第7話 賢しき少女
ギルドでの一件のせいで長かったがようやく一息つける。
今いるのは『小枝亭』という宿だ。チェックインにしてはかなり遅い時間にも関わらず、受け入れてくれたところだ。大通りにあるという訳ではないが、綺麗に保たれていて食事も美味かった。このクオリティで1泊2食つき3000エス。言ってみたが高いのか安いのか分からんな。おそらく安い。
美味しい食事に満足しながら部屋にきた俺は、さっそくベッドに倒れ込む。今は早く寝たい。
こうして異世界初日はすんなり眠ることができた。
◇
「・・・ん」
目を開けると見慣れない天井があった。そうだった、異世界に来たんだったな。
閉じようとする目を擦りつつ、体を起こす。あー、俺着替えずに寝たな昨日。やべ、替えの服買うの忘れてた。今日も服屋に行かないとな。
2階から1階へ降りていく。『小枝亭』は1階が受付と食堂、2階が客室になっている。
「おう、あんちゃん。起きたか。」
「はい。おはようございます。」
そう声をかけてきたのはここの亭主、ワーデンさん。ギルマスには劣るがかなり体格のいい人だ。昨日チラッと聞いた話によると、なんと従業員を雇わず1人で切り盛りしていると。すげぇな。
「どうだ?うちの部屋は。かなり過ごしやすかったろ?」
「えぇ。特にベッドは絶賛ものでした。フカフカすぎてすぐ寝ちゃいましたよ。」
「だろ?うちの自慢のひとつなんだ。これと食事がうちの売りだな。」
「そうですね。その点は無条件で同意できます。で、お客さんは。」
「・・・あんちゃん以外入ってねぇよくそが。」
そう、この宿にはもっと客が入って良さそうなのに、全く入っていない。
・・・昨日聞いたとき思ってしまったが客が入らない原因ってこのひt
「あ?あんちゃん、何か失礼なこと考えてねぇか?」
「気のせいじゃないですか?」
「そうか?まぁいい。朝メシ、食うだろ?」
「はい、お願いします。」
当然、料理を作るのはこの人だ。いや、宿の経営管理もして、厨房にも立つって。すげぇな(2周目)。
食堂の席について待っていると、何やら視線を感じた。周りを見ると、厨房の方から子供がこっちを見ていた。
誰だあれ?亭主さんによると他に客はいない。となると、
そう考えているとその子がこっちにやってきて、ジッと見つめてくる。
「?」
「・・・・・・」
「???」
えっと、何この子。何も言わないし見つめてくるだけ。まさか、
「へい、お待ち。今日の朝メシ・・・何やってんだお前ら。にらめっこか?」
この亭主、自分な説明責任があることに気づいてないな。その上、亭主には問いたださなければならないことがある。
「亭主さん。もしかしてこの子のこと誘拐してきたんですか?」
「んな訳あるか!その子は俺の娘だよ。名前はフォア。普段店の手伝いしてるんだよ。」
「へー。娘さんがいるんですね。意外でした。」
「どういう意味だ?」
「亭主さんみたいな人を貰ってくれる人がいたんだなぁ、と。」
「おい、ほんとにどういう意味だコラ。ったく、ほらさっさとメシ食え。冷えるぞ。」
「そうですね。いただきます。」
「お前マジで・・・。」
亭主さんが何か言いたそうにしているが無視だ無視。さっさと食べてしまおう。
と考えて食事に手を伸ばそうとしたところ、
「あの、」
「ん?」
「な!?」
フォアちゃんが声をかけてきた。亭主さんが驚いているが、いったい?
「すわってもいいですか?」
たどたどしい声でそう聞いてくる。座るって横にか?
「構わないよ。」
そう言うとフォアちゃんは動き出す。そういやイスないけど。
と思ったら俺の足の上に乗ってきた。なぜ?
「な!?」
また亭主さんが驚いている。さっきから過剰過ぎないか?いや2回目は分かるけど。
「あの、フォアちゃん?」
「なんですか?」
「いや、あんまり人の足の上に乗るのはよろしくないよ。」
「なんでですか?」
「何でって。世の中には悪い人がいるものだから。」
「でもおにいちゃんはやさしいひとですよね?」
何この子。おぼつかない喋り方なのになんで敬語?その前に初対面だよね?そんな信頼しちゃっていいの?
俺は助けろの意味をこめて亭主さんを見る。
「亭主さん、いい加減固まってないで助けてください。」
「あぁ、すまん。フォアがそんなに懐いているのを見るのは初めてでな。フォア、お兄さんご困っているから降りなさい。」
「やだ。」
「ぐ・・・。」
やだって、なんでや。んで亭主さん、あなた娘に逆らえないタイプの人間ですか?
「あんちゃん、すまんがそのままでいてやってくれ。今までフォアがそこまで懐くのは、いやそもそもそんなに人と接するのは初めてだ。その子にとって何かあるのかもしれん。分かってると思うが、変なことはするなよ。」
「しませんよ。勿論です。」
さて、承諾したもののどうしよこれ。
「えっと、フォアちゃんは嫌じゃないの?」
「うん。これがいいです。」
俺はフォアちゃんとちょっとずつ会話しながら食事を進めた。
◇
「ごちそうさまでした。」
朝メシを食べ終わって、立ち上が・・・れない。
「えっと、フォアちゃん?もう行くからどいてくれる?」
「や」
さて、どうしたものか。動きたいが動けないという世にも珍しい出来事が起こっている。持ち上げようと思えば持ち上げける。と思ってさっき持ち上げたら、泣きそうな顔でこっち見られた。すぐおろしたよね元の位置に。
困っていると、亭主さんがやってきて
「はは!盛大に懐かれてんな。」
「そう言ってないでどうにかしてくださいよ。亭主さん的にも困るでしょう?」
「そう言うな。俺は娘の珍しい姿が見れて大満足だ。だが、」
亭主さんは上を向いてためを作ってから
「娘はやらん。」
とか言いやがった。
「何言ってるんですか。フォアちゃんまだ8歳でしょう?」
話の中でフォアちゃんのいろんなことが聞けた。好きな食べ物とか、亭主さんのやらかしとか。その本人は今コアラみたいになってるんだけど。
「フォアちゃん。」
「や」
「まだ何も言ってないんだけど。まあ、聞いて。今から俺はやることがあるんだ。」
それが?という顔をみせるフォアちゃん。こういうところは歳相応か。
「仕事してる亭主さんのことどう思う?」
「すごい。」
「でしょ?だから俺もそうあるために行かなきゃ。それにまた夜は会えるよ。」
話していて分かったことのひとつが、この子は相当賢いということだ。8歳でこれならたぶん理解してくれるはず。
「分かった。」
「ありがとう。」
お礼に頭を撫でる。賢い子だが、歳相応の甘えたがりであることも。
「すまねえな、あんちゃん。」
「いえ。かまいませんよ。話していて面白かったですし。」
「そうか。客にこんなこと言うのもアレだが、今日も泊まっていってくれねえか?フォアの為にも。宿代は安くしとくぜ。」
「もともとここに居座るつもりだったのでかまいませんよ。あと宿代はそのままで結構です。俺しか客いないんだから、安くするとつぶれますよ?」
「一言余計だ。」
俺たちが笑っているのを見て、フォアちゃんが笑っていたような気がする。
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〈あとがき〉
変ですね。この話で世界設定とかまで行けるはずだったのですが。
いつの間にか宿屋の話だけで3000字近く言ってました。
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