第7話 賢しき少女

ギルドでの一件のせいで長かったがようやく一息つける。


今いるのは『小枝亭』という宿だ。チェックインにしてはかなり遅い時間にも関わらず、受け入れてくれたところだ。大通りにあるという訳ではないが、綺麗に保たれていて食事も美味かった。このクオリティで1泊2食つき3000エス。言ってみたが高いのか安いのか分からんな。おそらく安い。


美味しい食事に満足しながら部屋にきた俺は、さっそくベッドに倒れ込む。今は早く寝たい。

こうして異世界初日はすんなり眠ることができた。



 







「・・・ん」


目を開けると見慣れない天井があった。そうだった、異世界に来たんだったな。


閉じようとする目を擦りつつ、体を起こす。あー、俺着替えずに寝たな昨日。やべ、替えの服買うの忘れてた。今日も服屋に行かないとな。


2階から1階へ降りていく。『小枝亭』は1階が受付と食堂、2階が客室になっている。


「おう、あんちゃん。起きたか。」


「はい。おはようございます。」


そう声をかけてきたのはここの亭主、ワーデンさん。ギルマスには劣るがかなり体格のいい人だ。昨日チラッと聞いた話によると、なんと従業員を雇わず1人で切り盛りしていると。すげぇな。


「どうだ?うちの部屋は。かなり過ごしやすかったろ?」 


「えぇ。特にベッドは絶賛ものでした。フカフカすぎてすぐ寝ちゃいましたよ。」


「だろ?うちの自慢のひとつなんだ。これと食事がうちの売りだな。」


「そうですね。その点は無条件で同意できます。で、お客さんは。」


「・・・あんちゃん以外入ってねぇよくそが。」


そう、この宿にはもっと客が入って良さそうなのに、全く入っていない。

・・・昨日聞いたとき思ってしまったが客が入らない原因ってこのひt


「あ?あんちゃん、何か失礼なこと考えてねぇか?」


「気のせいじゃないですか?」


「そうか?まぁいい。朝メシ、食うだろ?」


「はい、お願いします。」


当然、料理を作るのはこの人だ。いや、宿の経営管理もして、厨房にも立つって。すげぇな(2周目)。


食堂の席について待っていると、何やら視線を感じた。周りを見ると、厨房の方から子供がこっちを見ていた。

誰だあれ?亭主さんによると他に客はいない。となると、


そう考えているとその子がこっちにやってきて、ジッと見つめてくる。


「?」


「・・・・・・」


「???」


えっと、何この子。何も言わないし見つめてくるだけ。まさか、


「へい、お待ち。今日の朝メシ・・・何やってんだお前ら。にらめっこか?」


この亭主、自分な説明責任があることに気づいてないな。その上、亭主には問いたださなければならないことがある。


「亭主さん。もしかしてこの子のこと誘拐してきたんですか?」


「んな訳あるか!その子は俺の娘だよ。名前はフォア。普段店の手伝いしてるんだよ。」


「へー。娘さんがいるんですね。意外でした。」


「どういう意味だ?」


「亭主さんみたいな人を貰ってくれる人がいたんだなぁ、と。」


「おい、ほんとにどういう意味だコラ。ったく、ほらさっさとメシ食え。冷えるぞ。」


「そうですね。いただきます。」


「お前マジで・・・。」


亭主さんが何か言いたそうにしているが無視だ無視。さっさと食べてしまおう。

と考えて食事に手を伸ばそうとしたところ、


「あの、」


「ん?」


「な!?」


フォアちゃんが声をかけてきた。亭主さんが驚いているが、いったい?


「すわってもいいですか?」


たどたどしい声でそう聞いてくる。座るって横にか?


「構わないよ。」


そう言うとフォアちゃんは動き出す。そういやイスないけど。

と思ったら俺の足の上に乗ってきた。なぜ?


「な!?」


また亭主さんが驚いている。さっきから過剰過ぎないか?いや2回目は分かるけど。


「あの、フォアちゃん?」


「なんですか?」


「いや、あんまり人の足の上に乗るのはよろしくないよ。」


「なんでですか?」


「何でって。世の中には悪い人がいるものだから。」


「でもおにいちゃんはやさしいひとですよね?」


何この子。おぼつかない喋り方なのになんで敬語?その前に初対面だよね?そんな信頼しちゃっていいの?


俺は助けろの意味をこめて亭主さんを見る。


「亭主さん、いい加減固まってないで助けてください。」


「あぁ、すまん。フォアがそんなに懐いているのを見るのは初めてでな。フォア、お兄さんご困っているから降りなさい。」


「やだ。」 


「ぐ・・・。」


やだって、なんでや。んで亭主さん、あなた娘に逆らえないタイプの人間ですか?


「あんちゃん、すまんがそのままでいてやってくれ。今までフォアがそこまで懐くのは、いやそもそもそんなに人と接するのは初めてだ。その子にとって何かあるのかもしれん。分かってると思うが、変なことはするなよ。」


「しませんよ。勿論です。」


さて、承諾したもののどうしよこれ。


「えっと、フォアちゃんは嫌じゃないの?」


「うん。これがいいです。」


俺はフォアちゃんとちょっとずつ会話しながら食事を進めた。






「ごちそうさまでした。」


朝メシを食べ終わって、立ち上が・・・れない。


「えっと、フォアちゃん?もう行くからどいてくれる?」


「や」


さて、どうしたものか。動きたいが動けないという世にも珍しい出来事が起こっている。持ち上げようと思えば持ち上げける。と思ってさっき持ち上げたら、泣きそうな顔でこっち見られた。すぐおろしたよね元の位置に。

困っていると、亭主さんがやってきて


「はは!盛大に懐かれてんな。」


「そう言ってないでどうにかしてくださいよ。亭主さん的にも困るでしょう?」


「そう言うな。俺は娘の珍しい姿が見れて大満足だ。だが、」


亭主さんは上を向いてためを作ってから


「娘はやらん。」


とか言いやがった。


「何言ってるんですか。フォアちゃんまだ8歳でしょう?」


話の中でフォアちゃんのいろんなことが聞けた。好きな食べ物とか、亭主さんのやらかしとか。その本人は今コアラみたいになってるんだけど。


「フォアちゃん。」


「や」


「まだ何も言ってないんだけど。まあ、聞いて。今から俺はやることがあるんだ。」


それが?という顔をみせるフォアちゃん。こういうところは歳相応か。


「仕事してる亭主さんのことどう思う?」


「すごい。」


「でしょ?だから俺もそうあるために行かなきゃ。それにまた夜は会えるよ。」


話していて分かったことのひとつが、この子は相当賢いということだ。8歳でこれならたぶん理解してくれるはず。


「分かった。」


「ありがとう。」


お礼に頭を撫でる。賢い子だが、歳相応の甘えたがりであることも。


「すまねえな、あんちゃん。」


「いえ。かまいませんよ。話していて面白かったですし。」


「そうか。客にこんなこと言うのもアレだが、今日も泊まっていってくれねえか?フォアの為にも。宿代は安くしとくぜ。」


「もともとここに居座るつもりだったのでかまいませんよ。あと宿代はそのままで結構です。俺しか客いないんだから、安くするとつぶれますよ?」


「一言余計だ。」


俺たちが笑っているのを見て、フォアちゃんが笑っていたような気がする。










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〈あとがき〉

変ですね。この話で世界設定とかまで行けるはずだったのですが。

いつの間にか宿屋の話だけで3000字近く言ってました。




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