぎる。特に通貨のこと。これが分からんと、買い物もできない。

石で舗装された道を歩いていると目の前に立派な建物が見えてきた。門に彫ってある文字は、『アルレル市民図書館』か。割と自由に本は読めるみたいだな。


扉を開けて中に入ると、無数の本棚が目に入る。おぉ、こりゃすげえ。まわりが本だらけだ。入口すぐ横に館内図があって助かった。

俺はだいたい読みたい本がありそうな場所と読書スペースを覚えて、早速取りに行った。






ふぅ。

持ってきた本はだいたい読んだ。体感2時間ぐらいか。

よし、整理しようか。

今は聖歴537年。年代は入口に貼ってあったものを見ただけだ。初めに地理から。まず言わずもがな『要塞都市アルレル』。ここ『ラーベアル王国』の最北端にある町らしい。最北端という割にそこまで寒くない。んで、国境は2つの国と接している。北東に『イルテリア帝国』、北西に『ライル共和国』。あるんだな、共和国。どちらの国の資料をみても気候はあまり変わらないっぽい。世界全体が温帯って感じか。ただ、若干違う地域もあるらしい。

そして通貨。通貨は世界共通で、『エス』。ここにくるまでにみた屋台の値段からすると物価が狂ってない限り1円=1エス。硬貨が発行されていて、100エス=銅貨、1000エス=大銅貨、10000エス=銀貨、100000=大銀貨、1000000エス=金貨、らしい。1円に銅貨なんて使っていいのかと思うが、どうもこの世界は銅、銀、金は異常にとれるらしく特に銅はヤバいんだとか。100万まであるのは貴族とか大商家とかの取引で使われると。そうそう、王国だか帝国だかには当然貴族がいる。アルレルを治めているのは『カテラル辺境伯』という人間らしい。

こんくらいか?あとは冒険者ギルドは中立ぐらい。


じゃ、本命レッツゴー。

当然、魔法に関する本も見つけてある。


曰わく、

・魔法は魔力を使い通常有り得ない現象を起こすものである。

・魔法は種類、性質によって『火』、『水』、『風』、『土』、『光』、『闇』に分か         れ、それぞれでさらに『初級』、『下級』、『中級』、『上級』、『超級』に分かれる。 また、極稀に上記の属性に当てはまらない特殊な魔法を持つ者がいる。

属性で分かれた魔法は鍛錬を積むことでどれも使えるが、人によって得意不得意がある。


とのこと。

魔力に関して載ってる本が無かったんだよな。

属性で分かれた魔法は鍛錬すれば使える、か。となると俺の能力にのひとつとして浮かぶ属性の説明がつかない。得意な属性とするなら説明できなくもないが、どうも腑に落ちない。おまけに級分けされているなら、名前付きで魔法が使えるはず。俺は大雑把なイメージで使ってるから、能力としての属性は何か他の意味があるのか?

だめだな。今は諦めて、本を返しにいこう。このまま考えていると、ギルドに行く時間がなくなる。朝ああいったのに、亭主さんに割り引いてもらうのは避けたい。


本をそれぞれの棚に返し終わったところで一冊の本のタイトルが目に入った。そこには


『上位個体』についての見解


というタイトルがあった。

上位個体?


「気になるの?」


そう声をかけられた。口にでてしまっていたらしい。

声がした方を向くと、1人の少女が立っていた。身に纏うのはローブで、如何にも魔法使いって感じの子だ。


「上位個体について知りたくて、お金に余裕があるならここのより町の本屋で買った方がいいよ。最近のことが載ってるから。」


「そうですか。わざわざありがとうございます。」


「ん。」


少女は去っていった。周りを気にかけるタイプの子か?


ありがたい忠告は貰ったが、今は金欠なので目に付いた本を読む。

へぇ・・・。






図書館から出た俺ギルドへ向かう。この時間なら依頼何個かこなせそうだな。そうそう、時間についてだが、この世界も暦とか時間は一緒みたいだ。時間を把握する方法は、朝6時~夜8時までは2時間おきに鐘が等間隔で鳴るらしく、朝6時は1回、朝8時は2回、というふうに増やして区別するらしい。さっき鳴ったのは4回で、だいたい1時間前のはずだから、今は1時ぐらい。以外と図書館にいたんだな。


