Day29「焦がす」

 何と! 廊下の向こうに見えるのは村雨さんの背中ではありませんか。


 走り寄りたいところをぐっと堪えて、早歩きで近づく。

 廊下走るの禁止。転倒ダメ絶対。


「村雨さん。おはようございます」


 極力小声のつもりだったが、驚かせてしまったらしい。村雨さんはびくりと体を震わせた。


 これはなかなかにレアなお姿。


「おはようございます、今里さん」


 ふおお、朝のイケボはまた効きますなあ、なんて悶えるわたしを、村雨さんは何故かじっと見つめてきた。


 え、そんな熱烈な視線初めて。

 焦げる、わたしの中の何かが焦がされる! 視線で!


「む、村雨さん?」

「あなたは」


 言いかけて、慌てて口元を手で押さえた村雨さん。



 レアなお姿、放出しすぎじゃありません?

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