Day30「色相」

 あの日以来、自分の世界はどこか色褪せていて、眩しさを感じることはなかった。

 現実逃避のために仕事をして、外国という日本とは違う非日常なる場所へ物理的にも逃避をして、やっと色々飲み込んで日本に帰ってきても、世界の色彩は変わらなかった。


 そう、思っていたのに。


「む、村雨さん?」


 声を上擦らせながらも、じっとこちらを見つめてくる今里さんを見下ろして気付く。


 彼女と出会ってもうじき四か月。珍獣のような彼女のいる日々は本当に色褪せていただろうか。

 眩いほど賑やかではかっただろうか。


「あなたは」


 こんな面倒な男を変えてしまったのか。


 こんな僕でも。


「好きだと言うんですか」



 無意識に零れた言葉が届く前に僕は口元を押さえた。

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