途中の屋台でお昼を買い、食べ歩きしているとふと思い出したので、少し方向変える。

やってきたのは最初に通った、門にやってきた。運良く、あの兵士さんがいた。


「すみません。」


「ん?ああ、昨日の。どうした?」


「入場料の支払いと仮身分証の返還に来ました。」


「もう?ずいぶんはやいな。まあいい。それじゃ、正規の身分証と300エスを出してくれ。」


「確かギルド証でいいんでしたよね。」


「ああ。」


俺は300エスとギルド証をわたす。


「300エスは確かに。身分証は・・・Dランク?元々持っていたのか?」


「いえ、昨日取ったばっかりですよ。支部長権限とかであげられまして。何があったか知りたいなら冒険者ギルドに聞いてください。」


「不正ではないんだろう?」


「ええ、勿論です。」


「ならばいい。よしそれじゃあ、正式にようこそアルレルヘ。」


俺は会釈して門を後にした。







さぁ、仕事だ。冒険者ギルド2か目。

俺が入ったらどうなるかバッチリ予想しながら扉を開ける。


俺の姿を見た瞬間その場の6割ぐらいが黙る。ちょっと予想と違うな。


「おいガキ。何しに来た。」


絡んできたのはモヒカンの男。それ以外の黙らなかった奴やニヤニヤしている奴は様子見か。あぁ、そうか。こいつらは昨日の俺がいた昼と夜どちらにもいなかった奴か。


「おい、答えろよ。」


「何故だ?答える必要がないと思うが。」


「冒険者なんだから先輩に挨拶するのは当然だろ?」


「俺が聞いた話だと冒険者偉いのは強い奴だった気がするが。」


「そうだ。だから挨拶は当然だろ。」


「あぁ、納得いった。お前もアレと同じタイプか。相手の実力を見誤り早死にするタイプ。」


「なっ!このガキ。」


ハァ。これ二日目なんだが。


「ギャァァォァァァ!?」


昨日と違うところと言えばすぐに気づいたことか。俺がやることは変わらないが。


「その床。また血塗れになったな。自分の血ぐらい掃除しとけよ。」


「んでだよ!やったのお前だろ!」


「知らないのか?俺の場合正当防衛になる。全ての責任はお前にある。」


くだらねぇ。テンプレは好みだが、長くなると面倒になる。このくだりも昨日と同じ。


男を放って掲示板に行く。掲示板の前にいた奴は分かってる人間みたいで、さっと離れていった。この効果は便利だな。重宝しそう。


Dランクの依頼を適当に見繕って持っていく。この時間だと3件ご限界か。


「受付をお願いします。」


「はい。あの、いくらなんでもやりすぎではないですか。冒険者にとって四肢は命ですよ!」


・・・この人間もか。まーた昨日いなかったな。というか昨日は夜だけいたのがいて、今日は昨日いなかったのがいるって何人でシフト回してんだよ、破産するぞ。


「今その話は関係ないでしょう。早く受理してください。」


「関係なくありません!私は冒険者ギルド職員として、」


「そこが間違ってるんですよ。ギルドは中立。冒険者どうしの争いについても中立。禁止しているのはギルド内の殺人のみ。あなたが、しているのは紛れもない越権行為ですよ。」


「でも!」


「そこまでよ。」


割って入ってきたのは昨日の受付担当さん。通称、有能さん。


「その方の言う通りです。あなたがしていることは明らかな越権行為です。レイさん、申し訳ありません。早急に受理致します、はい、受理しました。それではお気をつけて。」


仕事早すぎだろ。受理致します、から2秒たってないぞ。


「しかしチーフ!」


・・・どうやら有能さんはチーフらしい。そりゃこんだけ仕事できれば出世するよな。


俺は、まだ言い争っているのを無視し出口へと歩いていった。







「よし。」

さっきので依頼は全部だ。Dランクの討伐依頼3件で21000エス。よくこれで破産しないな冒険者ギルド。もしかしたら、1円=1エスだが、元々の通貨料は多いのかもしれない。


終わったところで熊を取り出してみることにする。1日だが生だから時間経過ありなら腐り始めているはず。

んで、取り出した結果、何と腐ってない。これでほぼ万能が確定したな『収納』。

じゃ、今日は熊含めて素材も売るから解体でも、あ


やっべ。俺武器屋いってない。しかも服屋にも行ってない。ただ今の時間ならどっちも行って間に合いそうだから思い出してよかった。

全部仕舞った後に、急ぎ目で町へ向かった。




服屋では昨日買ったものと似たような服を何着か(ちょっと色は変えた)。武器屋では普通の長剣(西洋モデル)と解体用のナイフを買った。おかげでもう手持ちがない。今日の報酬にかけるしかない。


で、ギルド前。

もう、いい。

扉を開け足早に受付に。あとちょっと。

そして、到着。


おお、絡んでくるやつはいなかった!感動ものだ!えっ?受付?問題ないよだって有能さんだから。


俺は確認を手早く終わらせ、報酬を受け取る。次は、素材の買取だ。いくらになるか。


「全部で7500エスになります。」


おお。報酬には劣るもののかなりの値段だ。これはホクホク顔で帰れそうだ。さっさと帰ろう。




ホクホクで小枝亭に帰ったら頬を膨らましているお嬢様がいた。


「おそい。」


なんと、まだ最後の鐘もなってないのに遅い判定らしい。


「悪かったって。今日は寝る時間まで話してやるからな。」


「お、言ったなあんちゃん。ちゃんと守れよ?」


どっからわいたんだこの亭主は。


その後、無事機嫌を直したフォアちゃんと亭主さんと家族団欒と言われる時間をすごした。





フォアちゃんがギリギリの時間までごねていたのはご愛嬌だ。










 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る